[要旨]
早稲田大学の西山教授は、貸借対照表の特徴のひとつを、「会社の決算日における数字を使った記念写真のようなもの」と説明しています。これは、会社の資産は、日々変化しているものの、貸借対照表の示す資産の額は、会計期間の末日のものであることから、この点に注意が必要ということです。
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今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、財務会計、管理会計、ファイナンスは、現在は、お互いにそれぞれの考え方を採り入れるようになってきているということを説明しました。今回は、貸借対照表について説明します。
貸借対照表は、会計が苦手という経営者の方も、よく理解している財務諸表だと思います。そして、貸借対照表の特徴のひとつを、西山教授は、「会社の決算日における数字を使った記念写真のようなもの」と説明しています。これは、「貸借対照表は、会計期間の『末日時点』の財政状況を示している」ということです。貸借対照表は、会社の財政状況を示しているということは、誰でも知っていることなのですが、それは、会計期間の末日時点のものであるということを意識している人は意外と少ないように思います。
というのも、事業活動では、日々、取引によって資産が増えたり減ったりしているので、もし、毎日、貸借対照表を作成していたとしたら、総資産額も、毎日、変わることでしょう。しかし、一般的に、会社の(正式な)貸借対照表は、年に1度しか作成されません。だからこそ、注意しなければならない点があります。ちなみに、貸借対照表には、貸借対照表を作成している基準日である「貸借対照表日(=会計期間の末日)」が示されていますが、損益計算書は、会計期間の初日から末日までの収益と費用の合計額を集計するものなので、その集計期間(会計期間の初日と末日)が示されています。
話を戻すと、貸借対照表は、意図的に資産を増やしたり減らしたりすることができます。とはいっても、そのようなことは望ましいことではありません。例えば、売上の状況があまりよくない会社が、相手と示し合わせた上で、会計期間の末日の数日前に、自社製品を多めに販売します。そうすると、貸借対照表の棚卸資産は減少し、その分(厳密には棚卸資産と利益)の売上が増えます。そして、会計期間が変わってから、いったん販売した製品を返品してもらうと、再び棚卸資産は増加し、返品された時点の会計期間の売上額が減少します。
また、このような故意の操作でなくても、繁忙期間(3月、9月、12月など)のある小売業では、閑散期(2月、8月など)に会計期間の末日を設定しているので、正式な貸借対照表は、閑散期の少ない棚卸資産の額しか把握できず、繁忙期の棚卸資産は、別途、月次試算表で把握することになります。このように、会社の資産は、日々、変化しているものの、貸借対照表の示す資産の額は、会計期間の末日のものであるということに、注意が必要です。
2022/4/16 No.1949