[要旨]
適切な在庫量は、会社の事業戦略によって決められるので、最終的には、経営者がどのような事業を行うのかによって、適切な在庫が決められるということになります。
[本文]
前回に引き続き、在庫管理の改善ポイントについてご説明します。今回は、在庫はどれくらい持つことが適切かということについて説明します。これに対する、教科書的な回答は、必要最小限の在庫を持つということです。典型的な例は、トヨタのかんばん方式のような思想です。
ただし、実際には、在庫を必要最小限にすることは、なかなか実践できません。なぜなら、それを実践するには、ある程度の管理コストが必要であり、経営資源の少ない中小企業では、管理のための労力は、収益機会を増やすことに振り向けた方が得策であるからです。
さらに、必要最小限の在庫を実現することが必ずしも最善とは限りません。なぜなら、会社の事業戦略によって、最も収益をもたらす在庫の考え方は変わって来るからです。例えば、ドン・キホーテやダイソーなどの、たくさんの量の商品を販売する小売業では、販売される数量の商品だけでなく、陳列するたくさんの商品も、在庫として所有することの方が、収益機会を増やすことにつながります。
一方で、デルやマウスコンピューターのように、あらかじめ、完成品を製造しておかずに、注文を受けてから、顧客の注文に応じた完成品を製造し、後日、顧客に届けるという戦略(ビルド・トゥ・オーダー(BTO)方式)をとる会社もあります。このような方式では、完成品がないという観点からは、顧客から注文を受けたにもかかわらず、在庫がないという状態ですが、それでも、BTOは、製品の価格が安いというメリットを打ち出すことで、顧客からの支持を得ています。
したがって、在庫はどれくらい持つことが適切かという問いについては、適切な在庫は、会社の事業戦略によって決まるので、最終的には、どのような戦略をとるかという経営者の判断によって、適切な在庫も決まると、私は考えています。これは、言い換えれば、経営者の意思で適切な在庫が決まるということです。