ある会社さまから融資のご相談を受けたときに、私から「この決算書だけでは、うまく貴社の状況を銀行に伝えられない」とお伝えしたところ、「この決算書は税務署で受理されている。何が問題なのか」と経営者の方から返答されたことがあります。これは、経営者の方からだけでなく、税理士の方からも同様のことを言われることもあります。すなわち「この決算書は税務署に提出し、受付印も押印してある」というものです。このような反応をする経営者の方や税理士の方にとって、「決算書=納税額の計算書」という位置づけになっているのでしょう。
このことは、多くの方に知られていますが、会計には投資家や銀行向けの財務会計、税務署向けの税務会計、経営者向けの管理会計があります。ただ、中小企業では、財務会計と税務会計を作り分けることが負担であることから、税務署向けに作成した会計をそのまま投資家や銀行向けの決算書としていることが多いようです。さらに、経営者向けの管理会計を利用していない会社は、結果的に税務署向けの決算書が唯一の決算書となってしまいます。
ここで述べたいことは、単に、税務会計だけでなく、財務会計や管理会計も導入しなければならないということではありません。税務署に提出する決算書は、納税額の計算に誤りがあるかどうかということでしか評価されていません。納税額の計算に誤りがなければ、特段、税務署から訂正は要請されません。しかし、納税額の計算が正しく行われた決算書が、必ずしもその会社の特徴を銀行に正しく伝えているかというと、そうとは限りません。
銀行は、決算書を会社の成績表であると位置づけているわけですから、自社のすばらしさが伝わるないようでなければなりません。決算書は税務署が受付してくれたからそれでよいと考えず、銀行に自社のことが正しく伝わっているかどうかという観点でも見る必要があります。さらには、経営者の方が会計を経営判断に活用できるよう、管理会計を導入すると、さらに事業の改善ははかどることでしょう。