鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

重要性は緊急性より後回しにされやすい

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、重要な業務は、緊急な業務のために後回しにされてしまいがちですが、重要な業務を後回しにしてばかりいると、業績を下げることになるので、緊急な業務に追われることで、「自分は仕事をしているぞ」と思うことを避け、着実に重要な業務を実施できるよう、計画的な活動をしなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、PDCAのP(計画)は、数値目標をいかに効果的かつ効率的に達成へ導いていくかといったテーマを持っていますが、一方で、そもそも日常業務はきちんと回っているので、たとえ徹底してPに取り組まなかったとしても業績への影響は限られることから、計画倒れが起きてしまうので、リーダーはそのようなことが起きないよう働きかけることが大切だということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、まず、現在の自社の業務について、(A)緊急かつ重要な業務、(B)緊急度は低いが重要な業務、(C)重要度は低いが緊急度の高い業務、(D)緊急度も重要度も低い業務の4つに仕分けし、そして、何から着手するか検討するとよいとうことについて述べてられます。「さて、仕分けが終わったら確認してください。(A)の『緊急かつ重要な業務』には、正に日々こなさなければならない業務で、その中でも大切だと考えているものが入っているでしょう。

(B)の『緊急度は低いが重要な業務』には、PDCAで推進したい業務や、新たに取り組みたい計画や企画、新しい商品やサービスの開発、といったものが入っているのではないでしょうか。(A)があまりにも多すぎる場合、それは好ましい状況とは言えませんし、Bに対して緊急度が低いからと放置しているのも当然好ましい状況とは言えません。

一方、重要度が低い(C)や(D)に関しては、ここに多くの時間を割いているようであれば、それも大きな問題です。(C)、(D)の業務は、思い切ってやめてしまうという判断が必要な場合もあります。また、やめるまではいかなくとも、極力効率化(人員や時間を取られない)を図るために、どんな工夫ができるかを考えるベきでしょう。

現場で意図や目的がハッキリしない業務を見つけたときに、『その業務は何でやらなきゃいけないのか知ってる?』と話を聞いたりしますが、得てして『前の担当者から引き継いだ業務なのでよくわかりません』や、『ルールでこうなっていますから』といった答えが返ってくることも意外と多いです。しかし、現場の従業員から自発的に『この業務は無駄だからやめましょう』といった意見が出てくることはありません。そもそもこの会社ではやらなければならない業務だと考えているわけですから。このあたりもリーダーが気を配るベきポイントです。

さて、(A)と(B)に話を戻しましょう。重要な(B)の業務は、そのまま放っておいでも構わない(短期の数字には影響がない)ものや、あるいはそのうちやるベきタイミングが出てきて緊急度が高くなり、(A)に移行するものがあるでしょう。(A)に移行する業務が多ければ、(A)の業務がさらに増えて、『緊急か重要な業務に振り回される』状況がさっばり改善しないことになります。

また、そもそも(B)は将来に向けて重要な業務ですから、本来は着々と進めていかなければなりません。例えば、先ほどのように(C)や(D)を効率化しようと思ったときには、『業務の効率化推進』という業務が(B)に入ってきます。ところが着手しなければ何も進まず、状況も変わりません。1年後に再度『緊急・重要マトリクス』を作成したら、全く同じ業務が、(A)、(B)、(C)、(D)にそれぞれ並ぶことでしょう。

この悪循環から抜け出すためには、次の考え方が必要です。(1)まず、(B)の業務を推進する時間を確保する。(2)(C)と(D)に関してはすでに述ベたとおりのことを実行に移す。(3)(A)に関しては、『なぜここに位置づけられる業務が多くなってしまうのか』という根本的な問題を把握し、解決策を検討する。(もちろん(B)が最優先なので、(A)に関してはいかに時間を割かれずに実行するのかを明確にする)

要するに、(A)や(C)で忙しいからといって『仕事してるぞ』とは思わないように、自分自身を戒める意識が大切だということです。リーダーは、ぜひこの優先順位で日々のスケジュールを組むよう意識してもらいたいと思います」(116ページ)

