鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

内部留保に課税することは矛盾がある

[要旨]

日本の会社の内部留保の額が、過去最高を更新し、約516兆円となったことなどから、内部留保に課税すべきという意見を聞くことがあります。しかし、それは、法人税率を引き上げることと同じであることから、内部留保に課税すべきと主張する人は、会計に関して深く理解していないことによる、誤った主張と言えます。


[本文]

作家の冷泉彰彦さんが、11月1日に配信したメールマガジンで、内部留保に関して解説しておられました。財務省が公表している法人企業統計調査によれば、2021年度の日本の企業(金融・保険業を除く)の内部留保は、約516兆円で過去最高となっていることから、しばしば、それに対して課税したり、従業員の賃金を増やすための原資にあてたりすべきという意見を耳にします。

でも、そのような意見には誤解があり、これについて冷泉さんは、次のように書いておられます。「1万円の商品を100万個販売して、100億円を売り上げた場合に、10億円が儲かったとします。この10億円をどうするかというと、一部は配当として株主に行きます。また、この利益の中から法人税も払わねばなりません。その後で、仮に4億円が残ったとします。

そのように100億円売り上げて4億円を残すということを、例えば5年続けたとすると、4かける5で20億円になります。これが内部留保です。つまり、儲かったカネを企業が溜め込んでいるとか、銀行に作った法人名義の口座にキャッシュがどんどん積み重なっている、そんなイメージです。こうしたイメージがあるために、『内部留保に課税しろ』という声が出てくるわけです」

実は、「内部留保に課税すべき」という主張には矛盾があります。ただ、そのような主張をする人は、当然、その矛盾に気づいていないから、内部留保に課税すべきと考えるのでしょう。では、その矛盾とはどのようなものかというと、まず、冷泉さんが前述の例で説明しておられるように、会社の利益の4億円が積み上がると内部留保になります。

その4億円とは、10億円の儲けから、配当金と税金を支払った残りです。さらに、その4億円に税金をかけるのであれば、10億円の儲けに対する税率を引き上げるのと同じことになります。この矛盾はとても単純なことなので、それに気づかない人は、そもそも、内部留保の意味を理解しておらず、「内部留保」という言葉のイメージだけで課税すべきと主張してしまっているのでしょう。

もし、儲けが多い会社にはたくさん課税すべきという考え方に基づいて、その通りにしようとするのであれば、わざわざ、「内部留保に課税すべき」と主張せず、「法人税率を引き上げるべき」と主張すればよいわけです。私は、会社にどのように課税すべきかということについては、様々な意見があってもよいと思うのですが、会計に関して深く理解せず、イメージだけで判断して意見を主張することは避けなければならないと思います。

2022/11/26 No.2173