[要旨]
経営者の方の中には、融資を受けるべきではないと考えている方は少なくありません。確かに、多額の融資を抱えて倒産した会社はありますが、その原因は融資を受けていたことではなく、事業そのものに問題があったことが原因です。したがって、融資を受けることが事業の失敗の要因であるという誤った前提で、融資を受けないと経営者が判断した会社は、ビジネスチャンスを逃すことになる可能性が高くなります。
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今回も、前回に引き続き、税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。児玉さんは、無借金経営に関し、誤った考え方をしている経営者が少なくないと指摘しておられます。「無借金経営を理想と考えている社長は少なくありません。成功した会社経営者や、経営コンサルタントが無借金経営を推奨しているからです。しかし、無借金経営は結果論なのです。無借金経営を勧めている人も、昔は借金をしていたのです。
いまは成功して、借金する必要がなくなったから、『無借金経営はすばらしい』と言っているのであって、借金をしなかったから、成功できなかったわけではありません。本当は、借金のおかげで成功できたのに、お金がなかった頃のことは忘れてしまうようです。経営コンサルタントも、借金がなければ、安全性が高いという当然のことを言っているだけです。また、借金で苦労した人たちも、『借金はしないほうがいい』と言っていますが、別に、借金をしたから失敗したわけではなく、お金の使い方を誤ったから失敗しただけなのです」(170ページ)
私も、これまで会ってきた経営者の方の中には、すべてではないですが、融資を受けることにネガティブなイメージを持っている人が少なくありませんでした。そのような方がそう考えてしまう理由は、例えば、融資を受けて事業に失敗してしまうと、自分の住んでいる家も手放さなければならなくなるからだと思います。しかし、これも児玉さんが指摘しておられますが、融資を受けていなければ事業に失敗しなかったのかというと、そうではないということも明らかです。
例えば、東証1部上場会社であった航空会社のスカイマークは無借金経営であったにもかかわらず、2015年に民事再生法の適用を申請し、上場廃止(2022年12月14日に、東証グロースに再上場)となりました。しかし、どういう訳か、「融資を受けていたから事業が失敗する」というイメージを持ってしまう経営者は少なくありません。とはいえ、私は、すべての会社が銀行から融資を受けるべきだとは考えていません。
経営者の方の方針で、融資を受けないで事業活動を拡大していこうとすることが、必ずしも間違っているとは思いません。しかし、「融資を受けると事業に失敗する」という誤った知識に基づいて、融資を受けないという判断をしてしまうと、ビジネスチャンスを逃すことにもなります。こういった、誤った知識で方針を決めることは、ビジネスにおいてはもったいないことだと、私は考えています。
2022/12/26 No.2203