鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計のルールと決算書

昨年、ある税理士事務所の所長さんから、

次のような質問を受けました。


「顧問先で中小会計要領に基づいて会計処

理を行っている会社があるが、その会社で

時価が下がっているゴルフ会員権を、中小

会計要領の規定どおりに取得原価で計上し

ている。


このような会計処理は、銀行の融資審査に

おいてはどのようにみるのか」というもの

です。


結論とすれば、ゴルフ会員権の価額を時価

でみます。


そして、帳簿価額と時価の差額を純資産か

ら減らします。


このこと自体は、私に質問した所長ご自身

も容易に理解できることでり、所長は念を

押す意味で質問したのでしょう。


では、なぜ、質問をするようなことが起き

てしまうのでしょうか?


まず、所長の質問に出てきた、中小会計要

領はどういうものかというと、中小企業関

係者、金融機関関係者、会計専門家によっ

て作成された、中小企業が会社法上の計算

書類等を作成する際に参照するための会計

処理や注記等を示すものです。


ひとことで言えば、中小企業のための会計

ルールのことです。


(ご参考→ https://goo.gl/Duc9vg


次に、中小会計要領の、ゴルフ会員権に関

する具体的な規定を見てみます。


第8条 固定資産


(1)固定資産は、有形固定資産、無形固

定資産び投資その他の資産に分類する。


(2)固定資産は、原則として、取得原価

で計上する。


(中略)


(6)固定資産について、災害等により著

しい資産価値の下落が判明したときは、評

価損を計上する。


所長は、第8条第2項の「固定資産は、原

則として、取得原価で計上する」を適用し

て、ゴルフ会員権を、取得原価(=購入し

た時の価額)で計上するよう、顧問先にご

指導されておられるのでしょう。


一方で、第6項で「著しい資産価値の下落

が判明したときは、評価損を計上する」と

規定しており、私は、ゴルフ会員権におい

ても、取得価額まで値上がりが見込めない

場合は、この規定を適用すべきと考えてい

ます。


確かに、この第6項だけでは、ゴルフ会員

権の取り扱いについては明確ではありませ

んが、少し規模の大きな中小企業を対象と

した会計ルールである、中小会計指針の第

38条には、直接にゴルフ会員権について

の記載があります。


具体的には、「ゴルフ会員権は、取得原価

で評価する。


ただし、ゴルフ会員権の計上額の重要性が

高い場合で、時価が著しく下落したとき

は、減損処理を行う」と規定されていま

す。


とはいえ、何が正しいかを議論することが

この記事の本旨ではありません。


前述の所長も、本来ならゴルフ会員権は、

時価で資産に計上した方がよいということ

はわかっているのですが、そうすると、購

入したときの価額と時価の差額を損失とし

て計上しなければならず、それがなかなか

できないでいるということが問題の本質で

す。


中小要領では、そこがあいまいなため、あ

えて購入した時の価額で資産計上を続けて

いるのだと思います。


しかし、前述のとおり、銀行が融資審査を

するときは、ゴルフ会員権を時価としてみ

ているので、もし、融資審査以外に支障が

なければ、時価で計上することをお薦めし

ます。


もうひとつ、この記事でお伝えしたいこと

は、会計のルールには、ある程度、利用す

る会社の判断に委ねられている部分がある

ので、決算書が必ずしも会社の実態を表し

ているとは限らないということがあるとい

うことです。


ちなみに、これには逆の例もあり、多くの

資産を持っている会社経営者が、相続税

価額を低くするために、自分が株式を持つ

会社をあえて赤字にしているという場合も

あります。


今回の記事の結論は、決算書は経営者(株

主)の都合で必ずしも実態が反映されてい

るとは限らず、そのため、銀行は決算書だ

けでは融資審査をせず、他の詳細な資料を

求めることもあるということです。

 

 

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