[要旨]
価格を下げたり納期を早めたりする顧客迎合を、顧客満足と勘違いしている会社が多いようです。しかし、自社の事業活動が顧客に評価されているかどうか、すなわち、利益を獲得できているかどうかに注目しなければ、意味のある事業活動を行うことにはなりません。
[本文]
植松電機社長の植松努さんのご著書、「NASAより宇宙に近い町工場」を拝読しました。同書の中で、植松さんは、「日本の多くの会社では、顧客迎合を顧客満足と勘違いしている」と述べておられました。植松さんによれば、「価格を下げたり納期を早めたりする『顧客迎合』を、『顧客満足』と勘違いしている会社が多いが、本当の『顧客満足』とは、顧客に、自社製品を使ってもらって、その良さに驚いてもらうこと」だそうです。
では、植松さんは、どうやって顧客に驚いてもらっているのかというと、「ニッチ市場を創っている」そうです。植松電機の主力商品は、ごみをリサイクル(分別)するときに使う、パワーショベルに取り付けるマグネットですが、顧客から依頼されてから製品を作ることはせず、まず、自社で製品を作ってみてから、顧客に使ってもらい、役立つ製品かどうかを確かめてもらうという方法をとっているそうです。同社では、このような方針で事業に臨んでいった結果、現在、同社の顧客の70%は一部上場会社に、製品のシェアは90%になっているそうです。
私は、以前から、「顧客迎合」と「顧客満足」の違いを理解してもらうことが難しいと感じていたのですが、植松さんの説明を読んで、すっきりすることができました。よく、中小企業で、自社製品がなかなか売れないときに、製品価格を下げることで、売上を得ることがあります。でも、これは、まさに、植松さんのいう、「顧客迎合」です。なぜなら、価格を下げれば利益が得られないことになり、これを言い換えれば、自社の製品や事業活動の価値を認めてもらっていないということでもあります。
でも、植松さんの会社では、顧客に取り入るのではなく、自社で製品を開発し、その製品の品質や性能に納得してもらった上で製品を購入してもらっています。すなわち、顧客に、植松さんの会社の製品や事業を評価してもらっているということです。「顧客迎合(不採算な取引)」と「顧客満足(正当な評価の獲得)」は、いずれも、製品(もの)や売上代金(かね)の移動があるので、表面的に両者を区別することが難しいときがあります。でも、「顧客の評価(利益)」が得られているかどうかという点でみれば、両者は、真逆です。
本題からそれますが、ローコストオペレーションというものがあります。ローコストオペレーションの目的は、製品の販売価格を引き下げて競争力を高めることですが、それは、オペレーション(事業活動)のコスト(経費)を下げるという手法です。これは、利益額を縮小して販売価格を引き下げることではなく、販売価格を引き下げしても、適正な利益額を確保することに意味があります。したがって、ローコストオペレーションを実践することは、「顧客迎合」をすることではありません。
話を戻して、植松さんのご著書からは、多くの気づきを得ることができたのですが、前述の「顧客満足」と「顧客迎合」は違うということが最も大きな気づきでした。繰り返しになりますが、単に、顧客に迎合して、製品を販売することだけに目が向いていると、事業の採算が得られないことにつながり、事業を継続できなくなります。自社の事業活動が顧客に評価されているかどうか、すなわち、利益を獲得できているかどうかに注目しなければ、本当に意味のある事業活動を行うことにはなりません。