[要旨]
事業活動で創造する価値は、単に、ビジネスモデルから発生するのではなく、提供する商品やサービスそのものに内在していたり、接客のような顧客との接点で生まれたりします。したがって、経営者は、それらを実現できるような人材育成等の働きかけを行うことが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。高橋教授は、会社の事業活動で提供する価値を創造するにあたって、人材マネジメントの重要性が高まっているとご指摘しておられます。
「自分たちが提供する価値を、どのように定義するかは、事業ビジョンの中でも極めて重要だと言える。なぜなら、顧客や社会に対し、価値を創出し、提供できないビジネスモデルでは、中長期的に維持、発展することができないからだ。昨今、ビジネスリーダーたちの関心は、ともすれば、儲け方ばかりに向かいがちだが、仮に、一時的に儲かろうと、そこに価値想像がともなっていなければ、そのビジネスは、極めて不健全であり、不健全なビジネスでは、決して長続きしない。
だから、どのような価値を提供するかが大事なのである。また、価値というのは、単に、ビジネスモデルから発生するのではなく、提供する商品やサービスそのものに内在していたり、接客のような顧客との接点で生まれたり、ビジネスのさまざまな局面に存在する。だから、どんな価値をどのように提供するかを、組織の人間一人ひとりが意識し、どうすれば、それを生み出すことができるかを創意工夫しながら働くことが、人材マネジメントにおいて、必要になってくるのである」(28ページ)
現在は、例えば、同じ飲食店であっても、業績を伸ばしている会社と、業績が下がっている会社があることからもわかる通り、何を売っているのかで、事業が成功するのではなく、どうやって商品を提供するのかによって事業が成功するということが分かります。そこで、高橋教授は、「価値は、単に、ビジネスモデルから発生するのではない」とご指摘しておられるのでしょう。したがって、商品そのもの以外の面で価値を提供することになるわけですが、これは、ひとことで言えば、「顧客は商品ではなく、従業員を買っている」ということだと思います。
高橋教授のご著書に書かれている事例ではありませんが、例えば、アイリスオーヤマでは、売り場づくりの専門スタッフを育成して、販売店へ派遣し、その販売店の売上を増やしていったそうです。同社が業績を伸ばしている要因は、製造業であるにもかかわらず、販売を増やすための人材を育成しているからだということが分かる事例です。この事例からも、これからは、事業活動で価値を創造するためには、人材育成に注力することが、ますます重要になっていくということがわかります。
2022/9/30 No.2116