鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

正味現在価値法と内部利益率法

[要旨]

投資の妥当性を判断する方法である、正味現在価値法は、将来のキャッシュフローの現在価値がどれくらいあるかで検討する方法であり、内部利益率法は、将来のキャッシュフローの利回りがどれくらいかで検討する方法です。


[本文]

前々々回に、投資の妥当性を判断する方法の、回収期間法について説明しましたが、今回は、回収期間法以外の判断方法について、簡単に説明したいと思います。ひとつめは、正味現在価値(Net Present Value、NPV)法について説明します。NPV法とは、NPV、すなわち、新たな投資によって、将来、得られるキャッシュフロー(CF)の現在価値と、初期投資額の差額が、プラスであれば妥当であると判断する方法です。また、複数の投資案件を比較するときは、NPVの大きい方がよりよい投資であると判断します。

では、新たな投資によって、将来、得られるCFの現在価値、すなわち、割引キャッシュフロー(Discounted Cash Flow、DCF)は、どのように計算するのかというと、将来のCFを、会計年度ごとに利子率で割引き、それらを合計して計算します。ここまでの説明を式にすると、NPV=DCF-初期投資額となり、NPVが大きいほど、妥当性が高くなるということです。例えば、F社が、新たに4,000万円の機械Gを購入し、機械Gで製品Hを製造することで、毎年1,000万円のCFを、5年にわたって得られる見込みであったとします。

このとき、F社は、銀行から5か年の融資の金利が年利2%なので、将来のCFを2%で割り引いてDCFを計算することにしました。その結果、DCFは、1,000万円÷(1.02)+1,000万円÷(1.02)の2乗+1,000万円÷(1.02)の3乗+1,000万円÷(1.02)の4乗+1,000万円÷(1.02)の5乗=4,713万円と計算されます。したがって、NPVは、DCF4,713万円-初期投資額4,000万円=713万円となり、妥当な投資であると判断できます。

つぎに、内部利益率(Internal Rate of Return、IRR)法について説明します。IRRとは、新たな投資によって、将来、得られるCFが、初期投資額を何パーセントで運用した成果であるかという、利回りのことです。その計算方法は、前述のF社の例で説明すると、IRRをr%としたとき、初期投資額4,000万円=1,000万円÷(1+r)+1,000万円÷(1+r)の2乗+1,000万円÷(1+r)の3乗+1,000万円÷(1+r)の4乗+1,000万円÷(1+r)の5乗となるときの、rを求めます。(ちなみに、rが2%の場合、前述の、F社の投資のDCFを求める式と同じになります。したがって、IRRは、将来、得られるCFと、初期投資額を同じ金額にする割引率と言い換えることもできます)

とはいえ、このrを求める数式は複雑なので、その説明は割愛しますが、表計算ソフトのExcelのIRR関数を使うと、比較的容易に求めることができます。具体的には、Excelファイルを開き、任意のセルに、「=IRR(4000万円,▲1000万円,▲1000万円,▲1000万円,▲1000万円,▲1000万円)」と入力すると、7.93%という解が得られます。

したがって、F社の投資案件の利回りは、7.93%であるということになります。これは、F社の5か年の融資利率の2%よりも高いので、妥当な投資であるということが分かります。また、NPV法と同様に、複数の投資を比較するときは、IRRの高さで比較することができます。さらに、複数の投資について、NPV法とIRR法のそれぞれの結果を比較すると、さらに精緻な判断ができます。

ただし、中小企業においては、NPV法とIRR法は、実際には使われることは少ないと思います。なぜなら、中小企業では、投資案件自体が少なく、また、新たな投資で大きな利益を得にくい環境にあることから、回収期間法で、採算が得られるかどうかを検討すれば足りると考えられるからです。ただし、投資の妥当性を検討する方法として、NPV法やIRR法を知っておくことは、経営者の方の判断の幅を広げることになることは間違いありません。

 

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