川原さんは、「(A)や(C)で忙しいからといって『仕事してるぞ』とは思わないように、自分自身を戒める意識が大切」と述べておられますが、私も、これまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきて感じることは、上から目線で恐縮ですが、経営者の方の多くは、「きょうも忙しく仕事をした」ことだけで満足していると感じています。

確かに、経営者や従業員の方たちが忙しく活動することは好ましいことに感じられますが、忙しいからといって、そのことが必ずしも業績を高めることになっているとは限りません。極端な例ですが、原価ギリギリで食事を提供しているレストランは、価格が安いということで多くの顧客が来店し、従業員の方たちは忙しくなりますが、従業員の給料や店舗の家賃を支払ったら赤字ということになっていれば、その忙しさは報われません。

逆に、1日3名しか施術しない美容室は、当然、それほど忙しくありませんが、そのことによって、その店を利用したい顧客がなかなか減らず、6か月先まで予約が埋まり、かつ、客単価も高くすることができ、業績が向上していることもあります。したがって、事業活動で大切なことは、従業員が忙しくなることではなく、業績が高いかどうかということです。

とはいえ、このようなことは、ここで述べるまでもないことなのですが、忙しいけれど、儲かってもいないという会社が少なくないところが問題だと、私は考えています。この理由については、これは明確な根拠はなく、私の肌感覚で恐縮なのですが、経営者の方の中には、本当は重要な業務をしなければいけないと理解しつつ、心の深いところでそれを避けようとして、忙しさを理由に、重要な業務を後回しにしているのではないかと思っています。

例えば、自社の業績が赤字であれば、商品の値上げをする、不採算な顧客との取引を解消する、新たな投資をして合理化をするといった対応策を行わなければなりません。ところが、もし、そのような対応策を実施して失敗すると、業績がさらに悪化したり、自分の責任が問われることになることから、忙しいことを理由にして現状を維持しているのではないかと思います。これについては、確かに、新しいことを行うことについては、経営者の方に、それなりの決断が必要です。

その一方で、現在の業績がよくないのであれば、現状を維持することも自分の評価を下げることになります。そうであれば、一日でも早く、重要性の高い業務に着手することが、よりよい結果につながります。繰り返しになりますが、その決断は難しいことは事実ですが、その難しい決断をすることが経営者の役割であり、それができるかどうかで経営者が評価されるのだと思います。

2026/4/1 No.3395

 

事業活動が順調なとき計画倒れが起きる

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、PDCAのP(計画)は、数値目標をいかに効果的かつ効率的に達成へ導いていくかといったテーマを持っていますが、一方で、そもそも日常業務はきちんと回っているので、たとえ徹底してPに取り組まなかったとしても業績への影響は限られることから、計画倒れが起きてしまうので、リーダーはそのようなことが起きないよう働きかけることが大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、ある会社では、拠点長のマネジメント能力が課題と考えていたものの、川原さんが拠点長に聞き取り調査をしたところ、拠点長には個人の成績を重視する評価が行われており、結果として部下の教育が後回しになっているということが判明したことから、課題については表面的な対処ではなく、根本的な要因を追求して対処することが大切ということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、完成された組織では、計画を達成しなくても大丈夫という雰囲気が起きやすくなりますが、それが会社の成長の妨げになるということについて述べておられます。「まず、大前提として押さえておかなければならないことがあります。『PDCAサイクルをきちんと回そう』といったことを考えるような会社であれば、規模の大小の差こそあれ、それなりに組織として仕事が動いています。

いわゆる大手企業の方から、『明日、自分一人いなくなったとしても、会社は変わらず動いていくんですよね』といった話を聞くこともありますが、これと同じことです。組織として完成されているので、たとえ中で働く人が変わったとしても業績にはさほど大きな影響はない、ということです。PDCAのP(計画)は、数値目標をいかに効果的かつ効率的に達成へ導いていくか、解決すベき課題をいかに解決まで導くか、といったテーマを持っています。

