[要旨]
一般的な財務分析は教科書に書いてある通りですが、コンサルタントや銀行職員は、支援相手の会社の支援の経験を通し、ひと、もの、かねのダイナミックな動きを洞察しながら、さらに深い部分の分析を立体的に行います。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回、冨山さんは、ビジネスパーソンは簿記を学ぶべきと述べておられることをご紹介しましたが、さらに深い分析ができるようになるには、コンサルティングの経験を積むことが必要と述べておられます。
「教科書には原理原則が書いてあるが、それは間違っていないし、必要なことだから、きちんと読んでおく必要がある。だが、それですべてではない。あとは、自分自身で実地で身につけていくものである。前年比、前々年比が大事なのは、トレンドを押さえておかないと、今、何が起きつつあるのかが、傾向として見えてこないからだ。物事を立体的に見るために、過去との比較はもちろん必要だ。だが、そうした数字は、あくまで過去のものだから、今、この瞬間に、何が起きているのか、これから先、何が起きるのかを知るための材料に過ぎない。
現実の経営は、日々、ダイナミックに動いているから、過去の数字を静的に押さえるだけでは意味が無い。要するに、その数字から、あなたはこの会社をめぐる企業小説を書けるのか、ということだ。経済学(数字の物語)と社会学(人間の物語)がクロスオーバーする、立体構造の筋立てで。しかも、ただ、過去をトレースするのではなく、近未来のストーリーまで思い浮かべられるかどうかというところに、経営分析の真の目的がある」(76ページ)
私も冨山さんと同じことを感じているのですが、銀行の融資審査でも、審査する職員は、財務諸表を見た上で、今後、融資を申し込んできた会社がどうなるのか、ストーリーを描きます。では、どうすればストーリーを描けるのかというと、それは教科書に書けない暗黙知的な部分があるので、現在のところ、経験を積むしかないと考えています。
中小企業経営者の方が、よく、銀行の融資審査はブラックボックスのように感じることがあると思いますが、それは、融資審査の結論は、前述のようなストーリーを描く中で決まる要素があるからだと思います。もし、このブラックボックスの中を知りたいと思っても、銀行職員は、なかなか教えてくれないと思います。でも、「どうやって融資の結論を出したのですか?」という質問ではなく、「次回からも、当社が融資を受けられるようになるためには、どういう改善や工夫をするとよいでしょうか?」と尋ねてみると、審査をした人は、自社をどう評価しているのかを教えてくれると思います。
2022/9/23 No.2109