[要旨]
商品は、顧客が欲しいものであれば、値切られることはありません。しかし、納得できるものがないと、その不満足の隙間を埋めるために、商品を値切られてしまいます。したがって、満足できる商品を販売したり、顧客の要望に応えられる販売活動を行うことが、高い付加価値をえるポイントになります。
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今回も、かっぱ橋道具街の料理道具専門店の飯田屋の社長、飯田結太さんのご著書、「浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟」を読んで、私が注目したことについて述べたいと思います。飯田さんは、売上を増やすための対策として、商品価格を下げて販売しようとしたのですが、なかなかうまく行かなかったそうです。そんな中、割烹店の大将らしき人が来店し、柔らかい食感の出る大根おろしをおろせるおろし金を探していると言われたそうです。
ところが、飯田さんは、自社の商品を自分では使ったことがなく、その質問に答えることができなかったことから、大根を買ってきて、実際におろし金を使ってみてもらったそうです。ところが、3種類あったおろし金のいずれも、満足できる柔らかさでおろすことができなかったため、大将から、また来店するまでに、別のおろし金を探しておいて欲しいと言われたそうです。そこで、飯田さんは、商社やメーカーに問い合わせをしたところ、どちらからも、自社ではおろし金を使ったことはないので、柔らかくおろすことができるものはわからないと回答されたそうです。
仕方がないので、飯田さんは、目ぼしいおろし金を12種類取り寄せて、自分で試してみることにしたそうです。その結果、柔らかくおろせるおろし金を見つけることができたのですが、それは、価格が5,000円もするものでした。他のおろし金は、高くても1,980円だったので、大将に納得してもらえるか不安だったそうですが、大将は、一切値切ろうとせず、5,000円を支払ってくれたそうです。
このような経験から、飯田さんは、顧客が納得できれば値切られることはない、値切られるのは、満足できる商品がないとき、その不満足の隙間を埋めるために行われると気づいたそうです。その後、飯田さんは、低価格販売の方針を変え、同店を専門性の高い店にしていくことにしたそうです。ここまでの飯田さんの経験は、多くの方が納得できるものと思いますが、実際に、飯田さんのような、高い専門性を発揮することによって、商品の付加価値を高めることを実践する会社はあまり多くないと、私は感じています。
というのは、お店の専門性を高めるということは、自社の販売力を高めることであり、一朝一夕にはできないからです。できれば、人気商品をたくさん仕入れて、自社の販売力をあまり発揮しなくても売れるものを売りたいと考える方が多いと思います。でも、そのような考え方は、ムシがいいということは言うまでもありません。少し厳しい書き方ですが、業績があまりよくない会社で、商品が売れない原因のひとつは、商品に問題があるというよりも、売り方に問題があるという要素が大きいと、私は感じています。
2021/12/17 No.1829