[要旨]
役員のような能力の高い人は、他の人から意見を言われることを嫌う傾向にあります。役員がそのような姿勢をとることは、組織内でのコミュニケーションの妨げとなり、組織的な活動が行われにくくなります。そこで、時間がかかると感じられても、上司と部下の間で双方向のコミュニケーションが行われるよう努めることが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鈴木義幸さんのご著書、「未来を共創する経営チームをつくる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、役員たちは、お互いに貸し借りを作りたくないという思いから、他の役員に協力したり提案することを避けていることが、組織的活動の妨げになっているということを説明しました。今回は、役員間のコミュニケーションの問題について説明します。鈴木さんは、役員間のコミュニケーションについて、ソニーでは実現できていたが、それは珍しい例であると、同書で述べておられます。
「ソニー創業者の盛田氏は、ある部長としばしば議論をしたそうです。部長は思い切って自分の意見を盛田氏にぶつけるのですが、盛田氏とは決して同意に至りませんでした。そこで、業を煮やした部長が、『こんなに意見が合わないのであれば、盛田さんが私と話をする意味はないのではないでしょうか?』と質問したそうです。これに対し、盛田氏は、『何を言っているんだ、意見が合わないからいいんじゃないか、同じだったらそれこそ話す意味がないだろう』と答えたそうです。しかし、一般的には、エース人材は、自分の意見に異を唱えられることを良しとしません。また、意を唱えられることを良しとしないだろうと、相手を慮り、異を唱えないことも多いので、コミュニケーションが双方向ではなく、“一方通行”になりやすいわけです」(98ページ)
鈴木さんもご指摘しておられるように、特に日本では、「自分の意見に異を唱えられることを良しとしない」という風土が強いようです。その結果、組織内のコミュニケーションは上意下達になってしまいます。そのような組織が、必ずしも問題ではないのですが、上意下達の組織が効果を発揮するのは、非常時で組織全体が足並みを揃えて活動しなければならないというような場合に限られます。現在のような、経営環境が複雑化した時代では、組織内でさまざまな議論が行われなければ、斬新で効果的な活動を維持することは難しくなっています。だからこそ、コミュニケーションが一方的になったり、相手に遠慮して自分の意見を言わなかったりする雰囲気を作ろことは避けなければならないでしょう。
ちなみに、ワークマンの専務取締役の土屋哲雄さんは、部下に対して、「私の考え方は、50%間違っている」と伝えているそうです。部下にこのように伝えることで、社内でのコミュニケーションを活発にしようとしているのでしょう。「専務の意見には絶対従わなければならない」という組織よりは、「専務の意見は必ずしも正しくない」と自らが言ってくれていれば、部下は、提案などを行いやすいでしょう。忙しい経営者としては、議論はしないで、自分の考え通りに部下が動いてくれる方がよいと考えがちですが、前述した通り、そのような組織はいくつかの弊害が出てきます。組織的な活動によって高い成果を得ようとするときは、時間がかかるようでも、組織内での議論を闊達にすることが大切です。
2022/8/28 No.2083