鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

あえて『しゃベらない接客業』を募集

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、カスタマー業務担当者の中には、電話対応はうまいが、メールは苦手という社員がいる一方で、わかりやすいメールは書けるのに、いつも電話では緊張してしまい、予期せぬ質問をされると、しどろもどろになる人もいたことから、「しゃベらない接客業」というコピーで求人を行ったところ、予想を超える応募があり、優秀な人を採用することができたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんは、新人マネジャーが部下が成長しないことで悩んでいるときは、部下は上司によって成長するのではなく、部下自身が成長しようとして成長すると伝えるそうですが、それは、部下の成長を待つよりも、業務の仕組み化を進め、あまり能力が高くなくても業務が遂行できるようにすることが大切であり、そのような仕組み化を行う能力がマネジャーには求められているからだということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、人材採用の方法について述べておられます。「作業ベースでの業務分類を始めたのは2010年頃だった。前述したように、カスタマー業務が一人前にできるまでに時間がかかるのが悩みだった。一人ひとりの仕事の様子を見ると、電話対応はうまいが、メールは苦手という社員がいた。電話では言われたことにパッパッと答えているが、伝えるベきことを整理してにメールを書くのに時間がかかった。一方、わかりやすいメールは書けるのに、いつも電話では緊張してしまい、予期せぬ質問をされると、しどろもどろになる人もいた。

そこでカスタマー業務を分類し、必要な能力のある人を募集した。メール対応スタッフは『しゃベらない接客業』とコビーを変えて募集してみた。『お客様に直接会わなくてもいい、電話もしない顧客対応スタッフです』という求人広告に予想を超える応募があり、優秀な人を採用できた。情報を整理して相手に伝わるよう構成する能力が必要なので、採用試験では『こういうトラプルが起きました、これについてお詫びのメールを書いてください』という課題を出した。

採用した人たちはメールの文章がうまいので、今では総合職社員が文章をチェックしてもらうほどだ。商品カウンセリング課は、健康や美容の相談がおもな仕事なので、管理栄養士、コスメコンシェルジュなどの資格がある人を採用した。受注処理専門スタッフ、変更・対応専門スタッフなどは、事務処理能力の正確さが求められる。独自のケアレスミスチェックテストをつくり、その成績優秀者を採用した」(272ページ)

木下さんは、あえて、得意分野が異なる人を採用して、組織全体として長所を活かすことができるようにしています。これは、組織活動の大きなメリットということができるので、逆に言えば、個性が似た人ばかりを採用してしまうと、このメリットを活かすことはできません。

そして、このことは、容易に理解できることであるとは思うのですが、中小企業経営者の方の中には、自分と同じ価値観の人を採用してしまう傾向があるようです。例えば、営業系の社長は、営業系の人を多く採用したり、技術系の社長は技術系の社長を多く採用したりします。それは、社長と得意分野が同じ人が社内に多くいれば、事業活動も円滑に進むという理由によるものだと思います。

また、これは、かつて、ある中小企業経営者の方から聞いたことなのですが、「自社は規模が小さいので、『稼げる人』でなければ採用できない」と言っておられました。「稼げる人」とは、自分の給料分の利益を自分で獲得できる営業の能力がある人のことのようです。すなわち、「自社で雇った従業員には、自分の『食い扶持』は自分で稼いでもらいたい」ということなのだと思うのですが、それでは、組織のメリットを活かすことができないし、そもそも、自分の「食い扶持」を自分で稼ぐことができる人であれば、会社に雇ってもらう必要はないのに、おかしなことを考える方だなぁと思いました。

話を戻すと、得意分野が社長と同じ人を集めたいという気持ちも理解できなくもないのですが、前述のように、得意分野が同じ人ばかりの人の組織は、組織のメリットを活かすことができません。繰り返しになりますが、得意分野の同じ人同士であれば、経営者としては「居心地」が良くなるのだと思いますが、さまざまな人がいるから組織なのであり、そういった人たちをまとめることが、経営者の重要な役割なのだと考えなければならないのだと思います。

