鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

浮き貸しと背中合わせの銀行職員

[要旨]

1998年に銀行職員が顧客を殺害するという事件がありましたが、これは、銀行職員が違法な浮き貸しをしたことの発覚を隠そうとしたことによるものです。この事件が起きた背景には、景気後退局面で融資をしにくい環境にあって、銀行職員が顧客と銀行の板挟みになったことがあります。


[本文]

かつて、私が、地方銀行に勤務していて、埼玉県内の支店に配属されていたとき、同じ地域にあった大手銀行の支店の職員が、顧客を殺害するという事件がありました。(ご参考→ https://bit.ly/3XlB2gf )事件の概要は、その銀行職員が担当していた会社から融資の依頼を受けたものの、その会社は業績が悪化していて融資が困難な状況だった。しかし、何らかの理由で融資を断り切れず、その職員が担当していた別の預金者を欺いて、その預金者の預金をその担当者が引き出して、融資を依頼した会社に融通した。

ところが、その会社が倒産し、融通した資金が回収できなくなったが、一方、預金者からは預金の返済を求められたので、その職員は、預金者を殺害するに至ったというものです。もちろん、殺人が違法であるということは言及するまでもありませんが、預金者の預金を別の顧客に融通するという行為は、出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)の第3条で禁じられている「浮き貸し」にあたります。

私は、この事件については、部外者の立場としての情報しか持っていませんが、事件が起きた地域は、私の勤務地と同じだったので、自分も同じ立場に立たされる可能性があったかもしれないと感じ、大きな衝撃を受けました。ところで、今回、この事件を記事にした理由なのですが、事件を起こした職員は、自らの欲を満たそうとしたことが動機ではない事件っだということを伝えたかったからです。一般的に、銀行職員の浮き貸しというと、銀行職員が、その立場を利用して、資金を融通した相手から手数料などを受け取ることを目的にしています。

しかし、この事件は、融資を断り切れずに追い込まれた職員が、その場を取り繕うために浮き貸しをしてしまい、その結果、殺人に発展したということです。もちろん、理由は経緯はどうであれ、犯罪はあってはならないものなのですが、銀行職員は、ちょっとでも気を緩めると、罪を犯してしまいかねない環境で働いているという点で、たいへんな職業でもあると、私は考えています。ちなみに、現在は、銀行職員が受けた融資申し込みは、受けるかどうかの如何にかかわらず、すべて記録しておくようにしている銀行が多いようです。こうすることで、ひとりの担当者が融資案件を抱え込まないような仕組みがとられています。

2022/11/24 No.2171