鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ブレーキがあるからアクセルを踏める

[要旨]

雪道では、ブレーキが利きにくいため、自動車はのろのろ走ります。これと同様に、管理機能があまり利かない状態では、事業活動も、全力を出すことができません。したがって、管理機能が肥大化し過ぎることは問題ですが、事業活動に注力できるようにするためにも、管理機能が機能するようにすることが大切です。


[本文]

経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「生きている会社、死んでいる会社-『創造的新陳代謝』を生み出す10の基本原則」を拝読しました。同書には、管理部門の肥大化に関する、小倉昌男ヤマト運輸(現在のヤマトホールディングス)の第2代社長)さんの言葉を紹介しています。「会社が成長軌道に乗り始めると、会社の運営上のさまざまな管理業務が必要になってくる。そうした管理業務を遂行するために、管理機能を司る管理部門ができる。

そして、それがいつの間にか肥大化し、いろいろと『悪さ』をするようになる。(これについて)小倉昌男は、『事業が発展するにつれ、会社は大きくなるが、間接部門、特に管理部門は、事業の発展とは関係なく、年々増大することは、どの会社にも共通して見られる現象である』と指摘している。管理部門の肥大化は、コスト増につながるだけでなく、形式重視、前例踏襲など、『官僚主義の蔓延』という、より深刻な病につなはるリスクを内包している」(68ページ)

その一方で、小倉さんは、管理機能の重要性についても指摘しておられるようです。「会社が発展、成長するための原動力は、アクセルだが、その一方で、ブレーキも必要である。ブレーキがあるからこそ、アクセルをふかすことができる。小倉昌男は、北海道の雪道で、ブレーキを踏むとスリップするので、どの車もブレーキを踏まずに、のろのろ走る様子を見て、こう気づいた。

『自動車が速く走るためにはブレーキが必要だということを痛感したのである。自動車は、ブレーキを踏めば、いつでも止めることができるとわかっているから、スピードを出すことができるのであって、ブレーキのない車には、誰も怖くて乗れないだろう』自動車は、あくまでも移動するための手段であり、前に進まなければ車としての価値はない。

ブレーキは、いつでも止まれるために用意されているものであり、アクセルを踏むのを躊躇し、ブレーキを踏みっぱなしでは、永遠に目的地には到達しない。会社も同様で、経営において管理は必要だが、それが挑戦を妨げてはならない。会社にはブレーキが必要だが、それはあくまでアクセルがきちんと踏まれていることが大前提である。性能の高いブレーキを用意しながらも、アクセル全開で前に進まなければ、『生きている会社』にはなりえないのだ」(74ページ)

この、「性能の高いブレーキがなければアクセルを全開にできない」という遠藤さんのご指摘は、言いえて妙だと思います。多くの経営者の方は、業績を高めなければならないという重圧を、常に受けていることから、往々にして管理部門を疎んじることがあると思います。でも、むしろ、高性能のブレーキがあるからこそ、全力で事業活動に力を注ぐことができるということも理解する必要があると思います。

もちろん、管理部門が、「部分最適」の考え方で活動してはいけませんが、それは、営業部門にもあてはまるものです。したがって、経営者の方は、自社の事業活動のアクセル(営業部門)の性能を高めりと同時に、また、ブレーキ(管理部門)の性能も高めることが、重要な役割ということになるでしょう。そのことが、結果として、自社の競争力を高めることになります。

2022/7/23 No.2047