[要旨]
受注は、顧客の欲しいものを提供することであるのに対し、ソリューションは、顧客自身が把握していない問題や解決方法を見つけ出して、提供することです。したがって、ソリューションを提供することによって、大きな価値を創造することが可能になりますが、当然、そのためには、高度な人材を育成することが、経営者に求められることになります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。高橋教授は、価値創造に関連し、ソリューションとはどのようなものかについてご説明しておられます。「ところで、ソリューションというのは、単なる受注とは、どこが違うのだろうか。顧客が、自分のほしいものを明確に理解している場合は、そのスペックを満たす商品やサービスを、テーラーメイドでつくり、それを価値として顧客に提供すればいいが、これを、受注、あるいは、オーダーメイドという。
一方、顧客は、ビジネス上の問題があることだけは自覚しているが、どうすればそれが解決するかまではわかっていない、あるいは、問題の本質、所在さえも、正確に認知できていない場合は、まず、顧客が問題点を把握する手助けをして、次に、その問題の具体的な解決方法と、それに必要な商品やサービスを提案し、納入するという手順を踏まなければならないが、これがソリューションである。このとき、顧客が欲しいものは、特定の商品やサービスそのものではなく、問題の解決そのものであるというのが、ソリューションビジネスの特徴である。
また、顧客自身が、問題や解決策を知っているわけではないのだから、顧客の要求やわがままを、一生懸命、聴き取り、そのとおり叶えてやったとしても、それは、混乱を誘発するだけで、本当の価値創造にはつながらないだろう。こうしたことも、ソリューションビジネスの場合は、気をつけなければならない。ちなみに、顧客が見たことのないものを探してきて、提供するコンサルタントという仕事は、まさに、このソリューションビジネスの代表といえる。『顧客は見たことがないものは欲しがることはできないのだから、何が欲しいか聞いてはいけない、お前が見せてやるんだ』という指摘は、筆者がマッキンゼーに入社して間もないころに、大先輩に言われた一言だ」(31ページ)
「何が欲しいかを顧客に聞いてはいけない」という条件は、かつて、コンサルタントであった、高橋教授の課題でもあったようです。ところで、「ドリルの穴理論」は、ビジネスパーソンの方なら誰でもご存知だと思います。ドリルを買う人は、ドリルが欲しいのではなく、「穴」ということですが、これは、ドリルという「もの」ではなく、穴をあける「機能(こと)」を欲しいのであって、すなわち、ビジネスで成功するには、「もの」ではなく、「こと」を売らなければならないということですが、ソリューションは、さらに、「顧客が見たことがない」解決策を提供しなければなりません。
だからこそ、ソリューションを提供しなければならないコンサルタントは、やりがいのある仕事だと思います。また、コンサルティング事業でなくても、コンサルタント型のソリューションを提供しようとする事業においては、それを実践できる人材育成がとても重要になります。
2022/10/1 No.2117