公認会計士の青木寿幸さんのご著書、「お
金を集める技術-あなたの『アイデア』
『ノウハウ』『事業計画』に資金が集まる
成功するファンドのつくり方」
( https://amzn.to/2s4jTem )そ拝読しま
した。
同書はタイトルから分かる通り、事業のた
めの資金調達の方法としてのファンドの組
成が本旨です。
ただ、私は、本旨ではないですが、青木さ
んがある顧客から受けた相談の内容につい
て関心を持ちました。
その内容も、やや難解なので、少し噛み砕
いて引用すると、次のようなものです。
すなわち、相談者の方は、ある事業を始め
るにあたって、投資家から1億円を集めて
会社をつくり、事業で得られた利益から
3か年で2億円の配当を行う計画である。
さらに、株式を上場させることができれ
ば、投資家の利回りは10倍以上が見込め
るので、資金調達は成功すると思うがどう
だろうかというものです。
これに対して、青木さんは「資金調達」は
失敗すると断言しました。
ここでご注意いただきたいのは、事業が成
功するかどうかということを青木さんは前
提としていません。
「資金調達」が失敗すると断言しているの
です。
確かに青木さんは公認会計士という高い専
門性をお持ちの方ですが、資金調達は会社
経営者の方にとっても重要な事柄なので、
私も、なぜ青木さんが前述のご相談者の方
の計画がうまくいかないのかということを
理解しておく必要があると思います。
では、この事例でなぜ資金調達が失敗する
のかというと、投資の利回りを示すことが
できていないからです。
ご相談者は3年間で配当を2億円行うと示
しているため、利回りを示していると考え
ていたと思うのですが、この情報では不十
分です。
利回りを確定させるためには、どれくらい
の元本が返ってくるかを示さなければなり
ません。
そのためには、会社の株式を上場させたと
きの見込みの株価を示すか、上場できない
ときの会社の売却見込み額を示さなければ
なりません。
ここで、上場や会社の売却を前提にしない
と出資者を募ることができないのかと考え
る方が多いと思います。
もし、そう考える方は、出資と融資を混同
しているのだと思います。
仮に、1億円の融資をして、3年後に3億
円(融資元金1億円+利息2億円)が戻っ
てくるとしたら、この「条件」は魅力的か
もしれません。
でも、1億円の出資(株式の購入)をし
て、2年間に2億円の配当がもらえるとい
う条件は魅力的でしょうか?
もちろん、両者には、そのお金を融通する
相手の信用リスクを負わなければならない
という点では共通していますが、両者の違
いは、事業が失敗したときの責任の有無で
す。
融資の場合、融資先の会社の事業が失敗て
も、その責任はなく、会社に元金と金利を
支払わせる権利が残ります。
一方、出資の場合は、事業が失敗した責任
を出資者も負うという点で、融資の場合と
180度異なります。
もちろん、融資をした場合に、その相手に
返済の能力がなければ、その権利を行使で
きませんが、出資の場合、会社の当事者と
して責任を果たす(出資金を限度にお金を
失う)ことになるという違いがあるという
ことです。
それは、2億円の配当では釣り合わないと
考えるべきというのが青木さんが資金調達
が成功しないと考える最大の理由です。
もう少しありていに言えば、上場する前の
会社への出資は、事業が成功する確率は
10%にも満たないので、少なくとも計画
の段階で元本が10倍以上にならなければ
見合わないということが現実です。
(さらに、厳密にいえば、株式を売却でき
る状態になるかどうか(これを流動性の確
保といいます)で、条件も変わってきます
が、ここではその説明は割愛します)
ここで、元本を10倍にしなければならな
いという前提は厳しいと感じるかもしれま
せん。
でも、東証1部上場の会社の株式さえ、元
本は保証されていません。
もちろん、値上がりも期待できますが、仮
に倒産してしまえば、株式を購入した代金
は帰ってきません。
株式を上場している会社と上場していない
会社を比較することは適切ではないのです
が、株式を上場していない会社のの出資は
リスクが高く、元本が10倍以上になる見
込みを示さないと、出資者しようとする人
は現れないということです。
繰り返しになりますが、これは、裏を返せ
ば、出資をする側は少なくとも10社に1
社は出資をしたお金は返ってこないと考え
ているということです。
最近、クラウドファンディングで資金調達
が成功しているという例をきくことも増え
て来ましたが、そもそも、それは利回りよ
りも社会貢献を優先する方たちの出資であ
り、比較すること自体が無意味です。
今回引用した事例から学び取ることはたく
さんあるのですが、私がお伝えしたいこと
は、自らが行おうとする事業のリスクは、
第三者からみるとものとても大きいという
ことです。
このような情報については、一般の方はあ
まり触れることはないのですが、銀行が創
業者向け融資に信用保証協会の保証を条件
にしたり、創業者に30%程度の自己資金
を求めたりする理由はこのような事情があ
るからなのです。
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