鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

融資申込と事業計画

融資の申込をするには、事業計画が必要だ

と考える人は大部分を占めると思います。


しかし、そうは言いながら、融資を受ける

ために仕方なく作るという方も多いと思い

ます。


むしろ、事業計画は作らずにすませたいと

いう方も少なからずいるようです。


これは極端な例ですが、「融資の申込をし

たら、銀行から事業計画を出せと言われた

ので、作って欲しい」と私に依頼されるこ

とがありますが、「では、貴社の事業の内

容を教えて欲しい」と依頼すると、「そん

な面倒なことをしたくないから専門家に頼

んでいる」と言われることもあります。


要は、事業計画は融資申請の手続きのため

だけの書類としか考えていないということ

のようです。


話しを戻すと、事業計画を作成することに

否定的に感じる理由として、銀行には口頭

で自社の状況を伝えるだけで済むと考えて

いる方も多いという事情もあると思いま

す。


そのように考える要因として、かつて、中

小企業金融円滑化法(融資のリスケジュー

ル、すなわち、融資条件の変更によって、

融資の返済の猶予を促す法律)の申込は、

口頭だけで申し込みがあっても極力受け付

けるようにとの当局からの指導があり、多

くの金融機関では、事業計画を含む書類の

提出を受けずに条件変更に応じた例がある

ということです。


また、金融検査マニュアル別冊中小企業編

でも、例えば、事例12の解説として、次

のように記載されています。


「中小・零細企業等の債務者区分の判断に

当たっては、今後の業況見通しや借入金の

返済能力の判断について、債務者が作成し

た経営改善計画や収支計画等によって確認

することが望ましいが、それらがない場合

であっても、例えば、本事例のように、金

融機関が返済条件の緩和を行う際、債務者

の今後の収支見込等を基に返済能力を検討

した資料等で確認することもできると考え

られる」


この事例の会社は、「3期連続で赤字を計

上、財務内容は倉庫部分の減価償却不足額

を加味すると実質債務超過状態に陥ってい

る」会社で、金額は明確に書かれていない

ものの、恐らく約2~3億円程度の融資に

ついて「3年前から元本返済猶予の条件緩

和」に応じているようです。


このような会社であっても、同マニュアル

では「経営改善計画や収支計画等による確

認」を必須としなくてもよいと記載してい

ます。


このような当局の指針が示されていること

から、事業計画がなくても融資の申込は可

能と考えている方もいるということです。


もちろん、確実に融資に応じてもらえるよ

うにするためには、自ら作成した事業計画

を書面で提出することが望ましいわけです

が、もうひとつ、別の観点から事業計画に

関する考え方について述べたいと思いま

す。


金融機関は、なぜ、融資先の事業計画にこ

だわるのかというと、融資先を支援したい

ということだけに限らないということで

す。


前述の金融検査マニュアル別冊中小企業編

を読んでもらえると分かるのですが、例え

ば、事例28の解説では、「債務者は、本

業は順調であるものの出資金の減損という

一時的かつ外部的な理由により、大幅な赤

字、債務超過状況に陥っているものの、本

業である水産加工業は順調であり、また、

キャッシュフローの状況も悪化しておら

ず、今後も当初約定通りの返済が可能であ

るならば正常先に相当する可能性が高いと

考えられる」と記載があるなど、業況のよ

くない会社であっても、正常先として取り

扱うことを可能とすることを認めていま

す。


この意味するところは、債務超過先への融

資金は約70%の貸倒引当金を積まなけれ

ばならないけれど、正常先であれば数%の

貸倒引当金ですむということです。


金融機関が事業計画にこだわる本当の理由

は、金融機関にとって費用である貸倒引当

金を減らすということです。


これは、メガバンクなどの経営基盤が強く

て余裕のある銀行の場合、前述の事例のよ

うな会社に接したときは、検査マニュアル

の解釈を適用せずに、決算書通りの債務超

過先として貸倒引当金を積むということも

あります。


そのようにすることの方が効率的であると

メガバンクは考えているからです。


話しを戻すと、金融機関が要求する事業計

画は、融資をする側の事情で要求している

ということです。


だから、「銀行への事業の見通しの説明は

口頭で行うだけでだいじょうぶだった」と

しても、それは、必ずしも、その会社の将

来はだいじょうぶであると銀行が確信した

とは限らないということです。


結論は、仮に、銀行が書面ではなく口頭で

事業計画を説明してくれればよいと言った

としても、それはその会社に対して事業計

画がなくてよいというお墨付きを銀行が出

したわけではないということです。

 

 

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