鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

売らない店はどう考え出されたのか

[要旨]

最近は、リアル店舗で売らない店が登場しましたが、それは、商品の実物は、リアル店舗でなければ見ることができないという強みを活かした戦略です。このような発想に至るには、クロスSWOT分析や、価値連鎖分析が活用されていると考えることができます。


[本文]

先日、日本放送協会が、東京都千代田区にある、「売らないお店」のb8ta(ベータ)を取材した番組を放送していました。ベータでは、さまざまな会社に、幅60cm、奥行き40cmの展示スペースを貸し出しています。しかし、「(ベータの)最大の特徴は、店では商品を『売らない』点です。客は、商品を手に取ったり、実際に使ってみたりして欲しいと思ったら、商品の横にあるタブレットから購入専用のページに飛んで、インターネットから予約や購入をする仕組みです」

「店にスタッフはいますが、商品の説明をするだけで、商品を強く勧めてくるということはありません。むしろ『持ち手が重いというお客様もいました』など、商品の使いにくさを説明することもあります。この店では、商品の売り上げ以上に、どれだけ商品に足を止めてもらえたか、客の行動そのものを重視しています」「こうした仕組みは『オンラインとオフライン(実店舗)の融合』という意味で、OMO(Online Merges with Offline)とも呼ばれています」

近年は、ネットショップの売上が伸びており、リアル店舗が苦戦していることは、多くの方がご存知のとおりです。それどころか、リアル店舗で商品の実物を見るけれど、その商品がよいと思ったら、そのお店では購入せず、スマートフォンで発注するということもあり、結果として、リアル店舗がライバルの売上に貢献しているということもあります。そこで、このような状況を逆手に取った手法が、「売らない店」であり、百貨店にも売らない売場を設置するようになってきているようです。

そして、このことはすでに多くの方が知っておられるので、私が詳しく説明する必要はないと思いますが、これは、クロスSWOT分析のよい事例だと感じたので、今回、記事にすることにしました。すなわち、「売らない店」は、リアル店舗では商品はなかなか売れないので、売ることを止め、顧客の反応を見たり、商品の改善点を見つける場にするという、弱みを機会に変える戦略に該当すると思います。また、このような発想ができるようになるには、自社の商品の価値がどこにあるのかということを把握する、すなわち、価値連鎖分析がしっかりと行われている必要があります。

リアル店舗の顧客の中には、購入はしないものの、来店はするという顧客もいるわけですが、それは、商品の実物を見ることができるのは、リアル店舗だけだからです。したがって、リアル店舗の商品は、実物を見ることができるということに価値があり、だから、商品を買ってもらえなくても、顧客の反応を見たり、改善点を見つけることそのものに価値が見いだせるわけです。日本放送協会の番組をみて、クロスSWOT分析や価値連鎖分析の大切さを、改めて感じました。

2022/1/5 No.1848

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