鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

地方都市のデジタルデバイド

[要旨]

ファンドマネージャー藤野英人さんは、地方都市の経営者が情報技術への関心が低いことを問題点として指摘しています。現在は、情報技術は、単なる効率化を図るツールではなく、それによって顧客体験価値を創造するための事業そのものの対象となっていることから、経営者の方の考え方を大幅に切り替えることが望まれます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、藤野英人さんのご著書、「5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす儲かる会社つぶれる会社の法則」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。同書の中で、藤野さんは、情報技術の大切さについて述べておられます。「ITやインターネットのおかげで、今は通信回線さえあれば、誰でも世界の情報を集めることができる時代になっています。ところが、ITオンチで、こうした環境をまったく活かすことができない社長も存在します。特に、地方都市の会社経営者には意識の低い人が多く、『これでは地方と東京の格差がどんどん広がるのも無理はない』と感じることも少なくありません。以前、ある地方都市で開催された経済団体主催のセミナーで講師を務めたときのことです。(中略)

当時は、ちょうど、(フェイスブック(現在のメタ)の創業者の、マーク・ザッカーバーグ氏の、同社創業までのエピソードを描いたことで話題となっていた映画の)『ソーシャル・ネットワーク』が封切りされる直前の時期でした。(中略)そこで、私は、会場に向かって、『みなさん、今度、ソーシャル・ネットワークが公開されますが、この映画について知っていおられる方はいらっしゃいますか?」と尋ねてみました。ところが、約120名が参加していた中、手を挙げた人は、たった10名ちょっとしかいなかったのです。(中略)つぎに、私は恐る恐る、『この中で、フェイスぐっくのアカウントを持っておられる方は?』と尋ねてみると、手を挙げた人はやはり10名程度でした。現在とは状況が違い、当時のフェイスブックが今ほどのユーザー数ではなかったとはいえ、上場希望のIT経営者が集まっている場なのですからこれは悲惨な状況です」(65ページ)

藤野さんは、地方の会社の経営者の情報技術への関心の低さを残念に感じておられますが、私も、大都市と地方都市でのデジタルデバイドが広がっていることについては問題があると感じています。ただ、地方で生まれ育ち、また、地方銀行に勤務していた立場から私が感じることは、20世紀までは、地方の会社は、地縁・血縁で事業を拡大することが「常識」だったので、情報技術を使う必要性をあまり感じられる環境にはなかったという事情があると思います。しかし、それは、過去の常識なので、21世紀には通用しないのですが、21世紀になって22年が過ぎようとしているのに、頭を切り替えている経営者の方があまり多くないということは、やはり、地方の課題と言えるでしょう。ここで、私は、情報技術について、2つの注意点を述べたいと思います。

ひとつめは、情報技術は、ツールではなく、事業そのものになっているということです。例えば、「宅麺.com」という、日本の各地にある有名ラーメン店のラーメンを販売する、インターネットサービスがあります。これは、ラーメンを情報技術を使って販売するというよりも、情報技術を使い、なかなか訪問できないラーメン店のラーメンを食べたいという需要を掘り起こしたことで、「顧客体験価値」を創造していると言えます。したがって、情報技術を、単に、省力化や効率化を進めるツールとだけ捉えているとすれば、情報技術を駆使し、顧客体験価値を実現している会社との競争には、ななかなか勝てなくなっているということです。

もうひとつは、情報技術の進展は、地方の会社にとって、脅威ではなく、機会になっているということです。例えば、高級ビニール傘を製造している、ホワイトローズ(東京都台東区)は、同社の製品は、ニッチ市場でしか需要がないために、インターネット販売によって需要を捉えるという、ロングテール戦略を実践しています。したがって、情報技術を使えば新たな需要を掘り起こしたり、これまで接点を得ることができなかった顧客とつながったりすることができるのに、それを実践しなければ、レッドオーシャンでの戦いに終始してしまいます。これはとてももったいないことだと思います。

2022/8/21 No.2076