鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ノマドになるには実力が必要

[要旨]

遊牧民ノマドは、安全なオアシスに住む人とは異なり、盗賊や狼から家畜を守る軍事力を持つ必要があります。これと同様に、会社従業員が、会社内に居場所ないという理由だけで、起業・独立しても、実力がともなわないと、事業は失敗してしまいます。


[本文]

今回は、経営コンサルタントで、エンジェル投資家の、瀧本哲史さん(故人)のご著書、「君に友だちをいらない」を読んで、私が気づいたことを述べたいと思います。「ノマドの語源でもある『遊牧民』は、人類が狩猟採集の時代の後に、農耕と牧畜を生み出して定住して生活するようになってから発生した暮らし方だ。牧畜によって暮す集団が一か所に定住し続けると、やがて家畜がその周辺の牧草を食べ尽くしてしまうために(中略)、牧草を求めて移動する生活様式が生まれたのが、ノマドの起こりである。

だが(中略)、移動して暮らすことには大きなリスクもある。(中略)狼などの害獣に家畜を襲われることもあるだろうし、泥棒に家畜を盗まれる危険にも常に晒されるからだ。それゆえに(中略)、外敵を追い払う軍事力が必要となり、遊牧民たちは、武器や犬などの軍備を、定住者が住む「オアシス」から購入し、オアシスの住民たちは、遊牧民(中略)から家畜を購入することで、動物性たんぱく質を補った。(中略)

それゆえに、遊牧民として生きる道を選べるのは、オアシスに暮らす人たちの中でも、特に牧畜のスキルに優れ、肉体的にも精神的にも屈強な人々に限られていた。壁や柵に守られた、安全なオアシスに住む人が、自分の土地が狭いからといって、突然、『よし、自分もノマドになろう』と、遊牧を始めたとしても、家畜を守る力がなければ、あっという間に、他の遊牧民や盗賊に奪われてしまいかねないのである。

この構図は、現在でも、会社をオアシス、フリーランスノマドと考えれば、まったく同様である。(中略)『会社のなかでどうも居場所がない』と感じている人が、一念発起してフリーランスになったとしても、悲惨な結果になるのは目に見えている。さらに言えば、今のノマドブームを煽っている人たちのビジネスモデルを注意深く見ると、彼ら自身、『ノマド的働き方』でビジネスが成功しているわけではなく、『ノマドに憧れる人々』に対するセミナーや本を売ることで儲けていることが少なくないことがある」(76ページ)

この瀧本さんの指摘だけを読むと、「力が無いのに独立すると失敗する、また、いわゆる『ひよく食い』の人たちが、独立を考えている人を煽っている面があるので、注意を要する」ということになります。このことは、私もその通りだと思いますが、少し付け加えたい点があります。ひとつは、フリーランスになるには、ものすごく優れた実力が必要というよりも、現在は、フリーランスとして活躍するには、マネジメントスキルが重要になっていると、私は感じています。

例えば、会社勤務時に、営業スキルを発揮して、よい成績をあげていた人が、独立したところ、事業がうまくいかないということがあります。これは、会社従業員に求めらるるスキルと、フリーランスで求められるスキルは、必ずしも一致していないことによるものでしょう。もちろん、会社従業員としてのスキルが高いことに越したことはありませんが、それだけでは、フリーランスとして成功することはできないので、マネジメントスキルを身に付けることが大切であると、私は考えています。

もうひとつは、単純に、フリーランスは強者で、会社従業員が弱者ということでもないと、私は考えています。性格や能力から見て、会社従業員に適している方は、会社従業員として能力を発揮できるし、その逆に、会社従業員としては能力が発揮できない方が、フリーランスになれば、能力を発揮できるという場合もあります。

したがって、会社従業員が強者になれば、フリーランスになることが可能ということではないということに注意が必要です。しかしながら、単に、実力がなかったり、努力を怠ったりして、会社の中で評価されなかった人が、ないものねだりで、「ひよこ食い」の人たちから煽られ、フリーランスになれば、失敗してしまうことは当然です。

2022/7/11 No.2035