[要旨]
山口銀行などの親会社の山口フィナンシャルグループでは、おかしな手順で前会長の解任が行われました。これについては、前会長と他の役員のどちらに問題があるかは別として、だまし討ち的な解任が行われるような特殊な事情があったことは確かであり、そのような事情を抱えた会社は、もともと、経営上の問題があると言えます。
[本文]
昨年、山口銀行などを傘下に持つ、銀行持株会社の山口フィナンシャルグループ(山口FG)で、「前会長の解任」が話題になりました。山口FG側は、前会長が、権限を逸脱し、新しい銀行を設立しようとしていたことを解任の理由と説明しています。権限の逸脱が事実であれば、前会長は解任されることは当然ですが、解任の仕方に疑問があることから、いまだに謎があると考えられているようです。
その解任の仕方とは、昨年6月の株主総会では、前会長を引き続き代表権のある会長とする前提で、取締役候補として議案に盛り込み、承認を得ています。ところが、その株主総会の直後に開かれた締役会では、前会長は代表取締役に選任されませんでした。さらに、10月14日の臨時取締役会では、新銀行の設立に関する案件の進め方に権限逸脱があったという理由で、前会長に対する辞任勧告が決議されました。そして、12月の臨時株主総会で、前会長の取締役の解任を諮る予定でしたが、その株主総会の開催日の前日に、前会長は、取締役を辞任しました。
ここまでの経緯に関しては、まず、山口FGの主張する、前会長の権限逸脱があったことが事実かどうか、また、新銀行設立が妥当であるかどうかはおいておき、それらが事実であれば、会長職の解任の前に、他の取締役が前会長に対し、権限を逸脱していることを指摘し、それを止めるよう要請するという手順をとるべきでしょう。ところが、そのようなこともせず、さらに、株主総会でもそのことを株主に説明せず、いったん、前会長を取締役に選任させておきながら、その後、前会長に辞任勧告をしているという経緯は、大きな疑問が残ります。
ただ、このようなおかしな手順を踏まなければならなかったということは、当然、前会長以外の役員の方たちの知識が不足していたということではなく、おかしな手順を承知の上で、そうせざるを得なかった特別な事情あったということが考えられます。そして、おかしな手順での前会長の解任は、前会長以外の役員の方たちの強い意志をもって行われたのでしょうから、その事情については、当面の間は表に出ることはないでしょう。したがって、部外者がその事情を知ろうとしても、知ることはできないと思います。
確かに、現実の社会では、通常の方法では解決できないことはあると思います。しかし、仮に役員が暴走したとしても、現実には、法律上の方法でそれを止めたり、解任できたりできないということがあるとすれば、企業統治はとても難しいということを感じました。これは、すぐに解決できるものではないと思いますが、山口FGのような異常な事態が起きる会社があまり多くないことを、私は願っています。山口FGの例については、前会長と、他の役員のどちらに分があるのかということは断言できませんが、不透明なことがある会社の経営は、決してうまくいっているとは言えないと私は考えています。
2022/1/2 No.1845