2026/4/29 No.3423

 

部下の成長よりも仕事の仕組み化に注力

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、新人マネジャーが部下が成長しないことで悩んでいるときは、部下は上司によって成長するのではなく、部下自身が成長しようとして成長すると伝えるそうです。すなわち、部下の成長を待つよりも、業務の仕組み化を進め、あまり能力が高くなくても業務が遂行できるようにすることが大切であり、そのような仕組み化を行う能力がマネジャーには求められているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんは、ベテラン社員が退職したとき、その方の業務は判断業務が多く、引き継いでもらえそうな人が見当たらなかったため、いったん、木下さんが引き継いだものの、マニュアル化することで他の人にも任せることができることが分かったことから、マニュアル化は効果が高いと考えるようになったということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、業務を円滑にするには、部下の成長を待つより、業務プロセスを変えることに注力すべきということについて述べておられます。「業務がスムーズにいかない場合、マネジャーは担当者の能力のせいにしがちだ。だが、実際には『このやり方でいいのか』と考えたほうが解決は早い。私は新人マネジャーに『自分を変えることはできるけれど、他人を変えることはできない』と話してい。マネジャーになると、部下に仕事を与える。

たとえば、採用業務をしていたマネジャーがその仕事を部下に引き継いだとしよう。部下がなかなか仕事ができないときに、『いつまで経ってもできない』、『変わらない』とイライラする。そんなとき、私はこんな話をする。『あなたは成長したけれど、私に変えられて成長したわけではないでしょう? 自分で成長したと思っているでしょう?』人は自分の意志でしか変わらない。人が劇的に変わるのは多くて10年に1回。

普通は20年に1回くらい。それが今年起きる確率は10分の1か、200分の1。そんな10分の1の確率にかけて仕事をするのはおかしい。『人は変わらない』という前提で、仕事の仕組みを考えるベきだ。一人に全部やってもらおうとしてもできないなら、その人が得意なことだけやる仕組みにする。部下が変わるのではなく、マネジャーが仕事を仕組み化する能力をつけることだ。

採用業務には、『求人媒体社と商談する』、『応募者の反応がいい求人広告をつくる』、『大量の応募者を説明会、面接に振り分ける』、『面接して人の資質や能力を見極める』などの実務があるが、それぞれ求められる能力は違う。それを一人の部下に任せるのではなく、4つの業務に分け、それぞれに適した人に振り分けてみる。常に業務を俯瞰的にとらえ、仕組みを再構築する能力がマネジャーには求められるのだ」(269ページ)

経営者や幹部従業員とすれば、部下の方に成長して欲しいと考えるし、成長してくれれば業績が向上すると考えることも、当然のことだと思います。しかし、冷静に考えれば、木下さんが「部下の方は、上司に成長させてもらったとは考えておらず、自分で成長したと思っている」とご指摘しておられるように、どれだけ上司が成長させようと働きかけても、部下自身が成長しようとしなければ成長しないということも事実だと思います。

もちろん、部下の方自身が成長しようと考えることが望ましいし、上司が成長しようと考えるように働きかけることは大切ではあるものの、それをコントロールすることは難しく、事業活動を安定させようとする観点からは、別の方法にも注力することが望ましいことも事実だと思います。

それが、「仕組み化」ということであり、部下の成長を働きかけつつも、経営者としては、仕組み化に軸足を置くことの方が実践的であると、私も考えています。他社の事例では、例えば、サイゼリヤの元社長の、堀埜一成(ほりのいっせい)さんは、ご著書、「サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術」で、「当たり前品質」について述べておられました。