つまり、成長を目指す企業にとって必要不可欠な取組であると言えるわけですが、一方で、そもそも日常業務はきちんと回っているので、たとえ徹底してPに取り組まなかったとしてもそれなりに売上は上がるので、企業の業績への影響は限られます。みんな頭の中ではそのことがわかっているため、往々にして計画倒れが起こるのです。特に給与・評価制度の見直しといった課題解決型の目標ではその傾向が顕著です。売上に直結しないような施策の場合、予定どおり実行できなかったとしても業績に大きな影響が出ないため、思うように実行されないことが多いと言えます。

しかも、当初のゴールであったはずの『より良い会社にするため』という目的は果たされず、少しずつ業績に悪影響を及ぼし始めます。このように、実行されない計画の特徴としては、実行してもしなくても、直近の結果に差が現れない、ということがあるようです。しかし、一見差がないように見えても、後々その差は大きなものとなって返ってきます。リーダー自身がこの事実をしっかり認識した上で、実行することにこだわる必要があるでしょう」(106ページ)

事業活動は組織的活動ですので、「明日、自分一人いなくなったとしても、会社は変わらず動いていくんですよね」という状態は、ある意味で、目指すべき状態です。もし、ある人が抜けたときに事業活動が停止してしまうとすれば、それは、その人の役割が属人的になっているということですので、組織的活動が不完全な状態だと言えます。その一方で、「そもそも日常業務はきちんと回っているので、たとえ徹底してPに取り組まなかったとしてもそれなりに売上は上がるので、企業の業績への影響は限られる」と考える役員・従業員が現れると、いわゆる大企業病にかかり出していると考えることができます。

大企業病に明確な定義はありませんが、現状維持に甘んじようとする組織体質と言えます。とはいえ、日本では、残念ながら、大企業病に蝕まれている会社は珍しくありません。ある時までは順調に業績を伸ばしてきたにもかかわらず、大企業病にかかり、業績を悪化させる会社は後を絶ちません。したがって、大企業病は、避けることがでできない病気なのかもしれません。

ところで、この大企業病について、ソニーやアマゾンジャパンなどでの勤務経験のある経営コンサルタントの谷敏行さんが、アマゾンにご勤務時の経験について、日経ビジネスに寄稿しておられます。「私が入社した2013年には、アマゾンはもう大企業でした。しかし、その時点でアマゾンにはすでに、いわゆる大企業病を回避する仕組みがありました。

私が想像するに、ベゾスは、アマゾンが大企業病のリスクに直面することを予期し、回避する仕組みを事前に作っていたのでしょう。大企業が破壊的イノベーションによって滅びていく法則について書かれたクリステンセンの名著、『イノベーションのジレンマ』も読み、大企業のなかでイノベーションを生み続ける方法を研究していたのではないかと想像します。

この会社は、なぜこんな仕組みを事前に作れたのだろう--そんな不思議な感覚を抱いた記憶があります。その答えはおそらく、ベゾスのモットーである『顧客中心(Customer-centric)』が本物だったということではないでしょうか。ベゾスは、顧客を起点に事業を考えることの重要性を『カスタマー・オブセッション』という、独特の言葉遣いで表現します。

『オブセッション=強迫観念』に駆られるくらいに、顧客について考えようという意味です。 企業病とは、要するに『自社の都合を優先する』ことから生まれる病なのだと思います。極論すれば『既存事業を守る』ことや『雇用を守る』ことも『自社の都合』であり、『カスタマー・オブセッション』を大原則として掲げるなら、経営の最優先事項にはなり得ません。

本当に既存事業を守り、雇用を守りたいのであれば、顧客視点に立ったイノベーションを起こし続けることにしか、長期的な解はありません。日本企業、特に日本の大企業には『変化を先送りしたがる』きらいがあるとよくいわれます。しかし、このような問題を抱えるのは、日本企業だけではありません。だからこそベゾスは、大企業病を回避する仕組みを作ったのであり、その仕組みは、あらゆる企業にとって参考になるものです」

