[要旨]
化粧品は、第1次品質よりも、第2次品質や第3次品質の重要性が高く、それらを高めるために、化粧品メーカーでは、広告宣伝費の割合が高くなっています。したがって、化粧品メーカーでは、広告宣伝費は、実質的には製造原価と考えることが妥当です。
[本文]
今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、棚卸資産には、商品、製品そのものの価額だけでなく、それを取得するために要した付随費用も計上されているということを説明しました。今回は、損益計算書の売上原価と販売費及び一般管理費について説明します。
西山教授の著書には、5つの異なる業種の会社の、損益計算書の比較が載せられていました。その中で、私が注目したものは、スーパーマーケットのアークスと、化粧品メーカーのコーセーです。アークスの売上原価比率(売上高に占める売上原価の割合)は79.2%であるのに対し、コーセーは26.6%しかありません。これは、業種の違いと言ってしまえばそれまでなのですが、私は、損益計算書の費用の分け方が正しくないことにより、アークスとコーセーの売上原価に大きな差が出ることになっていると考えています。
あえて極端なことを書きますが、口紅は、単に、店頭に並べていただけでは売れないでしょう。口紅が売れる理由の大きな部分を占めるものは、有名女優がその口紅のテレビコマーシャルなどに出ているからこそ、売れるものです。これは会計的な考え方ではないのですが、商品の品質には、第1次品質(商品そのものの機能、性能)、第2次品質(顧客の感性やライフスタイルに合うかどうか)、第3次品質(ステイタスやブランドなどの社会的評価)があります。化粧品については、第1次品質よりも、第2次品質、第3次品質に重要な要素があり、むしろ、それらが欠けていれば、化粧品としての価値はほとんどないと言えるでしょう。
そこで、コーセーは広告宣伝に相当の費用をかけ、第2次品質、第3次品質を高めようとしているわけです。そう考えると、コーセーの広告宣伝費は、販売費及び一般管理費に計上するよりも、本来なら、売上原価(製造原価)に含めるべき性質のものだと思います。ちなみに、アークスの広告宣伝費と販売促進費の売上高に占める割合は2.3%であるのに対し、コーセーのそれは25.5%です。仮に、コーセーの広告宣伝費と販売促進費を製造原価(売上原価)であると考えると、コーセーの製造原価は52.1%となり、より実態に即したものになると私は考えています。
だからと言って、私は、現在の財務会計の仕組みが誤っているとは考えていません。現実には、広告宣伝費を製品そのものに配賦することは難しく、製造原価に計上することは技術的には難しいからです。そこで、広告宣伝費は販売費及び一般管理費に計上することが妥当ということになります。ただし、経営者の視点からは、化粧品の広告宣伝費は、「第2次品質や第3次品質を製造するための原価」と考えるべきです。そして、そのための分析手法(価値連鎖分析や活動基準原価計算)を活用することが求められます。
2022/4/25 No.1958