すなわち、国内1000店、従業員1万人の規模のサイゼリヤでは、オーナーシェフが経営するレストランのような魅力的な商品を提供することはできないので、「メニューブックがべたつかないように手入れをする」、「テーブルのガタつかないようにメインテナンスをする」、「ソファに穴があいていたら修理する」というようにすることで、顧客が求める「当たり前品質」を維持することで、同社の満足度を高めているということです。

繰り返しになりますが、顧客満足を高めようとすると、難易度の高いことをしなければならないと考えられがちですが、「仕組み化」を実践することでも、顧客満足向上は、ある程度は実現できるようです。むしろ、部下の成長やスキル向上を待っているよりも、仕組み化を行うことの方が短期間で業績が向上し、そのことが部下たちの士気を高め、成長意欲を醸成することにつながるという好循環をもたらすのではないかと、私は考えています。

2026/4/28 No.3422

 

マニュアル化で誰でもできる仕事に変換

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、ベテラン社員が退職したとき、その方の業務は判断業務が多く、引き継いでもらえそうな人が見当たらなかったため、いったん、木下さんが引き継いだものの、マニュアル化することで他の人にも任せることができることが分かったことから、マニュアル化は効果が高いと考えるようになったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんは、同社の商品ごとに、販売に関する費用、広告費、人件費を割り振った原価を管理しているそうですが、このことによって、どの商品が自社の利益に貢献しているかを把握することができ、より正確な経営判断ができるようになったということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、マニュアルを整備することで、仕事の属人化を防ぐことができるということについて述べておられます。「業務改善を図る場合、業務全体の流れを鳥の目で俯瞰する必要がある。客観的な目で見るとわかりやすいので、第三者にチェックしてもらうのがいい。以前、当社のベテラン社員が諸事情で退職することになり、その人の業務をどう引き継ぐか問題になった。その人には『経験がないと判断できない』と思われる仕事が集中しており、経験の浅い社員が引き継ぐことは難しそうだった。仕方なく、私がいったん引き継ぐことになった。

業務内容を聞いていると、その人が経験に基づいてケース・バイ・ケースで判断していることも、実はほとんどパターン化できることに気づいた。そこで、その人の仕事を全部洗い出してマニュアル化すると、アルパイトでもできる仕事になった。マニュアルをつくっていなかったから、ベテラン社員の経験値に基づく判断が必要なのであって、マニュアルをつくっていれば、実は誰にでもできる仕事だった。ベテランのせっかくの豊富な経験を、マニュアルをつくっていないことで無駄遣いしてしまっていたことに大変申し訳なく思った。

このようにベテランにしかできないと思われる業務も、客観的に見直す機会をつくると、マ二ュアル化して誰でもできる仕事に変換できる可能性がある。5段階利益管理のABC利益率に注目すると、『ここに問題があるのではないか』と数字がアラートしてくれる。商品ごとに利益管理をすると、売上が高く販促費もかかっていないが、ABCが高いために利益が出ていない場合がある。これは社員の手間がかかりすぎているので、この部分を業務改善する必要がある」(268ページ)

マニュアルには賛否両論があります。肯定的な意見は、手順やノウハウを会社内で共有することができ、そのことによって仕事を標準化しり、属人化を防ぐことができたりすることです。否定的な意見は、マニュアルをつくることで、仕事が硬直的になり、自分で考えて仕事をしたり、柔軟な対応ができなくなったりするということです。私は、どちらの意見も正しいと思います。ただし、会社が成長しているときは、マニュアル化をお薦めします。それは、経験の浅い従業員が多い時期は、手順やノウハウを共有することの利点が大きいからです。

一方で、組織が成熟化している会社は、マニュアルの負の側面が現れるので、マニュアルを絶対視せず、常に変えていくものという位置づけで、活用することが望ましいと思います。木下さんが経営する北の達人コーポレーションは、現在は成長している会社なので、マニュアルを積極的に活用すべき段階だと思います。そして、木下さんが述べておられるように、マニュアルをつくることでベテラン社員への仕事の属人化を防ぐことができ、ノウハウを経験の浅い従業員とも共有することができて、効率化も高めることができます。