アマゾンは、次々に新しいサービスを開始し、多くの人からお手本的な経営をしていると評価されています。しかし、それは、イノベーションを起こすことに注力しているわけではなく、大企業病にかからないようにすることで、イノベーションを起こし続けていると、谷さんは分析しています。こう考えれば、川原さんが、「PDCAのP(計画)は、数値目標をいかに効果的かつ効率的に達成へ導いていくか、解決すベき課題をいかに解決まで導くか、といったテーマを持っている」というご指摘は、谷さんのアマゾンに対する分析と通じるものがあるのではないでしょうか?

2026/3/31 No.3394



従業員教育は業績向上に欠かせない活動

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、ある会社では、拠点長のマネジメント能力が課題と考えていたものの、川原さんが拠点長に聞き取り調査をしたところ、拠点長には個人の成績を重視する評価が行われており、結果として部下の教育が後回しになっているということが判明しました。したがって、課題については表面的な対処ではなく、根本的な要因を追求して対処することが大切ということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、PDCAを実践しようとするときに、まず、計画を立てますが、その計画に多くのことを盛り込もうとすると、計画策定のための労力が増加し、計画策定自体が頓挫してしまう可能性があるので、目標はあまり労力がかからない程度に絞り込むことが大切だということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、中間管理者のマネジメント能力を高めるためにはどうすればよいのかということについて述べておられます。「現状を振り返り、『今、どんな状況なのか』、『問題は何なのか』をメンバーと共有することが、計画を作るスタートになります。ここで必要不可欠なポイントがあります。それが、『正しい事実を把握すること』です。『正しい事実を把握するなんて、当たり前じゃないか』といった声が聞こえてきそうですが、これがなかなか難しいのです。例を挙げて説明しましょう。

システム販売会社B社の営業部長から『拠点長のマネジメント能力を高めたいので教育プログラムを作って実施していきたい』という相談を受けました。B社は約30拠点の営業所を展開していますが、拠点長によって業績に大きなバラつきが出ているというのです。一口にマネジメント能力といっても、その言葉には様々な要素が含まれています。ですから、『B社の拠点長には、一体どんなスキルが必要なのか』を絞り込むために、全ての拠点長と話をすることにしました。

その中でわかったことは、『ほとんどの拠点長は、マネジメントする時間がない』ということです。一体どういうことでしょうか。さらに詳しく話を聞いてみると、B社の拠点長の8割は、各営業所の中でもトップの成績を上げるトップセールスであることがわかりました。つまり、一般的に言うところの、プレイングマネジャーという役割だということです。拠点長は日々、最も多くの顧客を抱えて営業活動に邁進しており、部下とのコミュニケーションをとる時間すら取れていない、というのが実態だったのです。

拠点長たちは、『拠点の目標を達成るためには、まずトップである自分自身の目標を達成しなければならない』と考え、それを最優先にした結果、なかなか部下が育たない、というシレンマを抱えていたわけです。さて、B社の問題は、拠点長たちのマネジメント能力不足だと言えるでしょうか。これまで教育体系が整っていなかったことを考えると、確かに『やらないよりは、やった方が良い』施策だとは思います。

しかし、恐らくこの対処策では問題の根本的な解決にはなりません。『なぜ拠点長は、トップセールスであり続けなければならないのか』という疑問を解消しない限り、部下育成にかける時間が取れないという状況は打開できないでしょう。B社のケースでは、個人実績を重視する評価の比重が高かったため、拠点全体も大切だけど自分の実績を優先してしまう、といった傾向が見られました」(81ページ)

B社の拠点長のマネジメント能力が伸びなかった原因について、川原さんは、「個人実績を重視する評価の比重が高かったため、拠点全体も大切だけど自分の実績を優先してしまう」状況にあったとご指摘してられます。すなわち、B社の営業部長は、拠点長のマネジメント能力を高めたいと考えつつ、評価制度では、拠点長の営業成績を重視するという、矛盾のある対応をしています。私も、これまで中長期業の事業改善のお手伝いをしてきて、このような矛盾のある働きかけをしている会社を少なからず見てきました。

