松下幸之助さんのご著書「商売心得帖」
( http://amzn.to/2r6rbLs )に、お菓子屋
さんのお話しが載っていました。
これは、松下さんが知人から聞いた話と
して書かれており、具体的には次の通り
です。
すなわち、ある町のお菓子屋さんに、
身なりのみすぼらしい人がまんじゅうを
買いにきました。
ところが、店員が躊躇しているのを見て、
店の主人がまんじゅうをその顧客に渡し、
代金を受け取ると深々と頭を下げました。
店員の方は、普段は店に出ない主人が、
あえて店に出てきたところを不思議に
思って、その理由を尋ねたところ、店の
主人は、なかなかまんじゅうを買うことが
できない人が、わざわざ買いに来てくれた
のだから、このことは商売冥利であり、
普通の人が買いに来てくれたときよりも
感謝しなければならないと答えたという
ことでした。
この話を読んで、私は、銀行で働いて
いたときのことを思い出しました。
私が、あまり業況のよくない会社の
経営者の方から融資の申し込みを受けた
ことがありました。
ひととおり話をきいたあと、その社長は
歳下の私に深く頭を下げて帰って行き
ました。
もちろん、その社長は、私個人に頭を
下げたのではなく、銀行職員という
肩書に頭を下げているということは
分かっていたのですが、「赤字の会社
からの融資の申し込みは、稟議書を
書くのに苦労するなぁ」という気持ちが
私の顔に現れていたのだと思います。
その様子を見た上司から、「業績のよい
会社と、業績のよくない会社では、
銀行は融資金利などで差をつけなければ
ならないが、接し方は、どの会社にも
平等にしなければならない。
そうでないと、業績の悪い会社には
銀行は冷たい態度をとると思われて
しまうようになる」と、注意を受け
ました。
その後、私は、顧客とお話をするときは
どんな顧客に対しても、相手を尊重して
話を聞くように心がけました。
前述の松下さんの聞いたお話しも、
そこまでは言及されていないものの、
お菓子屋の主人は丁重に顧客に礼を
述べた一方で、代金については、
きちんと正価を受け取ったと思います。
感謝をするということは、正価を受け
取ることが前提となっているでしょう。
銀行の融資についても、赤字の会社へ
融資をするときは、銀行はその会社から
リスクに見合った金利を受け取ります。
ですから、融資先の業況が違うからと
いって、接し方も変えていいということ
にはならないということになります。
また、このことは、融資を受ける側にも
当てはまると言えます。
これも、私が銀行で働いていたときのこと
ですが、「同業者のA社が融資金利を
2%に引き下げてもらえたのだから、
自社も同じ金利にして欲しい」という
ような依頼を受けることが、ときどき
ありました。
その会社の社長も、本当は、A社と自社
では、業況が違うということを分かって
いても、表向きはそれを認めたくない
ために、銀行に無理をききいれさせる
ことで、面目を維持しようとしたので
しょう。
業績の結果に応じて銀行は融資金利を
決めているわけですから、横車を押す
ことによって金利を引き下げようとする
ことは、正当な取引をすることには
ならないでしょう。