2026/4/27 No.3421

 

商品ごとの人件費を把握して経営判断を

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、同社の商品ごとに、販売に関する費用、広告費、人件費を割り振った原価を管理しているそうです。このことによって、どの商品が自社の利益に貢献しているかを把握することができ、より正確な経営判断ができるようになっているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、演歌歌手は、テレビへの出演は少ないものの、ファンと直接会って握手をすることによって関係の濃いファンをつくり、効率的なマーケティングを実践しているということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、人件費を勘案した原価管理の活用について述べておられます。「当社では、新卒でも即戦力になるよう、業務体制の組み方を工夫している。これは経営者の重要な仕事だ。業務オペレーションの組み方によって、5段階利益管理のABC(アクティビティ・ベースト・コスティング)は変わる。ABC利益は、販売利益から商品ごとの人件費を引いて求める。

ABC利益=販売利益-ABC(商品ごとの人件費)前に触れたように、当社がABCを意識し始めたのは、北海道の特産品を扱ていた『北海道・しーおー・じぇいぴー』から、健康食品や化粧品を扱う『北の快適工房』に移行する頃だ。北海道の特産品は、商品数が多かった。それぞれキャンペーンも行うため、商品ごとにかかる手間と利益に差があった。さらに、健康食品や化粧品と比ベると、手間と利益に格段の差があった。そこで商品ごとのABCを計算してみた。商品・サービスの販売にかかる間接コスト(人件費)をその比率に応じて配分し、商品・サービスごとの収益を把握した。

すると、北海道の特産品より『北の快適工房』のほうがABCが圧倒的に低く、ABC利益、ABC利益率が高いとわかった。少ない手間で大きな利益を出している。これを知ったとき、ABC利益率を把握する重要性を実感し、今日まで継続的に管理している。ABC利益率の動きを見ると、いかに適切な業務体制が構築されているかがわかる。ABC利益率を見ながら、業務オペレーションを改善し、人の配置を変えるのだ」(246ページ)

引用部分で使われている、「5段階利益」、「販売利益」や「ABC利益」は、木下さんが独自に定めて使っている言葉です。このうち、5段階利益についての説明は割愛します。「販売利益」は、売上総利益から、受注によって発生する費用(ショッピングモールの手数料、キャッシュレス決済手数料等)と、販促費を差し引いた額を指すようです。「ABC利益」は、「販売利益」から、木下さんのいう「ABC」を差し引いた額を指すようです。

また、「ABC」とは、活動基準原価のことですが、木下さんの場合、商品ごとに要した人件費を指すようです。木下さんは、従業員の方に、毎月、どの商品にどれくらいの時間を割いたかを、割合で報告してもらい、人件費をその割合で商品ごとに案分して賦課(ふか、費用を割り当てること)しているようです。これは、厳密な活動基準原価計算ではありませんが、単に、人件費を総額だけで管理する方法よりも、精緻な管理ができる方法だと思います。

そして、木下さんのいう「ABC利益」では、商品そのものの原価だけではなく、その商品の販売に要した費用、広告費、人件費を加味した費用と利益を把握できるので、より正確な経営判断ができるようになります。これについて木下さんは言及していませんが、あまり正確な原価を把握していない中小企業では、商品の販売数量で、自社の利益に貢献している商品と判断してしまう傾向にあります。

しかし、販売にともなう費用や人件費まで勘案すると、最も売れている商品は、実は多くの費用が必要になっており、利益はあまり多くなかったり、不採算であったりすることもあり、売れば売るほど利益を減らす、または、赤字を増やすことになっていこともあります。したがって、せっかくの販売のための努力が無駄になってしまうことのないよう、木下さんのように、商品ごとの原価を管理することは重要だと思います。

また、商品ごとの原価だけでなく、顧客ごとの原価を管理することも大切です。例えば、自社の大口取引先は、販売額が多いので、自社の利益に貢献する相手だと考えられがちですが、価格や取引条件が厳しいため、実際は、取引を解消することの方が、自社の利益増加に貢献することになるということもあります。そこで、繰り返しになりますが、利益の多寡は、売上の多寡と必ずしも比例していないという前提で、利益管理や経営判断を行うことを、私はお薦めしています。

2026/4/26 No.3420

 

3000人と握手すると一生食える?

