鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

資金繰の円滑化は付加価値を得ること

[要旨]

銀行から融資を受けると、自社でもうけたお金とそれが合わさってしまい、区別がつきにくくなります。そのため、事業活動で得られた付加価値が少ないと、融資返済と利息支払いができなくなります。そのため、資金繰を円滑にするには、銀行からの融資を受けるだけでなく、妥当な付加価値が得られているかどうかも管理する必要があります。


[本文]

税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読みました。児玉さんは、同書で、中小企業経営者の方にとって、資金管理が難しいと感じる理由のひとつとして、「自分のお金と、他人のお金が区別できなくなってしまう」ということをご指摘しておられます。

「借金して、預金口座にお金が振り込まれると、会社のお金と借金が合算されます。その時点から、すべてが自分のお金だという勘違いが始まります。自分のお金は、そもそも無かったのに、たくさんあるかのように錯覚して、お金を使ってしまいます。借金の返済は、毎月、有無を言わさず、預金口座から引き落とされていきます。すると、今度は、借金を返しているだけなのに、自分のお金を取られているような気分になります。お金を使って、なおかつ、借金を返済すると、お金はダブルで減っていきます。そして、厄介なのは、借金して買ったモノの価値が減少しても、借金の額は変わらないことです。

もちろん、会社は、付加価値を上げるために、借金をしてまでお金を使うわけですが、付加価値が上げられなかった場合には、借金の返済と利息の支払いだけが残ってしまいます。会社がみずから稼いだお金だけでやりくりしているだけなら、間違えることはありませんが、そこに、他人のお金が入ってくると、自分のお金を見失ってしまう危険があります。借金をうまく活用して成長している会社もたくさんありますが、借金に頼りすぎて、借金漬けになっていく会社も、中にはあります」(25ページ)

手許の現預金は、自社自身でもうけたお金なのか、融資で調達したお金なのかは、貸借対照表からある程度は把握できますが、分かりにくいものとなっています。そのため、詳細な説明は割愛しますが、資金運用表や資金移動票などを作成すると、自社の手許資金がどうやって調達されているのかが、分かりやすくなります。ただ、児玉さんのご指摘で、もっと注目したいことは、「(事業活動によって)付加価値が上げられなかった場合には、借金の返済と利息の支払いだけが残ってしまう」ということです。

会社は、銀行から融資を受けると、その後、融資元金と金利を銀行に支払って行きます。もちろん、金利の分だけ、会社が銀行に支払う金額は多くなるのですが、現在の日本の金利水準では、それは、多くても、融資元金の3%程度でしょう。したがって、融資を受けて商品を仕入れ、それを販売した代金で融資を返済するとしたら、一般的に考えて、そのことは、それほど難しくないと考えることができます。なぜなら、借りた額と返す額の差は、金利分の3%程度だからです。

ところが、「付加価値が上げられなかった場合」、銀行に支払う融資元金と金利の額の方が、販売代金の額よりも多くなるので、手許資金が少なくなってしまいます。この論理はものすごく単純なのですが、資金不足になると、銀行からの融資にだけ頼ろうとする経営者の方は、意外と多いと、私は感じています。もちろん、銀行から融資を受けることは問題ないのですが、自社の事業活動で付加価値を得ることができていれば、融資の返済も難しくなく、また、事業拡大にともなって新たに融資を受けようとする場合も、銀行からの支援も容易に受けることができるようになるでしょう。

繰り返しになりますが、資金繰を円滑にするには、銀行からの融資を受けられるかどうかだけでなく、事業活動で付加価値が得られているかどうかも重要だということです。もし、事業活動で得られる付加価値が、融資の金利よりも少なかったり、そもそも赤字だったりする場合は、追加の融資を申し込む前に、事業そのものの見直しが必要です。

2022/12/18 No.2195