経営者としては、長期的には部下の能力も高めたいと考えつつ、目の前の課題として業績も高めることにも注力しなければならないという、相反する課題に板挟みになっていることも少なくないでしょう。そして、マネジメント能力の向上と、業績の向上という、同時に実現することが困難な課題を、意図的か意図的でないかは問わず、同時に幹部従業員や、さらにその部下に出してしまうことがあるようです。

この両方の課題について、「本気で取り組めば解決できないことはない」などと考える経営者の方もいるかもしれません。しかし、難しい課題を部下に与えたからといって、当然、その結果の責任は経営者が免れるわけではありません。難しい課題を部下に与えることも、時には必要かもしれませんが、部下がそれを克服できなければ、その結果責任は、最終的には経営者が負わなければなりません。

したがって、経営者としては、完全にはそれを避けることができないとしても、なるべく矛盾がない状態で課題を部下に与えることが、確実に課題解決を促すことになるでしょう。そして、このような状況は、B社だけではなく、ほとんどの会社が共通して直面していると思います。例えば、埼玉県入間市にある野村運送の社長の野村孝博さんは、ご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる!人材育成コミュニケーション術」で、次のように述べておられます。(ご参考→  )

「トラックが故障して、走行が続けられないとなれば、積んでいる荷物をどうするか、故障したトラックをどうするか、ドライバーをどうするかをすぐに判断して行動に移さなくてはなりません。あるいは、ドライバーが体調不良になってしまうというケースもあります。また、交通事故の場合も同樣です。先述した対応に加えて、謝罪や交渉も必要になってきます。

たとえ交通事故が軽微なもので、ドライバーが仕事を継続できるようなケースでも、上席者が即座に謝罪・交渉に伺うことは非常に重要です。事故やトラプルへの対処は初動が肝心。早く動けば動くほど、相手に誠意が伝わります。こうしたA『緊急度・重要度ともに高い』仕事が、通常業務に割り込んでくることによって、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事が後回しにされてしまいます。

時には、D『緊急度も重要度も低い』仕事が明らかになり、その作業をスリム化できるケースもあるでしょう。しかし、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事は疎かにしてはいけません。例えば、Bである社員教育を中止にしてしまっても誰にも迷惑はかかりませんが、その分会社の成長が止まると心得て、しっかりと取り組むことが必要です」(42ページ)

すなわち、社員教育のような緊急性の低い仕事は後回しにできるけれど、後回しにばかりしていると、徐々に会社の業績に悪影響を与えてしまうということです。すなわち、社員教育は緊急性が低いけれど、ずっと後回しにしていれば業績が下がってしまうということです。こう考えれば、本当は、社員教育も緊急性が高い仕事なのかもしれません。

したがって、業績を高める活動と、社員教育は、相反する活動ではなく、社員教育によって業績を高めることができると考えれば、緊急性が低いと思われる社員教育こそすぐに着手しなければならず、そして、それは確実に業績を高めることになると考えることができます。もちろん、社員教育の効果は直ちに現れない点が踏ん張りどころですが、そのための努力は、後になって何倍にもなって報われるでしょう。

2026/3/30 No.3393

 

計画策定には多くの労力をかけすぎない

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、PDCAを実践しようとするときに、まず、計画を立てますが、その計画に多くのことを盛り込もうとすると、計画策定のための労力が増加し、計画策定自体が頓挫してしまう可能性があるので、目標はあまり労力がかからない程度に絞り込むことが大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、かつて、マクドナルドが業績不振になったとき、「60秒チャレンジ」、すなわち、「注文から60秒以内で商品を提供する」という「お客さまとの約束」を徹底して実践したところ、業績を回復させることができたそうですが、このように、自社の利益を増加させる活動に注力することが、業績を高める鍵となるということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、計画策定にあたっては、まず、達成が見込まれる目標を設定することが大切ということについて述べておられます。「計画策定で誤解されているのが、『やるベきことをどんどん計画の中に落とし込まなければならない』という考え方です。全面的に間違っているとは言えないのですが、この考え方でいくと、結局何も手がつけられずに放置される項目が発生します。