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、演歌歌手は、テレビへの出演は少ないものの、ファンと直接会って握手をすることによって関係の濃いファンをつくり、効率的なマーケティングを実践しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、利益とは、売上の中で自分自身が生み出した付加価値分を数値化したものだということであり、もし、仕入れたものに付加価値が加わらなければ、売上が上がっても利益は出ないということについて説明しました。

これに続いて。木下さんは、「演歌の戦略」について述べておられます。「利益を上げるには目立たないプロモーションで、必要としてくれるお客様に出会う。そして、そのお客様に愛され続ける。これが一番だ。私はこれを『演歌の戦略』と呼んでいる。子どもの頃、ランキング形式の歌番組を見ていて不思議に思ったことがあった。番組では、毎週ランキング10位から1位の曲を生放送で発表した。

上位にランキングされるのは、若手の人気歌手が歌うポップスが中心だった。番組の途中に20位から11位の曲を紹介するコーナーがあった。ここに長い間ランキングされている演歌の曲があった。知らない曲だった(正確に言えば、子どもだったので演歌になじみがなかっただけなのだが)。ランキングが毎週大きく入れ替わる中で、その演歌は長期間20位以内をキープし続けた。そして驚いたことに、年末に発表された年間ランキングでは上位に入った。

これが『テレビでの露出が多いことと売れることは違う』と感じた原点だったと思う。それ以来私は、『演歌歌手はなぜテレビに出ないのに売れるのか』と考え続けた。のちに音楽業界の人に聞いた話だが、演歌歌手は『お客様と直接会って握手をすること』を大事にしているという。テレビで見るだけの人気歌手より、実際に握手した歌手のほうが親近感が生まれるし、応援したくなる。『あの人が新曲を出したから買おう』と思う。『演歌歌手は3,000人と握手したら一生食ベていけると言われている』と教えてもらった。

考えてみると、北海道出身の歌手はこの戦略を取る人が多い。北島三郎さんや細川たかしさんは演歌歌手なので言わずもがなだが、松山千春さん、中島みゆきさん、GLAYなどもあまりテレビに出ない。しかし、ライプをやり続け、お客様の心をつかんで何十年も活躍し続けている。GLAYは、ある時期まではテレビによく出ていた。あれはライプにお客樣を呼ぶための広報戦略だったのだろう。

1999年に幕張メッセ駐車場特設ステージで開催した『GLAY EXPO‘99 SURVIVAL』では、単独アーティストによる有料ライプ(一公演あたり)の世界記録(当時)となる20万人を動員した。これ以上ファンが増えても、ライプで受け入れられなくなったという時点でテレビに出るのをやめたのだと思う。2010年からは自主レーベルを設立して活動し、公式ストア『G-DIRECT』が開設された。ファンクラプも自分たちで運営している。ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。

それは大変なことだが、そのコメントをもらったファンは、一生GLAYのCDを買い続けるだろう。逆に考えると、1日30分やり続けるだけで、一生買い続けてくれるファンを毎日量産しているのである。これはとても効率的なマーケティングと言える。顧客に愛され続けるには『特別感』を提供し、ロイヤリティを持ってもらうこと。そのためには、一対一のコミュニケーションを提供することが重要。テレビで関係性の薄いファンをつくるより、関係性の濃いファンをつくるほうが効率的だ」(234ページ)

