鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

価値のない仕事など1つもない

[要旨]

かつて、石坂産業では、人事評価制度がなかったため、昇格・昇給の基準が曖昧になっていたことから、従業員の方が不満を感じていました。そこで、同社では人事評価制度を作成し、どのようなスキルを習得すれば評価されるかを明確にしたことから、従業員の士気が向上していきました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、石坂産業の社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」を読んで、私が気づいたことについて述べます。私が、この本を読んで、石坂さんが優れた経営者であると感じたことのひとつは、評価制度を採り入れたということことです。石坂さんは、2013年に代表取締役に就任してから、賃金制度と人事評価制度を改革したそうです。

「従来の制度では、職務内容に関係なく、全社員の賃金テーブルは共通でした。そして、昇給できるのは、管理職に昇格したときであり、では、賃金アップに直結する昇格が、どう決まるのかといえば、直属の上司による評価への比重が高かったのです。そこで、改革に先立ち、全社員にアンケート調査したところ、この上司による評価基準が曖昧で、好き嫌いや年功序列的な要素で決まっていると、不満に感じる社員が多いことが見えてきました。

それでは、社員の仕事の何を評価し、賃金に反映すれば、フェアなのか、それぞれの職務におけるスキルアップではないかと、私は考えました。産廃会社の中で、最も単純な仕事とされるのは、ゴミを手作業で分別する「手選別」ですが、それにも経験と工夫を重ねることによる熟練があり、会社には付加価値を生み出します。つまり、価値のない仕事など1つもない、だから、あらゆる職務におけるスキルアップに対し、きちんと報いる仕組みをつくろうと考えました。

具体的には、賃金テーブルを職務ごとに7種類に分けました。それぞれにお職務の難易度に応じて、ベースとなる賃金水準に差があります。それと同時に、それぞれの職務の中で昇給するのに必要なスキル(技能)を、数十個ずつピックアップし、評価項目として明文化しました。そして、年1回の人事部評価の時期が来ると、まず本人が、今の自分の力量を自己評価し、それを上司と経営陣がチェックするという、3段階のスクリーニングで人事評価が決まり、賃金に反映されます」(181ページ)

石坂産業のように、中小企業で人事評価を導入している会社は、割合としては低いかもしれませんが、珍しくはありません。さらに、人事評価制度があったとしても、不公平感を完全に無くすことはできないでしょう。しかし、人事評価制度があることの意味は大きいと、私は考えています。その理由のひとつは、経営者が、従業員に何を求めているかが明確になることです。石坂産業の場合、「価値のない仕事など1つもない」という、石坂さんの基本的な考えを、人事評価制度を通じて、従業員の方に伝えることができます。

2つめの理由は、どういう仕事ができるようになれば、どれくらいの給与が得られるかがが分かるようになるので、直ちに昇給できなくても、未習得の仕事を身に付けられるようにしようという意欲を持つことが可能になります。中小企業の場合、従業員数が少ない状態では、明文化されていないルールで会社が動いていることがありますが、その状態では、経営者の方が、「自分の考えは従業員はわかってくれているだろう」と考えてしまいがちです。

しかし、従業員の方から見れば、昇給・昇格などは、社長の腹の中で決まってしまうので、自分がいくらがんばってもどうしようもないと考えてしまう恐れが高くなります。したがって、完全な人事評価制度を作ることはできないかもしれませんが、人事評価制度がある会社とない会社では、従業員の方の仕事への向き合い方は大きく異なってくると、私は考えています。

2022/9/18 No.2104