鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

否定論は既存の定義を前提としたもの

[要旨]

鈴木さんは、セブンイレブンでおにぎりやお弁当を販売しようとしたときや、セブン銀行を設立しようとしたときに、周囲から反対を受けました。しかし、それらの反対は、それらの商品を既存の定義を前提としていたため、妥当なものではありませんでした。しかし、既存の製品であっても、顧客の潜在的ニーズに応えられるようにすることで、鈴木さんはヒット商品を創り出してきました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、鈴木敏文さんのご著書、「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。鈴木さんは、顧客の潜在的ニーズに応えるためには、未来の可能性に目を向けることが大切だと述べておられます。「みんなが賛成することは、たいてい、失敗し、逆に、みんなが反対することは、たいてい、成功します。(中略)おにぎりや弁当の販売の例では、初めは、『おにぎりや弁当は、家でつくるものが習慣だから、売れるわけがない』と反対されました。

それに対し、私は、材料の質と味のよさを徹底的に追及して、家庭でつくるものと差別化していけば、お客様は『コンビニでおにぎりや弁当を買う』という、これまでにない体験に、利便性という価値を見出すだろうと、未来の可能性が見えたことで、販売を始めました。セブン銀行を設立するときも同様でした。流通業が自前の銀行を設立するという、前代未聞のプロジェクトに対し、金融業界を中心に、『銀行が、次々、経営破綻している中で、新規参入しても、絶対無理だ』、『銀行のATMも飽和状態にあるのに、収益源がATMだけで成り立つはずがない』という否定論が沸き上がりました。

(中略)否定論は総じて、銀行についての既存の定義を前提としたものでした。一方、私は、『コンビニにATMがあったら、お客様にとって利便性が飛躍的に高まる』という未来の可能性が見えたことから、決断しました」(153ページ)鈴木さんの、「否定論は総じて、銀行についての既存の定義を前提としたもの」という言葉は、とても印象的です。おにぎりや弁当も同様で、単に、昼食を提供するだけの商品としてとらえれば、セブンイレブンで販売したとしても、競争力は高くないでしょう。

でも、普段は味わうことができないおいしい食べ物を、お弁当として、近所にあるコンビニエンスストアで買うことができるとすれば、競争力は飛躍的に高くなります。ただ、このような発想は、コロンブスのたまご的なもので、鍛錬しなければできないことでしょう。優秀な経営者になるには、鈴木さんのような、優れた発想が必要だということを感じました。

2022/11/11 No.2158