金融庁は、令和元年12月18日に、金融
検査マニュアルを廃止しました。
(ご参考→ https://bit.ly/37QHrFS )
ところで、この、金融検査マニュアルの廃
止については、これまで、私だけでなく、
多くの人が、中小企業の融資への影響につ
いて述べて来ました。
ところが、「金融検査マニュアル=金融機
関の融資審査マニュアル」と考えている人
が多いということを、先日、別の人から聞
いたので、この、廃止されてしまった金融
検査マニュアルについて、改めて説明した
いと思います。
金融検査マニュアル(以下、単に「マニュ
アル」と述べます)は、金融庁の前身であ
る金融監督庁が、平成11年に制定したも
ので、金融庁が金融機関を検査するための
マニュアルです。
したがって、マニュアルは、金融機関が使
うものではなく、金融機関はマニュアルに
したがって行われる検査の対象ということ
になります。
さらに、このマニュアルは、金融機関の業
務(融資業務だけでなく、預金業務、為替
業務、電算システム運用、市場取引などを
含む)について、正しいプロセスで行われ
ているかどうかを検査するためのマニュア
ルで、SOX法の考え方が取り入れられて
いたという点では、当時としては画期的で
した。
ところが、マニュアルは、一般的には金融
ないものと思われるものの、金融機関から
融資を受けている中小企業からも関心が持
たれていたのには、理由があります。
それは、「金融検査マニュアル別冊〔中小
企業融資編〕(以下、単に『別冊』と述べ
ます)」というものがあり、これが金融機
関の中小企業への融資に大きく影響してい
たからです。
(ご参考→ https://bit.ly/307HGJT )
金融機関関係者以外の人が、「金融検査マ
ニュアル」を口にしたときは、大抵は、こ
の「別冊」を指していると言えます。
ここにはどのようなことが書かれてあるの
かというと、ひとことで言えば、中小企業
への融資について、どのように債権分類の
判断するのか、という事例が書いてありま
す。
この、債権分類とは、融資の回収見込みに
よって、「非分類」(回収に問題のない融
資)、「Ⅱ分類」(回収にやや疑問のある
融資)、「Ⅲ分類」(回収に大きな懸念の
ある融資)、「Ⅳ分類」(回収が不可能な
融資)に分けられます。
これは正確ではありませんが、例えば、赤
字の会社への無担保の融資はⅡ分類、債務
超過の会社への無担保の融資はⅢ分類とい
うように判定されます。
ところが、「別冊」には、例えば、債務超
過の会社への融資であっても、資産を持っ
ている社長が個人保証をしている場合、非
分類にすることは妥当であるというような
事例が書かれてあります。
このような事例が別冊に書かれていること
から、金融機関は、それと同様の融資につ
いても、非分類と判断することが容易にな
ります。
では、なぜ、金融機関は業績のよくない会
社への融資について、より、安全な融資で
あると判定しようとするのかというと、貸
倒引当金を少なくすることができるように
なるからです。
このような事情から、別冊は、実態として
は、業況があまりよくない金融機関を救済
しているという側面がありました。
ですから、金融検査マニュアルが廃止され
ると、これからは、債権分類の判断の目安
がなくなることになり、金融機関は業績の
よくな会社への融資に消極的になるのでは
ないかと懸念されています。
恐らく、実際には、急激な変化はないもの
の、これからは、債権分類の判断は金融機
関が独自に行わなければならなくなり、金
融庁の調査が行われた時に、その判断理由
などを説明する必要があることから、表面
的に業況のよくない会社への融資は、消極
的になる可能性のあることは否めません。
ちなみに、目利き能力を高めることと、債
権分類を適切に行うことは、まったく無関
係とはいえませんが、別のものなので、
「金融機関が目利き能力を高めれば、マ
ニュアル廃止後の債権分類に影響はない」
ということはできません。
したがって、金融機関が融資判断をする際
に、なるべく、決算書などの財務諸表だけ
で判断できるようにするといった対応が、
融資を受ける中小企業にとって必要になっ
ていくと、私は考えています。
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