木下さんは、少ないコストで利益を得る方法として、ファンとの関係を深める「演歌の戦略」をご紹介しておられます。私もその通りだと思うのですが、演歌の戦略は、ランチェスター第一法則(弱者の戦略)の典型例だと思います。すなわち、特定の分野に絞り込んで、その分野の顧客と強い関係を構築すると、強者に対抗できるようになります。ですから、「演歌の戦略」は、利益を増やすと同時に、中小企業が大企業との競合にも勝てるようになる戦略でもあるということです。

ただし、「演歌の戦略」は、実際には思ったよりも難しい面があると、私は感じています。木下さんは、GLAYについて、「ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる」と述べておられますが、TERUさんのようなこまめな働きかけを実践できる会社の割合は低いと、私は感じています。

TERUさんには失礼ですが、バースデーコメントを書くことそのものは、それほど難しいことではないと思います。ただ、それを、毎日、30分、続けることが難しいのだと思います。そう考えれば、中小企業が大企業に勝てるかどうかは、「演歌の戦略」をやり遂げる意思の強さや実効力にかかっているのだと、私は考えています。

2026/4/25 No.3419

 

利益とは自社が生み出した付加価値分

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、利益とは、売上の中で自分自身が生み出した付加価値分を数値化したものだということです。そして、もし、仕入れたものに付加価値が加わらなければ、売上が上がっても利益は出ないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、価値とは、どれだけ他者の役に立つかということであり、それはお金を渡す側が決めるということであるから、商品を提供する側が、「自分は相手の役に立っている」、「一所懸命に働いている」と思っても、相手がそう思わなければお金を支払わないということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、利益とは、自分が生み出した付加価値のことであるということについて述べておられます。「さて、Bさんは鍬を提供し、役立った分の対価をもらった。これが売上でお役立ち度の合計を数値化したものだ。では利益とは何か。売上の中で自分自身が生み出した付加価値分を数値化したものだ。鍬はBさんがつくったが、鍬の材料の木や鉄を仕入れているから、すベて自分でくったわけではない。

売上は、Bさんの鍬の価値の合計だが、利益はその中でBさん自身が生み出した付加価値分だ。売上だけなら簡単に上げられる。あなたが人の役に立ちたいと考え、Bさんから鍬を仕入れた。1本1,000円の鍬を10本仕入れ、1本1,000円で10人に販売した。Bさんから買っても、あなたから買っても、品質も値段も同じだ。お客樣はたまたま目についたあなたから買った。売上は1万円だが利益はゼ口だ。売上1万円(1,000円×10本)-原価1万円(1,000円×10本)=利益0円。

売上は上がったが、あなたは世の中の役に立ったか。企業の中には、売上100億円でも利益がほとんどないところもある。仮に、100億円の売上目標を立てたとする。100億円売り上げるために(中略)、価格比較サイトの最安値で、あるメーカーの10万円のPCを、10万台仕入れた。原価は100億円かかった。そして、同じ価格比較サイトに出品し、同じ最安値の10万円で販売した。お客樣は品質も価格も同じ最安値だから、たまたま目についたほうを買う。

1台10万円で10万台仕入れたPCが、1台10万円で10万台売れ、売上100億円を達成したとする。だが、利益はゼ口だ。売上100億円(10万円×10万台)-原価100億円(10万円×10万台)=利益0円。仕入れたものに付加価値が加わらなければ、売上が上がっても利益は出ない。すでに世の中に役立っている商品を、そのまま仕入れて、そのままの値段で売ると、売上は上がるが、利益は上がらない。それはあなた自身が世の中の役に立っていないことを示している。

では(中略)、このPCに10年保証をつけて11万円で販売したとしよう。お客様が元のメーカーから買うと10万円だが、あなたの会社から買うと1万円高いものの10年保証がついている。10年保証に価値を感じる人が10万人いたらこうなる。売上110億円(11万円×10万台)-原価100億円(10万円×10万台)-利益10億円。

