鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

商品の絞り込み戦略が成功した要因

[要旨]

八天堂は、倒産の危機に立った後、商品をくりーむパンに絞り込むという、リスクの大きな戦略をとり、それを見事に成功させたことから、著しく事業が拡大しました。そのような、果敢にリスクの高い戦略に挑んで成功できた要因として、コミュニケーションの確保や、毎月の業況の確認など、基本的な事業運営を疎かにしなかった、森光さんの真摯な姿勢があげられます。


[本文]

今回も、八天堂の社長、森光孝雅さんのご著書、「人生、今日が始まり『良い品、良い人、良い会社つくり』への挑戦」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。その経緯については書かれていないのですが、森光さんは、八天堂の商品を、現在、同社の代名詞にもなっている、「くりーむパン」だけの製造に絞り込みをしました。結果として、その判断は、同社の事業を拡大させることになりました。「過去に、私自身が立ち向かった、最も大きな挑戦は、『くりーむパン』1種類の製造に絞り込んだことだったと思います。

第2章で、(同社が倒産寸前の危機に立った時)たくさんの人にご迷惑をおかけし、ひどく叱られたこともあると述べましたが、お世話になった方々を、ある意味、裏切るような形になってしまい、本当に心苦しく感じたものでした。しかし、私は、たとえどんなことが起きても、やり切る決意をしていました。大きな挑戦に大きなリスクがともなうのは、むしろ、当たり前のことです。リスクを恐れていては、大きな挑戦をすることはできません。

次々と、既存の商品の製造を中止し、『くりーむパン』のみに絞り込んでいたとき、恐らく、周囲の多くの方々は、うまくいくとは思っていなかっただろうと思います。しかし、私は、社員たちの、超人的な頑張りに支えられながら、東京進出以来、お世話になっている、生産者直売のれん会の方々のご協力もあって、商品を、『くりーむパン』1種類に絞るという、ハイリスクな『挑戦』をやり遂げることができたのです」

この森光さんのとった戦略は、商品市場をくりーむパンひとつに絞り込んだわけですが、これは、ランチェスター第一法則(弱者の戦略)の典型例だと思います。したがって、まったく無鉄砲な、勝算がないという戦略だったわけではないと、私は考えているのですが、でも、森光さんも述べておられる通り、リスクは決して低くはないということも確かでしょう。

仮定の話ですが、同社が、商品をくりーむパンへ絞り込みをする前に、森光さんから私がコンサルタントとして相談を受けたとしたら、商品を絞り込むこと自体は否定はしませんが、時間をかけて、徐々に商品を絞り込んでいった方がよいのではないかと助言をしたと思います。でも、結果から分かるとおり、同社は商品の絞り込みが大成功し、現在では、同社の売上高は20億円を超えているようです。

とはいえ、これも森光さんが述べておられるとおり、森光さんもリスクが大きいことを承知の上で挑んだ結果だと思います。そして、そのリスクを乗り越えて商品の絞り込みが成功した要因のひとつは、前回の記事でご紹介したように、森光さんは、会社内のコミュニケーションを活発にして、従業員の方のベクトルを揃えていったことだと思います。

もうひとつの要因は、これも前々回の記事でご紹介したように、月次で業績を確認していたことだと思います。このことにより、もし、問題が発生しても、迅速な対応をすることができるので、リスクを軽減することができます。このように、事業を営むことは、リスクにどう向き合うかということだと思います。すなわち、森光さんが、果敢にリスクの高い戦略に挑んで成功できた要因としては、コミュニケーションの確保や、毎月の業況の確認など、基本的な事業運営を疎かにしなかった、森光さんの真摯な姿勢があげられると、私は考えています。

2022/10/23 No.2139