鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

亡くなった方の預金はおろせない?

[要旨]

銀行の利用者の中には、「贈与は110万円しかできない」、「亡くなった方の預金は『凍結』される」などの勘違いをしている方がいますが、それらはいずれも誤りです。


[本文]

前回、個人情報保護と守秘義務について書いたのですが、今回は、それに関連して、銀行にいるとよく耳にする「勘違い」について書きたいと思います。今回の記事の中には、「わざわざ書いてもらわなくても、すでに分かっている」というものもあるかもしれませんが、その場合はご容赦ください。ひとつめは、「贈与は、1年で110万円しかできない」という勘違いです。この110万円は、結構、一人歩きしていると思います。

でも、110万円という金額は、贈与税基礎控除額のことで、贈与された人が贈与税を払わなくてすむ上限額のことです。したがって、贈与税を支払うことになるものの、贈与すること自体に制限があるわけではありません。そこで、「贈与税がかからないように贈与するには、1年で110万円までが限度となる」という言い方が正しいということになります。しかし、もうひとつ、勘違いされているのは、110万円という「限度」は、贈る側の限度と思っている人もいるようです。

でも、これは、受け取る側の「限度」なので、2人の人からそれぞれ60万円ずつの贈与を受けた人は、10万円(=60万円+60万円-110万円)について、贈与税の課税の対象になります。そもそも、贈与する側に贈与税を払う義務はありません。次に、預金していた方が亡くなったとき、その亡くなった方の預金は「凍結」されるというものです。「凍結」という状態がどういう状態なのかはさておき、亡くなった方の預金がすぐに引出せなくなるということについては、多くの方が感じているようです。でも、亡くなった方の預金は、すぐに引き出すことができます。ただし、相続人全員がそろって銀行に申し出ることが前提です。

預金を含む財産は、相続が発生(被相続人の方が死亡)した時点で、相続人が複数いる場合は、それらの相続人の共有財産になります。したがって、相続人全員が預金を引き出ししたいと銀行に申し出れば、銀行はそれに応じます。ただ、相続人が全員そろっているということを銀行に証明するために、戸籍謄本などを提示する必要があります。多くの方は、そのような資料を揃えることに慣れなていないので、被相続人が亡くなってから資料を揃えるまで、しばらく預金を引き出せないでいるということが、しばしば起きていることも事実でしょう。

でも、例えば、相続人が配偶者と子どもだけだったら、戸籍謄本などの資料提出は、それほど難しくないと思います。そこで、婚外子がいたり、代襲相続があったりといった、複雑な事情がなければ、亡くなった方の預金を引き出すことは、それほど難しくないとお考えいただきたいと思います。(なお、亡くなった方自身が融資取引をしていたり、生前、経営していた会社の融資取引の保証人になっていた場合、それらの取引をどうずるかということが決まるまでは、預金の引き出しを待って欲しいと、銀行から依頼されることがありますので、ご注意ください)

ところで、これは司法書士の方からときどき聞くのですが、「法定相続割合で相続するのだから、銀行に対して、遺産分割協議書の提出は不要のはずだ」という疑問を持つ方がいるようです。でも、前述のように、相続人全員が揃っていれば、預金は引き出すことができるので、そもそも、遺産分割協議書の提出は不要です。ただ、亡くなった方の預金を解約せずに、相続人の方のうちの1人の名義に名義変更する場合、それをその他の相続人も合意していることを確認する必要があります。

したがって、それを確認するために、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。すなわち、遺産分割協議書の提出は、預金を払戻すために必要なのではなく、取引の名義を変えるために必要なものです。でも、前述の疑問は、「法定相続割合で相続するのだから、遺産分割協議書の提出は不要のはずだ」というもので、そのような疑問を持つ方は、法定相続割合での相続であれば、遺産分割協議書の提出(もしくは、その作成)は不要だと考えているのでしょう。

確かに、法定相続割合での相続が行われる例は多いと思いますが、それは、法律で定められている割合で相続が行われるというだけのことです。したがって、法定相続割合で相続が行われるとしても、銀行の預金が誰に相続されるのかは、銀行にはわかりません。もし、預金を引き出すだけなら、前述のように、遺産分割協議書の提出を求めることはありませんが、預金の名義を変更する場合は、法定相続割合での相続であるかどうかにかかわらず、遺産分割協議書の提出が必要になります。以上、今回は、銀行にいるとよく耳にする「勘違い」について説明しました。

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