一方で、10年保証に価値を感じない人、1万円は高いと感じる人が多ければ売上も利益も上がらない。価値があるか、利益が適正かはお客様が決めるということを忘れてはならない。年商100億円の会社でも利益を出さなければ存在価値はない。売上に意味はない。利益こそが会社のお役立ち度を示している。利益はその会社が本当に役立っているどうかのバロメーターなのだ」(84ページ)

本旨から外れますが、内閣府が公表している日本のGDP(国内総生産)は、理論上は、国内の会社が生み出した付加価値の合計です。したがって、GDPとは、木下さんのいう「お役立ち度」の合計額ということです。話をもどすと、業績があまりよくない中小企業の経営者の方のご相談にのると、「ライバルが多い」、「価格競争が厳しい」と悩んでおられる方が多いです。もの余りの時代の現在において、このような悩みは、多くの会社で共通するものかもしれません。

そこで、このような状況をどのように解決すればよいのかというと、その代表的な方法は、事業領域の変更(ドメインシフト)です。例えば、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」には、印刷会社の山櫻のドメインシフトの事例が紹介されています。「顧客を循環させる無限ループを作るためには、売り手と買い手の関係が、一回だけのモノの売買では終わらずに、半永久的に持続する必要があります。(中略)

そのためには、モノ売りからコト売りへ、商品販売からサービス提供へと、売り切って終わらないビジネスモデルヘの転換を考えることが重要です。その前提となるのが、ドメイン(事業分野や競争領域)シフトです。(中略)『○○を売る』という物理的定義から『どのような機能や価値を提供するか』という機能的定義もしくは便益的定義にシフトすることで自社の目指すベき方向性を定め、それに沿ったビジネスモデルを考えていきます。

1931年創業の株式会社山櫻は、多くのオフィスワーカーにとって『名刺や封筒の会社』として認識されていることでしょう。桜色のロゴマークの入った箱で自分の名刺を受け取った思い出を持つ方も多いと思います。その山櫻が、名刺や封筒などの紙製品メーカーという物理的定義から『出逢ふをカタチに』する会社という機能的定義へとドメインシフトを行ったのは2012年。

紙製品にこだわることなく、人と人が『出逢う』ことのすベてに関わる商品やサービスを創造する会社へと転換を遂げました。現在、山櫻ではデジタル名刺交換・管理サービスの事業も展開しています。新たに定義したドメインのもとで、『営業DX』を起点に、商品・サービスカの見直しや業務効率の改善をデジタルで実現していきます」(53ページ)

経営環境の変化や、競争の激化によって、自社の利益が減少することがあります。そのような外部環境の変化は、自社に逆風となりますが、そうであれば、逆風がより弱い場所、または、追い風になる場所に、事業領域を移すことで、利益が増えることになります。繰り返しになりますが、外部環境の変化によって自社の利益が減少することは、直接敵には、自社に原因があるわけではありません。

しかし、自社の利益が減ったということは、顧客から見て役立つ事業ではなくなりつつあるということになります。したがって、ドメインシフトの必要性が大きくなったときは、それを少しでも早く察知するために、常に自社の利益を把握しなければなりません。それが、自社の利益の減少を最小限にするための大切な要素になると私は考えています。

2026/4/24 No.3418

 

価値とは他者の役に立つ度合いのこと

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、価値とは、どれだけ他者の役に立つかということであり、それはお金を渡す側が決めるということです。すなわち、商品を提供する側が、「自分は相手の役に立っている」、「一所懸命に働いている」と思っても、相手がそう思わなければお金を支払わないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、利益が絶対の目的であり、売上はそのプ口セスと考え、月次で利益を管理しており、さらに、利益総額ではなく、採算の悪い部門については取扱をやめ、無駄なコストが発生しないようにしているということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、価値とは他者の役に立つ度合いのことだいうことについて述べておられます。「Aさんは自分でつくった鍬(くわ)で畑を耕していた。あるとき、隣の畑を耕すBさんを見て驚いた。Bさんの鍬は特別仕様でつくられてくられていて、同じ時間で2倍の仕事がこなせる。Aさんは、『ぜひその鍬と同じものをつくってくれ』と頼んだ。Bさんは、『いいけど、あなたの鍬をつくっていると、私が作物をつくる時間がなくなる。

