[要旨]
在庫は悪というイメージを持たれがちですが、在庫を多めに持つことで、収益機会を得ることもあります。したがって、経営者が目指すべき在庫量は、収益を最大化する在庫量です。ただし、それは事前には正確に把握できないので、仮説、実践、検証を繰り返していくことが、収益を最大化することにつながるでしょう。
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プレジデントの元編集長で、イトモス研究所所長の小倉健一さんの、在庫をテーマにした、ダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。小倉さんによれば、100円ショップのダイソーは、商品を100万個単位で仕入れているそうです。同社が、過剰在庫のリスクをかかえつつ、大量の仕入れを行う理由は、少ない量で仕入れると、他の大手の会社から、もっとよい仕入れ条件を提示されてしまうので、それを防ぐために大量仕入れをしているそうです。
また、アイリスオーヤマは、新型ウィルスの世界的流行が始まった2019年、1週間で7,500万枚のマスクの受注があったのですが、「急遽中国の2工場をマスク製造に充て、その年の秋には年初の10倍に当たる月産6,000万枚を製造」できるようになったそうです。これは、同社に、「稼働率7割ルール」があったから可能になったそうです。通常の稼働率を7割にしておけば、3割を稼働させないことによる機会ロスがあるものの、「ある商品の需要率が、急に通常の150%になっても対応できる」という機会の方を、同社は重視しているそうです。
小倉さんは、在庫が悪とは限らないということを、この寄稿で伝えようとしておられるようです。私も小倉さんと同じ考えで、拙著、「図解でわかる在庫管理いちばん最初に読む本」で、同様のことを説明しています。すなわち、在庫が多くなれば収益機会が増え、少なくなればそれを逃します。逆に、在庫が多くなれば死蔵品などが発生するという在庫に関する費用が増加するリスクが増え、少なくなるとそれを抑えることができます。ですから、繰り返しになりますが、決して「在庫が悪」ということではなく、収益にならない在庫が悪なのであって、逆に、在庫量が少な過ぎて、収益を逃す在庫量であれば、過小在庫が悪になります。
したがって、経営者が目指すべき在庫量とは、在庫量をなるべく少なくすることではなく、収益を最大化する在庫量の維持を目指すことです。ところが、収益を最大化する在庫量は、事業の内容や経営戦略によって異なり、また、将来、起きることを完全に事前に予測することも不可能です。そのような事情から、利益を最大化する在庫量を目指すことは意味が無いと考える方もいるようですが、私は、それでは、単に成行で事業をすることになってしまうと考えています。
事前には100%わからないとしても、適切な在庫量を可能な限り予測し、それを会社内で明確にして、その目標を会社全体で目指していくことが、自社の利益を最大化していくことの近道になると、私は考えています。少なくとも、成行で事業を進めるよりも利益は増えるでしょう。ダイソーもアイリスオーヤマも、単に、在庫量を多くしたことがビジネスチャンスをつかんだのではなく、自社の在庫方針を明確にしていたからこそ、ビジネスチャンスをつかむことができたのではないでしょうか?
2022/2/7 No.1881