というのも、実行できるぐらいの量の『やるベきこと』であれば問題ないのですが、欲張って『あれもこれも』と詰め込んでしまって、結局やらなかった、あるいはできなかった、といった経験が皆さんもあるのではないでしょうか。目安としては、『計画どおりに実行すれば必ず目標が達成できる』必要最小限レベルの落とし込みです。(中略)

フランチャイズチェーン本部A社で起きた事例を元に説明しましょう。A社の商品部は15のカテゴリーに分かれており、それぞれに担当バイヤーが配置されています。ある年、『もっと現場の情報を収集・分析した上で商品政策を決定し、仕入先メーカーとの交渉に活用する』という方針が立てられ、バイヤーはより精度の高い現場情報を取集する必要が出てきました。

A社は、全国に約1,000店舗のネットワークを持ており、バイヤーが自分自身で情報を収集するのは不可能です。そこで、運営部のスーパーバイザーに情報収集を依頼することになりました。スーパーバイザーは、一人当たり5~10店舗ぐらいの担当を持って日々訪間活動を行なっていますので、無理なくできる作業ではないかと考えられていたのです。

ところがその目論見は大きく外れることになります。商品カテゴリーごとに存在する5名のバイヤーが、自分の仕事の都合に合わせてスーパーバイザーに情報収集を依頼してきたため、スーパーバイザーのところにはひっきりなしにメールが届き、それがたまっていった結果、情報収集どころか通常業務さえも滞ってしまうような状況になってしまったわけです。

A社の事例からもわかると思いますが、どんな会社であれ、ビジネスを成立させるためにやらなければならない日々の業務はすでに存在しています。しかも、ほとんどの会社は恐らくギリギリの人数で仕事を回しているでしょう。だからこそ、計画は現状の振り返りからスタートするのです。(中略)まずは現状の業務を整理して、その上でどんなことならできそうか、現実的なレベルでの計画を策定していきましょう」(77ページ)

一般的な会社は、会計期間の2か月後に決算が確定します。例えば、会計期間が4月から翌年3月の会社は、5月に決算が確定します。しかし、その決算の確定を待って計画を立てようとすると、前述の例の会社の場合、6月になって計画を立てることになり、すでに新しい会計期間がすでに2か月経過していることになります。そこで、遅くとも、1月までに、2月と3月の財務情報を見込んで、新たな会計期間の計画を立てることになります。

そして、このように、自社の財務情報を集めたり、迅速に行うこと自体が、中小企業にとっては、PDCAを行おうとすることの最初の壁になっていることもあると思います。しかし、業績のよい会社の共通点は、自社の財務情報などを迅速に把握するための投資を行っています。例えば、埼玉県入間郡にある産業廃棄物処理会社の石坂産業(2024年8月期の売上高は約67億円、従業員数は210名)は、同社社長の石坂典子氏の著書によれば、2011年に1億円をかけて自前で管理システムを構築したそうです。

詳細な説明は割愛しますが、精度の高い経営を実践しようとすると、財務情報などは、迅速、かつ、正確に把握する必要があるようです。話を戻すと、これまでPDCAを実践したことがない会社が、計画を策定するにはどうすればよいのかというと、私も、川原さんがご指摘しておられるように、まず、計画策定の負担が少なくなるようにして、大きな目標を達成しようとするよりも、PDCA自体が実践できるようにすることから始めることをお薦めします。

例えば、厳密な月次決算を行っていなくても、最初は、売上高と仕入額だけをExcelなどで集計し、それに基づいて、来期の売上目標や、粗利益の目標を設定するということから始めるとよいと思います。繰り返しになりますが、最初は、PDCAによる成果を出すことよりも、PDCAを実践することを目標とに注力し、それを定着させていけば、自ずと、業績も高まって行くと、私は考えています。

