鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

CCCをマイナスにすることの利点

[要旨]

仕入れた商品が販売されて現金化されるまでの期間を示すCCCは、一部の会社では、マイナスにしています。そのような会社は、資金繰が安定し、経営の自由度が高まることから、積極的な投資ができます。中小企業でも、納品までの日数を短縮したり、直ちに請求を行うことで、CCCを改善することができます。


[本文]

今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、ROAは、売上高利益率と総資産回転率に分解できることから、収益性と効率性を総合的に見る指標であり、自社の事業で低価格戦略をとる場合は効率性を高め、逆に、効率性が低い場合は利益率を高めることで、ROAを高めることができるということについて書きました。今回は、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環日数、CCC)について説明します。

CCCの計算式は、CCC=売上債権回転期間+在庫回転期間-仕入債務回転期間で、これは仕入れた商品が販売されて現金化されるまでの期間(日数)を示しています。西山教授は、同書の中で、資格取得の教育事業等を営んでいるTACのCCCを示しています。2019年3月期のTACのCCC=(売上債権回転期間69日+在庫回転期間14日)-(仕入債務回転期間9日+前受金回転期間108日)=▲34日

このように、TACは、授業料などを利用者から事前に受け取っていることから、全体としてCCCはマイナスにすることができています。同社のように、CCCがマイナスの会社は、AmazonやAppleでも実現しているようです。CCCがマイナスか、プラスであっても短い場合、売上が増加しても収支ずれが起きないか、わずかであることから、資金繰が楽であるという利点があります。これに加え、Amazonの場合、CCCがマイナスであったことから、その余裕資金によって、新たな事業やサービスの改善のために、大規模な投資を実行できたそうです。

このように、CCCをマイナスにしたり短くしたりすることで、経営者の事業展開の自由度が高まるという利点があります。ところが、CCCを短くすることの利点を理論的には理解できても、中小企業では、現実的には、それを実践することは容易ではないうです。その一方で、中小企業の経営者の多くは、商品を販売しさえすればひとまず安心と考える方も少なくありません。場合によっては、販売代金の請求を、1か月後に行い、それを現金化できるのは、販売後、2か月から3か月後ということも珍しくはないようです。

もちろん、業界の商慣行などで、販売代金の回収期間を自社の要望で短くすることはできないということもありますが、販売後、遅れることなく直ちに請求を行なったり、回収期間を短くすることの見返りに販売代金の割引を行たりするなたりするなどの工夫を行うことは可能です。また、受注を受けてから納品するまでの期間を短くすることも、CCCを短縮することになります。繰り返しになりますが、こういったCCCの改善のための工夫は、資金繰の安定化や経営の自由度を高めることにつながることから、ライバルとの競争に優位に立つ強力な要因になると、私は考えています。

2022/5/1 No.1964