鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

存在価値のぶつかり合いを避けるには

[要旨]

会社の中で意見の対立が起きることがありますが、それは、心の深いところでは、自分の存在価値を否定されたくないという思いがあると考えられます。そのような対立は、組織に悪い影響を与えるだけでなく、組織的な意思決定をを阻害し、また、組織を決裂させることになります。したがって、お互いに、「相手から学ぶ」という姿勢を持つことが大切です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鈴木義幸さんのご著書、「未来を共創する経営チームをつくる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。鈴木さんは、誰でも自分の存在価値を認めてもらいたいという欲求を持っているが、会社の中での抗争は、役員の中に、その欲求を強く持っている人がいることが原因になっていると考えられると述べておられます。

「事業承継に絡む、父子の争いを見ることがあります。メディアはいろいろ書きたて、ストーリーを紹介しますが、本当のところ、どんな背景があって、何がおこっているかは、当人たちにしかわかりません。ただ、当事者たちの心の奥底で何が起こっているかは、想像に難くないというか、ある程度共通しているものがあるのではないかと思います。子どもが父のつくったビジネスモデルを否定し、新たなビジネスモデルを立ち上げようとする。父はそれを認めず、役員会で動議を起こされ、解任…、最近も新聞紙上を賑わせたお家騒動がありました。

繰り返し言いますが、本当のところ、何が起こったのかはわかりません。ですが、要するに、父は、“自分が作ってきたやり方”を否定されるということを通して、“自分の人生”が否定されたと感じた。一方、子どもの側からすると、父が言うままに、父がつくり上げたやり方に従うことは、やはり、自分の存在価値の否定につながってしまう。いわば、存在価値と存在価値のぶつかり合いです。もちろん、父は、『会社のために』と言うでしょう。そして、子どもの側も、『会社のために』と言うでしょう。

しかし、心の深いところでは、“自分の存在価値を否定されたくない”という思いが、ど真ん中にあるように思います。(中略)しかし、結局どちらに軍配が上がるかは、その後の環境次第で変わるでしょうし、ある程度、時間が経ってみなければわからないものです。(中略)そうなると、できることは、“自分の存在価値を守る”という思考は、少し脇に置いて、お互いに同じ方向を見ながら、一緒に考え、ものを決していくということではないでしょうか。(中略)“相手から学ぶ”という姿勢を持つことが大切になります」(226ページ)

言うまでもありませんが、社内の意見の対立は、建設的なものであれば別ですが、意地の張り合いによるものであれば、業績に悪い影響を与えることになります。また、柳井正さんも「一勝九敗」と言っているように、経営環境が不透明さを増している時代にあっては、事業が成功する確率はあまり高くないので、どちらの考えが正しいかという論争に力を注ぐよりも、早くビジネスモデルを実行し、その結果を見るということに力を注ぐべきです。

もうひとつ大切なことは、鈴木さんも述べておられるように、“相手から学ぶ”という姿勢で、意思決定をすることだと思います。これは、妥協するべき、歩み寄るべきという意味ではなく、片方が片方を屈服させることをするのであれば、組織的な意思決定ではなくなるからです。組織的な活動をしている以上、社内が決裂するような対立は避けるべきでしょう。ただし、以前、説明した、ソーシャル・コヒージョンのように、対立する意見を足して2で割るような意思決定も避けなければなりません。組織の意思決定は、なかなか難しいものですね。

2022/9/7 No.2093