[要旨]
銀行は人事部の権限が強く、上意下達の文化がありましたが、若手職員のモチベーションが低下していることから、一部の銀行では、人事戦略を転換しはじめました。その結果、今後、銀行は優秀な人材の確保に期待できるものの、その結果、融資相手の会社の選別強化につながる可能性もあります。
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日経ビジネス2021年5月17日号に、三井住友銀行の人事戦略の変更に関する記事が書かれていました。すなわち、銀行は人事部が強い力を持ち、上意下達の文化があるが、最近は、銀行業務にやりがいを感じない、若手銀行職員の転職が増加傾向にあった。そこで、三井住友銀行では、システムを導入したりして、職員のモチベーションを阻害する要因を究明し、改善につなげる方針に転換した、というものです。
同行の方針は評価できますが、他の業界から見れば、銀行業界の対応は遅いと感じる方も多いと思います。とはいえ、私は、銀行には特殊な事情があることを考慮すべきと思います。というのは、銀行自身にも責任があるとはいえ、山一ショック、リーマンショック、東日本大震災と、社会的な経営環境悪化のあった際は、銀行は、一般の会社よりも、大きな負担を受けてきたことは事実だと思います。
これについては、「銀行は、政府から資本注入を受けるなど、それなりの手当てをされている」と反論する方もいると思いますが、それによって負担が緩和されるとしても、銀行の負担が大きいことは事実です。そのため、銀行では、経費削減策として、職員数を減らした結果、職員ひとりあたりの業務量が拡大し、人材育成や、前向きな人事戦略の着手などは、後回しになっていたことも事実です。
このような事情を鑑みると、銀行の人事戦略が古いままだったということは、同情できる余地はあると、私は考えています。だからといって、銀行に責任がないわけではなく、また、いまの状況を放置していることも銀行自身にとっても望ましくない状況ですので、三井住友銀行のような取組に対しては、大いに評価し、また、期待したいと思っています。
しかし、今後、銀行の人事戦略転換が奏功して行ったとしても、それは、必ずしもすべての中小企業にとってメリットにつながるとは限りません。銀行は、学生や預金者から選別されているわけですから、銀行側も、「優秀な銀行職員」によって、融資相手を選別することになります。融資を受けている中小企業は、これからは、「優秀な銀行職員」と切磋琢磨できる関係が、より強く求められるようになって行くものと思います。