[要旨]
日本では、若い人から意見を言われると、体面を維持するために否定してしまう人が少なくありません。ただ、意見を言うという前向きな姿勢が評価されないと、職場が活性化せず、事業活動が停滞してしまう可能性も高くなるので、注意が必要です。
[本文]
市場調査会社のハース・トーリィの代表取締役の日野佳恵子さんが、日野さんの配信するポッドキャスト番組で、日野さん自身が過去に失敗したご経験についてお話しておられました。その概要は、広告会社から独立し、フリーランスになったばかりのころ、当時、20代の日野さんが、ある人から依頼されて、講演を行ったそうです。そして、話を始めて10分くらい経ったときに、聴衆のひとりの、40代くらいの男性が、「そんな話を聴きたいのではない」とではないと怒り出し、会場から出ていったそうです。
日野さんは、講演の後、ショックを受けて再び講演することができなくなってしまったため、知人のカウンセラーに相談したところ、その怒った男性が誰かを調べて、もう一度、その人の前で講演することを薦められたそうです。そこで、日野さんは、日野さんに講演を依頼した方に協力を求めて、再び、怒って出ていった方の前で講演をする機会を得たそうですが、再チャレンジの後、その男性から、感謝と謝罪のことばを得ることができたそうです。
日野さんがご自身の失敗談をお話した理由は、日野さんはしゃべることは得意であるものの、「あなたたちは●●すべき」という口調になってしまいがちなので、自分より年長の人に対しては、自分の話を受け入れてもらいにくい話し方になっていたので、たとえつらくても、失敗を経験することは、自分の弱点を克服するきっかけにすることができるということを、伝えたかったからのようです。ただ、私が日野さんのお話を引き合いに出したのは、私も、過去に、世代間の関係で不満を感じていたことがあったからです。
というのは、日本では薄れつつあると言っても、まだ縦社会の面が色濃く残っています。特に、私がかつて勤めていた銀行は、他の業界と比較して、上下関係は厳しい職場であったと思います。だからといって、「経営者や管理者の人たちは、立場や体面にこだわらず、若い人たちの意見も真摯に聞き入れなければならない」というようなことを述べるつもりはありません。では、どういうことを述べたいのかというと、私が20代から30代のときに上司に感じていたことは、すべての上司ではありませんが、上下関係に厳しい上司ほど、自分の立場を守ろうとして、部下の意見を否定していたようであるということです。
とはいえ、私も、自分の意見が聞き入れられないときは悔しいとは思いましたが、上司と対立することは、必ずしも賢明とは考えていなかったので、当時はうまくやり過ごすことが多かったのですが、それと同時に、もったいないとも思っていました。もったいないというのは、自分の考え通りにならないことがもったいないのではなく、そもそも、ビジネスの判断に100%正しいということはないのだから、部下から進言を受けたのであれば、そのやる気を買ってあげればいいのにと思っていたからです。
むしろ、自分の立場を守ろうとする上司にとっては、自分に何も言って来ない部下はありがたいのかもしれませんが、そのような職場は、何も変わることもなく、経営環境が激しい時代は、変わらないことは後退に等しいわけです。もちろん、時には器の大きい上司のもとで働けることもあったので、すべての上司が「もったいないことをしている上司」ということではなかったのですが、そのような上司はあまり多くなかったということも現実でした。
ただ、問題は、私の世代は、いまは、若い人たちから、たくさんの進言を受ける世代になりました。いま、私はフリーランスで、部下を持ってはいませんが、若い世代の方と接する機会は少なくありません。そういうとき、かつて、自分が前の世代の人たちに対して感じていた不満を、自分より後の世代の人たちに感じさせないようにすることができるかが問われています。自分の悔しい経験を、他の人にも経験させてしまっては、自分の経験は無意味になってしまいますね。