鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

上場企業の顔をした非上場企業

[要旨]

ファンドマネージャー藤野英人さんによれば、上場会社の約4分の1は、IRに消極的だそうです。藤野さんは、そのような姿勢は株主に背を向けている状態であり、よい会社とは言えないと考えているそうです。このような情報公開に関する考え方は、中小企業と銀行の取引にもあてはまると、私は考えています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、藤野英人さんのご著書、「5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす儲かる会社つぶれる会社の法則」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。同書の中で、藤野さんは、情報公開の大切さについて述べておられます。「情報公開は経営改革のきっかけにもなります。運用会社は、数多くの経営者と面談をしている企業評価のプロであり、その意見を聞くことは、言ってみれば、無料のコンサルティングを受けるようなものなのです。

このような背景を考えれば、企業が情報を開示することは当然のことと言えます。(中略)しかし、IR(Investor Relations、投資家向け広報)に対して後ろ向きな会社は少なくありません。現在、上場企業は約3,600社ありますが、そのうち、1,000社くらい、つまり、4社に1社以上は、情報公開への意識が低いのです。私たちが、『会社を訪問したい』、『企業調査に協力してほしい』と依頼しても、嫌がって対応してくれないところもあるのです。

こういった企業は、そもそも、資金の調達が上場の目的ではありません。『人材採用の時に、上場企業なら人が集まりやすい』、『知名度が高まって取引に有利』、『社員が住宅ローンを借りやすくなる』といった、上場のメリットを得たいだけなので、平気で、『株価が上がらなくても結構』、『売買して欲しくない』などと言うこともあります。”上場企業の顔をした非上場企業”と考えた方がいいでしょう。ハッキリ言って、株主に背を向けている企業は、良い会社とはいえません」(104ページ)

私が、銀行に勤務していた時の経験から感じることは、自社の情報を積極的に銀行に伝えようとする会社は、残念ながら、極めて少数です。銀行から催促されて、渋々、決算書を提出するという会社が圧倒的多数です。というのも、中小企業のほとんどは、いわゆるオーナー会社なので、会社の情報を部外者である銀行に伝えるということは、自分の懐を覗かれているという気持ちになる面もあるでしょう。

また、そもそも、会社の経理がどんぶり勘定であったり、または、経営者自身が、自社の財務状況を把握していなかったりすることがあるので、銀行に伝える情報もないということもあるでしょう。私は、中小企業であっても、自社の詳細な財務情報を、少なくとも銀行には、可能であれば従業員や仕入先にも、積極的に伝えるべきと考えています。

それは、中小企業であっても、会社は公器なので、銀行、従業員、仕入先などからの協力がなければ、事業を発展させることに限界があるからです。したがって、情報の公開に消極的な会社は、事業はあまり発展しないので、いつまでも”株式会社の顔をした個人商店”の状態になると思います。繰り返しになりますが、会社を公器と捉えて、自社の情報公開を行い、ステークホルダーからの協力を得らやすいようにしなければ、事業を発展させていくことは難しいでしょう。

2022/8/20 No.2075