鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

株式持合解消とメインバンク制度希薄化

[要旨]

エコノミストの佐治信行さんは、日本の会計基準が変わり、株式持合の解消やメインバンク制度の希薄化が、日本の会社が弱体化した要因であると指摘しています。私はその指摘は事実ではあるものの、日本の会社の活動はボーダーレスになっている以上、会計のルールも、世界のルールにしたがうものでなければ、日本の会社の強さは本物とは言えなくなるでしょう。


[本文]

ニッセイアセットマネジメント上席エコノミストの佐治信行さんが、ラジオ番組で、「日本経済が構造的に弱体化したワケ」についてお話されておられました。佐治さんは、日本に会社が弱体化した理由のひとつに、会計制度の変更を挙げていました。具体的には、1990年代に、日本の会計基準が、従来の取得原価主義から、海外の会計基準で採用されている時価主義へ移行されました。

そのことは、業績の悪い会社の株式を持ち続けると、評価損を計上しなければならなくなることから、銀行を始めとした会社は株式の持合を解消する動きが見られるようになりました。さらに、日本独特の慣行であった、メインバンクが自社の融資や助言などによって事業活動を支えるという、メインバンク制度が希薄化することになりました。

このメインバク制度は、会社がメインバンクから安定的に支援を受けることができるため、会社経営者は経営に専念できたり、また、短期的な成果にとらわれず、長期的な視点で経営判断ができたりするという利点があり、そのことが、日本の会社の競争力を高めてきたということは事実だと思います。したがって、そのメインバンク制度が希薄化してきたことが、日本の会社が弱体化した理由だと、佐治さんはお話しておられました。

ただ、これは、佐治さんも認めておられるのですが、株式持合やメインバンク制度には短所もあります。メインバンクが会社の支援をしてくれることによって、経営者は安定的な経営をしやすくなることにもなりますが、その反面、経営に緊張感が欠けてしまうことも起きるでしょう。最近、大企業で不祥事が相次いでいますが、それは、日本的な経営慣行の暗い面の現れと考えることができます。

私は、佐治さんの指摘を理解はできますが、現在の会計制度で力を発揮できなければ、日本の会社は、いつまでも銀行に依存的な会社のままとなってしまいます。さらに、日本は、GDPで世界第3位の経済大国であるのに、その日本の会社が、株式持合によって「なぁなぁ」的な経営を続けていることは、あまりふさわしくないと思います。

いまは、日本の会社の多くがボーダーレスに活動しているわけですから、日本的な経営を続けていることは、かえって事業展開の阻害要因になると思います。繰り返しになりますが、日本の会計基準の変更は、佐治さんのご指摘のように、日本の会社を弱体化させる面はあったものの、日本の会社がボーダーレスに活動するようになったからには、会計ルールも、世界に合わせたもので活動できなければ、日本の会社の強さは本物とはならないと、私は考えています。

2022/5/29 No.1992