[要旨]
鈴木敏文さんが、米国のセブンイレブンの事業再生を行ったときは、従来は、従業員の方は、マニュアル通りに動くことを求められていたのに対し、従業員の方に権限を持たせ、発注業務を担ってもらいました。このことで、従業員の方たちのモラールが高まり、そのことは業績を高める大きな要因になりました。
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今回も、前回に引き続き、鈴木敏文さんのご著書、「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。鈴木さんは、顧客体験価値を高めるには、従業員体験価値(エンプロイー・エクスペリエンス、EX)を高めることも大切だと述べておられます。
「経営破綻した、アメリカのセブン-イレブンの店舗では、それまで、パートタイムのワーカーは、マニュアル通りに動くよう求められ、発注のような重要な仕事は絶対に任せることはできないと考えられていました。レジのPOSシステムも、もっぱら、打ち間違いや不正を防止する目的で使われていたほどです。これに対して、私は、再建のためにアメリカに行って、発注こそ店の特権であるということを繰り返し訴え、単品管理を実行していく体制へと、それまでの体制から180度切り替えしました。その結果はどうなったかというと、発注を任されてから、従業員たちは目を見張るような働きを見せ始めます。
自分が発注した商品がどれだけ売れたか、出勤日ではない休みの日にも店に電話をかけて聞いてくるようになりました。店に電話したからといって、給料が増えるわけではありません。しかし、自分の責任で商品を発注すれば、売れ行きがどうなっているか関心が沸き、仮説通りに多く売れれば、やりがいが生まれます。(中略)これは、パートタイマーにとって、それまでは、『単なる作業』しか担当させられていなかったのが、『本当の仕事』を任せられるようになったことを意味します。収益の改善は、そうした現場でのスタッフの働き方の変化が大きく貢献しました」(146ページ)
マニュアル通りの仕事だけを求められるよりも、権限を与えられ、自分の判断で仕事をし、その結果が会社の収益につながっているということが実感できれば、職位がパートタイマーであっても、モチベーションが高まり、そのことが会社全体の業績を高めるということは容易に理解できます。ちなみに、この本では、従業員体験価値という言葉が使われていますが、鈴木さんが説明されていることは、従業員満足度と、ほぼ同じ内容だと思います。
話を戻して、従業員満足度を高めることで顧客満足度も高まり、そのことで、さらに業績が向上するということは、ほとんどの方がご理解されると思いますが、経営者の方から見れば、従業員満足度を高めることは、必ずしも容易なことではないと思います。その要因はさまざまなものが考えられますが、最大の要因は、従業員の方が自立的に活動に臨むようになるまでには、時間や費用がかかるからだと思います。ただ、時間や費用がかかるからこそ、その効果も大きいものとなりますし、現在は、勝つための競争力は、それくらいの水準が求められているということなのだと思います。
2022/11/10 No.2157