[要旨]
岸田総理大臣は、株主資本主義を是正すると述べています。しかし、資本主義は存在しません。また、現在、富の再分配がうまく機能しないといった社会問題は、株主が望むものでもありません。さらに、社会問題を起こしている組織は、株式会社だけではありません。このようなことから、岸田氏の考え方は誤りです。
[本文]
先日、「岸田文雄首相は、(1月)25日の衆院予算委員会で、看板に掲げた『新しい資本主義』の分配政策面に関し、株主利益の最大化を重視する『株主資本主義』の弊害を是正したいとの考えを示した」という報道がありました。私は、「資本主義」という言葉は虚構であると考えていますが、ここでは、岸田氏のいう資本主義とは、市場経済主義、または、自由経済主義のことを指しているという前提で話を進めます。
そして、岸田氏のいう、「株主資本主義」とは、「株主利益の最大化を重視する資本主義」のことのようです。ここで、揚げ足をとるつもりはありませんが、そもそも、「株主を重視しない『資本主義』」はないので、それを「是正」するとしたら、岸田氏の言う「資本主義」をなくしてしまうことになるでしょう。それはさておき、「『株主資本主義』の弊害を是正したい」という、岸田氏の意図することも理解できます。現在の株式会社は、株主の力が強くなってきており、従業員や顧客があまり重視されなくなりつつあるということを懸念しているのだと思います。
私も、「ブラック企業」や「パワハラ」などが問題になっていることは事実であり、そのような状況は是正されなければならないと考えています。しかしながら、それは「株式会社」が問題なのかというと、私は、そうではないと考えています。その理由のひとつは、株主は、出資している会社がブラック企業になったり、パワハラが横行していたり、不当な値上げをして顧客を困らせていたりしたとしたら、果たしてよろこぶでしょうか?
一時的に株主の利益は増えるかもしれませんが、そのような会社は、早晩、事業が行き詰り、結果として株主も損害を被ることになります。したがって、それは株主の意図するところではないでしょう。もうひとつの理由は、問題が起きる組織は株式会社とは限りません。例えば、昨年は、非営利組織である、私立大学の理事長が、大学を私物化していることが明るみになり、所得税法違反で逮捕されるという事件が起きるなど、株式会社でなくても問題が起きます。
株式会社でも、経営者による会社の私物化が起きることがありますが、これはガバナンスの問題であり、そのガバナンスの問題は、株式会社だから起きるのではありません。したがって、「資本主義」に参加している株式会社だけを「是正」の対象にすることは適切ではありません。では、現在の社会問題は、どう、解決すればよいのかというと、私は、「マネジメント」を理解する人を増やし、また、高いマネジメントスキルを持つ人を増やすことを目指すべきだと思います。
しかし、私がこのようなことを述べると、「そんなことを言っても、状況はすぐにはよくならない」と反論される方もいると思います。私の考える改善策は、一朝一夕に効果が出ないことは事実です。しかし、岸田氏のような的を射ない考え方よりは、問題の本質をとらえていると思います。そもそも、「株主資本主義」など仮構なのですから、存在しないものを「是正」することもできないでしょう。
2022/2/9 No.1883