[要旨]
日本では10月から最低賃金が引き上げられましたが、解雇規制の緩和や中途採用者のための労働市場の活性化がともなっておらず、事業者だけの負担になっています。そこで、事業者が賃金を引き上げやすくするようにするために、事業者に過剰な品質を求めないなど、社会全体で解決のために努力することが必要でしょう。
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社会保険労務士の飯田弘和さんが、メールマガジンで、10月から引き上げらえれた最低賃金について書いておられました。「最低賃金の引き上げは、解雇規制の緩和や中途採用者のための労働市場の活性化とセットでなければなりません。そうでなければ、日本経済の浮揚につながらないでしょう。労働生産性の上昇がないまま最低賃金が引き上げられれば、結局は、採用抑制や正社員等の賃金引き下げによらなければ、最低賃金引き上げの原資が捻出できません。
最近の政府や厚労省が行う事って、全体的な視点が欠け、目先の対応が増えている気がしてなりません」私は、飯田さんのご指摘は、極めて妥当だと考えています。そして、なぜ政府が場当たり的なことをしてしまうのかということを、以前から考えているのですが、その答えのひとつは、政府は、事業者にしか負担を求めようとしないからだと考えています。
具体的には、人材コンサルティング会社のニッチモの社長の海老原嗣生さんの日経ビジネスへの寄稿によれば、欧米では、100個の製品のうち、不良品が1個発生しても許されるが、日本では、1,000個のうち、1個でないと許されないので、その精度を高めるために、欧米と比較して、日本では労働時間が1割~2割増えるということです。そこで、政府は、日本の事業者の生産効率を高めるために、過剰品質を求めないようにすべきと、消費者側に訴えることの方が効果が高いと思われるのですが、そのような働きかけを私は目にしたことがありません。
もちろん、現在の日本の課題を解決するためには、消費者が過剰品質を求めなくなるだけではなく、事業者側も努力を行うべきですが、事業者側だけの努力よりも、社会全体で改善していくことの方が得策でしょう。会社で働いている従業員は、勤務時間でないときは消費者でもあるわけですから、事業者の仕事に寛容になることは可能だと思うし、それが社会を巡り巡って、自分自身を楽にすることになると思います。
海老原さんは、前述の記事で、次のように述べておられます。「私も、パリで電車が事故に遭ったとき、駅で降ろされ、代替チケットはもらえず、道案内さえ出ていなかったことがありました。それでも乗客は何一つ文句を言いません。日本なら、チケットの払い戻し、代替チケットの受け渡し、交通機関の紹介、遅延証明の発行などを行い、その上平身低頭するのが駅員の常でしょう。にもかかわらず、日本の乗客は彼らに罵声を浴びせて悪態をついたりするのです。真逆ではないですか?」
2021/11/24 No.1806