鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

無借金経営と実質無借金経営

[要旨]

無借金経営は、融資をまったく受けていない会社で、一方、実質無借金経営は、融資を受けているものの、その額を上回る金融資産を持っている会社です。そして、リスクに備える観点からは、無借金にこだわらず、銀行との関係を深めるためにも、銀行から融資を受ける実績をつくり、実質無借金としておくことが賢明です。


[本文]

私は、ときどき、無借金経営と、実質無借金経営の違いについて訊かれることがあるのですが、これについては、日本レーザーの社長の近藤宣之さんが、ご著書、「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」の中でご説明されておられます。「日本レーザーは『無借金経営』です。厳密に言えば、『実質無借金経営』です。現在、自己資本比率は55%で、現預金と金融資産は合計12億円あります。有利子負債(会社の負債のうち、利子をつけて返済しなければならない負債)は4億円ですので、3倍の自己資金を持っています」有利子負債とは、ほぼ、銀行からの融資と言えますが、融資を受けていれば、無借金とは言えません。

でも、日本レーザーは、融資額の3倍の金融資産があるわけですから、資金繰に困っているわけではなく、返済しようと思えば、直ちに融資全額を返済できる状況にあります。したがって、日本レーザーは、銀行から融資を受けているということに着眼すれば、無借金経営ではありませんが、それをすぐに全額返済できる状態にあるということに着眼すれば、実質的に無借金の状態にあるといええます。これに対し、不要な融資を受けることは、銀行への支払利息が無駄になるのではないかという疑問を持つ方もいるでしょう。これに対する回答についても、近藤さんがご著書の中で述べておられます。

「潤沢な手元資金があるのに、どうして有利子負債がある(融資を受けている)のかといえば、『万が一のリスクに備えるため』です。銀行からの融資を一切受けないのは、長い目で見たとき、よい作戦とはいえません。なぜなら、『お金を借りて、きちんと返済した』実績を積み上げておかないと、『借りたいときに、借りられない』ことがあるからです」さらに、私は、近藤さんのご説明した理由のほかに、手許流動性(金融資産)を厚くしておくことも、リスクへの備えになると考えています。

例えば、2年前から起きたコロナ禍では、多くの会社が打撃を受けましたが、そのような会社はにコロナ対応融資を受けることができたとはいえ、もともと、手許流動性が厚い会社の方が、迅速、かつ、果敢に難局に挑むことができました。このように、リスクに備えるという観点からは、無借金にこだわり過ぎることは、近藤さんと同様に、私も、あまり賢明ではないと考えています。そして、近藤さんは、「無借金経営を自慢する経営者もいますが、むしろ、『無借金経営は、恥ずかしいこと』だと考えています。なぜなら、『将来のリスクに備えていない』からです」と述べておられます。

2022/1/7 No.1850

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