鍬をつくる時間分に相当する作物を分けてくれたら引き受けるよ』と言った。こうして物々交換が誕生した。やがてBさんの鍬は評判になった。あるときCきん、Dさん、Eさんが作物を持ってBさんの家にやってきた。『Bさん、この作物をあげるから、私たちにも特別仕様の鍬をつくってくれないか』Bさんは困った。たくさんの作物をもらっても、食ベる前にいたんでしまう。

するとCさんが、『それなら好きなときに私の作物と交換できる券をつくろう』と兌換券(だかんけん)を渡した。こうして通貨が誕生した。(現実には金が価値を保証する金兌換券だが)兌換券1枚=特別仕様の鍬=鍬をつくる時間に相当する農作物3つが同じ価値になった。(中略)モノやサービスの価値を置き換えたものがお金だ(ここでは兌換券)。お金は人の役に立つともらえる。

価値とは、どれだけ他者の役に立つかということだ。役に立つかどうか、価値があるかどうかは、お金を渡す側が決める。『自分は相手の役に立っている』、『一所懸命に働いている』と思っても、相手がそう思わなければお金を支払ってはくれない。私があなたに唐突に『1万円ください』と言ったら断るだろう。では、どんなケースなら1万円を私に渡すだろうか。それは1万円分、あなたの役に立ったときだ。

つまり、金額分、相手の役に立たないとお金は絶対にもらえない。Bさんは特別仕様の鍬をたくさんつくり、たくさんのお金をもらった。人に役立つ度合がお金の量で、Bさんの社会への貢献度ということになる。では、毎日の仕事ではどうか。樣々な価値のある商品・サービスを提供する。それに見合った対価をもらっている。つまり、稼いでいる会社は多くの人の役に立っている」(77ページ)

ニューヨークでは、一蘭のラーメンが、日本と比較して値段が高いことは広く知られています。正確な価格は分からないのですが、UberEatsのWebPageを見ると、とんこつラーメンが23ドル(約3,600円)です。とんこつラーメンの価格は日本では1,000円前後ですから、ニューヨークではその3倍以上もするということです。もちろん、日本と米国では物価やコストが異なるので、単純に比較はできませんが、米国では一蘭の商品が高く評価されていることも事実だと思います。

引用部分の主旨から外れますが、もの余りの現在でも、価値があるものに顧客は代金を支払ってくれますが、その価値があるものが何なのかを見つけることが難しくなっているのだと思います。木下さんは、「役に立つかどうか、価値があるかどうかは、お金を渡す側が決める。『自分は相手の役に立っている』、『一所懸命に働いている』と思っても、相手がそう思わなければお金を支払ってはくれない」とご指摘しておられます。

上から目線で恐縮ですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、業績があまりよくない会社に共通していることのひとつは、経営者の方は、自社の商品は価値があるという前提で事業を行っているということです。これを言い換えれば、経営者の方は自社の商品は価値がある考えているから、毎月、利益がどれくらい出ているか、把握する必要もないと考えているのだと思います。しかし、前回の記事でお伝えしたように、木下さんは利益管理を行っています。

これは、自社の商品の価値は顧客が決めるという前提で、その評価を迅速に把握しようとしているからでしょう。繰り返しになりますが、「価値は顧客が決めること」という前提はほとんどの人が同意するものと感じられますが、実際には、前述したように、売上や利益について迅速に把握しようとする中小企業の経営者は、割合としては低いと、私は感じています。

2026/4/23 No.3417