[要旨]
リスクの低い事業には、コストの低い銀行融資などで、リスクの高い事業には、コストの高い出資などによって資金を調達することが基本です。中小企業の場合、資金調達の方法は銀行融資に、ほぼ、限定されるので、リスクの高い事業を行う場合は、自己資金をある程度用意することが必要になります。
[本文]
今回も、コンサルティング会社のシニフィアンの共同代表の朝倉祐介さんのご著書、「ファイナンス思考-日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」を拝読して気づいた点をご紹介したいと思います。前回は、WACCよりもROICが高くなければ、その会社が損益計算書上では利益を計上していても、事業を営む意味はないということを述べました今回は、これと同様に大切な考え方として、リスクプレミアムについて説明したいと思います。
「将来に得るお金の『現在価値』を算出するためには、金利(リスクフリーレート)と、不確実性(リスクプレミアム)の度合いによって、『割引率』を設定します。事業に期待する収益性の高さは、本来的には、このリスクの高低に応じて変わるべきものです。たとえ、同じ利益率であったとしても、リスクの高い事業であれば、より高いリターンを得られないことには、リスクに見合った回収ができないということになります。逆に、リスクの低い事業であれば、期待以上の収益を上げている事業ということになります。(中略)
(したがって)リスクの低い事業に対しては、負債など、より低い資本コストで資金を調達し、リスクの高い事業に対しては、エクイティ・ファイナンスのように、より高い資本コストで資金を調達するというのが、財務戦略の基本です」この朝倉さんのご指摘は当然のことなのですが、資金調達の方法が、ほぼ、銀行からの融資に限定されている中小企業では、リスクプレミアムは、あまり、意識されていないと思います。
例えば、商品仕入のための融資のようなリスクの低い融資も、新店舗建築のための融資のようなリスクの高い融資も、経営者から見れば、同じ融資なので、リスクプレミアムをあまり意識することはないと思います。(設備のための融資は、融資期間が長期になるので、その分、融資利率が高くなるということはあります)そこで、設備導入にあたって融資を受けることは問題はないものの、リスクプレミアムを勘案し、自己資金を増やす必要があります。
これによって、融資をする銀行側からは、リスクの度合いが軽くなります。これを言い換えれば、新たな設備投資をするには、単に、「資金が不足するので融資を受けたい」とだけ銀行に要望するだけでなく、過去の利益を蓄えたり、経営者が新たに出資するなどして、融資比率を低くすることが必要になります。ときどき、「設備投資のとき、銀行は全額を融資してくれない」という不満を持つ経営者の方がいますが、その方は、リスクプレミアムを理解していないと言えるでしょう。
2022/3/17 No.1919