鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

他人の茶碗を割る権利はない?

[要旨]

補助金は、本来は、困っている会社や地域を助ける制度なのですが、逆に、困っている会社や地域を、自立させない制度にもなっている面があります。したがって、強い意志をもって、補助金に依存し過ぎず、早期に自立を目指すことが大切です。


[本文]

地域再生事業家の木下斉さんのご著書、「地元がヤバい…と思ったら読む凡人のための地域再生入門」を拝読しました。同書は、小説形式で、地域再生を進めていく若者が描かれており、これを読むことで、地域再生をどのように行えばよいかということを理解できる本です。そして、中身もとても濃いものなのですが、私は、次の部分が、木下さんが最も伝えたいことのひとつだと感じました。

地域活性化における壁は、自分たちが、当座、食うことを優先するなら、補助金でも、交付金でも、どっぷり使ってしまうことが、短期的には合理的だという事実だ。そうして、慢性的に事業としての収益性が低い、もしくは、赤字の事業が放置され、外からの支援がなければ地域は何もできなくなるという、食の構造を自らつくり出すことになる。その結果、限られた予算を取り合い、ほかの人を追い出し、地域活性化の名のもとに生まれた利権をつくり出す側の人間になってしまう。

結局のところ、いつも私がきれいごとだ、べき論だと言われても、補助金に頼らない姿勢を貫くのは、『使えるものは使おう』と姿勢を曲げた人たちの末路を多く見ているからでもある。食べるためだからしかたないと言い出したら、何をやっても肯定できてしまう。それでは地域を変えることはできないのだ」私も木下さんと同じ考えです。補助金は、100%否定できませんが、本来は、本当に困った会社が、一時的にカンフル剤として使うべきものです。

そして、補助金を使い続けるということは、裏を返せば、いつまでも再生できていないということです。補助金は、本来は、困っている会社や地域を助ける制度なのですが、逆に、困っている会社や地域を、自立させない制度にもなっているということです。一方で、物語の中には、「私らのことは私らが決める、いくら君たちなりの正義があるとはいえ、他人の茶碗を割る権利はない」という会話が出てきます。これは、物語の主人公が、補助金に頼ろうとする団体のメンバーに対し、補助金に頼り過ぎてはいけないと説得したときに、そのメンバーから言われたことばです。

恐らく、木下さんご自身が、実際に言われたことばなのでしょう。いったん、補助金を利用すると、それへの依存から抜け出すことは、なかなか容易ではないようです。ここに、現実の難しさがあります。この補助金の問題は、直ちには解決はできないと思いますが、なるべく早く、自立が必要だという意識を持つ方たちが増えていっていただきたいと、木下さんのご著書を読んで感じました。

2022/3/5 No.1907

f:id:rokkakuakio:20220305010544j:plain