2026/3/29 No.3392

 

『お客さまとの約束』で強みを高める

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、かつて、マクドナルドが業績不振になったとき、「60秒チャレンジ」、すなわち、「注文から60秒以内で商品を提供する」という「お客さまとの約束」を徹底して実践したところ、業績を回復させることができたということです。このように、自社の利益を増加させる活動に注力することが、業績を高める鍵となるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんは、顧問先に5Sの実践をお薦めしているそうですが、それは整理整頓をしてもらうというよりも、成果がでるまでに時間がかかる改善活動を定着させる能力を高めてもらうことにあるということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、業績を改善するには、「お客さまとの約束」を果たすことが大切ということについて述べておられます。「『お客さまとの約束』とは、その約とは、果たして会社の利益は上がる、というイメージにつながるものでなければなりません。『お客さまとの約束』が定まれば、『その約束を果たすためにやるべき仕事が鮮明になる』ということであり、『約束に直接関係のない業務は、極力効率化するか場合によってはやめる』こともできる、ということです。

マクドナルドを例にとって説明しましょう。マクドナルドは数年前に一度、赤字転落してしまいましたが、そこからの改善の過程で『60秒チャレンジ』というキャンペーンを行ないました。レジで注文してから60秒以内に商品を提供できなければ、サービスクーポンを配布するというものです。ファストフード店に来る顧客のほとんどは、『手軽に早く済ませたい』と思っているはずです。

しかし、お昼時などの混雜時はどうしてもレジに行列ができてしまいます。そこで待ち時間を短縮することができれば、顧客側の満足度は上がり、なおかつ会社の売上アッブも期待できる、というのが真の狙いです。実際、マクドナルドはこのキャンペーンを行なうに当たり、『素早く商品の提供をするために』全店舗の厨房レイアウトを変更し、業務マ二ュアルでも細かく作業を規定するなど、実に100億円規模の投資をしたそうです。

このことから、実際に『お客さまとの約束』という言葉で掲げられているかどうかはわかりませんが、マクドナルドでは『できたてを素早く提供すること』に重きを置いていることがわかります。その後、同社は見事にV字回復を果たしました。もちろん、今もこの約束は守り続けられているのではないでしょうか。このぐらい明確かつ絞り込まれた『お客さまとの約束』を見出すことができれば、その企業は他社に負けない強みを獲得できるのです」(69ページ)

川原さんは、「『お客さまとの約束』とは利益獲得につながる活動」と述べておられますが、これは、事業活動で顧客に提供するベネフィットの言い換えだと、私は考えています。このベネフィットとは、商品を購入することによって得られる恩恵や便益のことで、米国の経済学者のレビットが、著書「マーケティング発想法」で、「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく、穴である」と述べたことで広く知られています。

では、この「お客さまとの約束」がなぜ大切なのかというと、ベネフィットは、商品を提供する側からはなかなか見えにくいという面があります。マクドナルドの場合、ベネフィットは時間の節約なのですが、ハンバーガー店の場合、どうしても。「おいしいハンバーガーを低価格で提供すれば顧客から支持される」と考えてしまいがちです。同社が、一時、業績不振に陥った理由は、このベネフィットを把握できていなかったからでしょう。しかし、「60秒チャレンジ」によって、顧客に真のベネフィットを提供することができ、業績を回復できたと考えることができます。

ちなみに、同じハンバーガー店のドムドムハンバーガーのベネフィットは「SNS映え」のようです。すなわち、同社では、他社では類似商品がない、「丸ごと!!カニバーガー」(1,290円)などを提供し、業績を回復させました。このベネフィットの違いからみれば、同じ業種のマクドナルドとドムドムハンバーガーは、顧客層が異なるわけですから、競合していないとも言えます。したがって、繰り返しになりますが、自社の業績が悪化したときは、的確な「お客さまとの約束」を見出すことができれば、競争力を高めることが可能になります。そして、経営者は、常に自社のベネフィットを探求していく努力が大切であると、私は考えています。

2026/3/28 No.3391

 

改善活動は成果が出るまで時間がかかる

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんは、顧問先に5S(整理・整頓・清掃・清潔、躾)の実践をお薦めしているそうですが、それは整理整頓をしてもらうというよりも、成果がでるまでに時間がかかる改善活動を定着させる能力を高めてもらうことにあるそうです。しかし、5Sは特別なスキルが必要ではないにもかかわらず、定着させることができる会社は少ない一方で、業績を高めている会社は5Sを定着させていることから、両者の違いは、改善活動を継続できるかどうかということと言えるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、事業計画を十分に練り込んだものにせず、既存業務を延長するものであっても、しばらくは事業を継続できるため、十分に練り込んだ事業計画を策定しない会社は新たな取り組みを行う機会がなくなり、成長につながらなくなるので、注意が必要だということについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、5Sを定着できなければ、事業活動の成果も得ることが難しいということについて述べておられます。「5Sとはご存知の方も多いと思いますが、整理・整頓・清掃・清潔、躾、それぞれの頭文字であるSをとって『5S』と名づけられたもので、いわゆる仕事の基本である5つの要素を徹底して実践することです。

もともとは工場で実践すベき取組として認知されてきた考え方で、例えば日本電産を創業して一代で売上高1兆円を超えるグループを形成した永守重信社長は、買収した企業を5Sで立て直しているといっても過言ではないようなお話をされています。そのような成功事例もありますし、コンサルタントの仕事で様々な企業を訪問していると、5Sを徹底している会社はすベからく強いことも目の当たりにしてきました。

これらの会社は、工場に限らず、オフィス、店舗、見えるところも見えないところも5Sが行き届いています。私自身もクライアント企業には必ず、『5Sを徹底すると絶対に儲かるからやった方が良いですよ』と、ご提案しています。もちろん、コンサルティングのテーマは別にありますので、意味合いとしては補足的なアドバイスになってしまいますが、確実に効果が出るため、かなり真面目にお勧めします。ところが、皆さんも予想されるように、ほとんどの企業で定着しないというのが実態です。

さすがに、見られないほど汚いといったことはありませんが、とても徹底されているとは言い難いレベルでその活動は雲散霧消していきます。特別なスキルが必要なわけでもない5Sが、なぜ定着しないのでしょうか。それは、成果を出せるまでの道のりが長いからです。私の経験から言えば、短くて半年、長くて1年ぐらいはかかるでしょうか。その間、ずっと地道に整理、整頓、清掃……をやり続けるのです。

ハッキリ言ってしまうと、とても地味な作業ですから、実行している皆ざんはなかなかその効果を感じることができません。むしろ『こんなことをするより、この時間を仕事にあてた方が効率も良いのでは?』なんて思う人もいるでしょう。時間の経過とともに『やろう』という人もいなくなり、結局は元どおり、という企業を私はいくつも見てきました。5Sに限らず、新しい取組を定着させるには時間がかかるものです。

なぜ、実践すれば良くなるのがわかっているにも関わらず、多くの企業が諦めてしまうのかというと、得てして、成果が全く見えない期間が長いからです。最初はそんなに急に成果が出ると誰も思っていないとはいえ、『かけた時間と労力の分だけ、少しずつでも良いから成果を実感したい』というのが人間の性です。ところが成果というのは、比例グラフのようには出ません。

たとえ成果を実感できない期間が長くても、成果を信じて諦めなかったときに、突如としてその成果は出てくるのです。皆さんも耳にしたことがあるかと思いますが、故・松下幸之助氏の言葉に、『諦めなければ成功する』というものがあります。かなり本質をついており、まさに5Sのように地道な取組をするときにこそ思い出していただきたい言葉です」(54ページ)

川原さんが、「5Sは特別なスキルが必要なわけでもない」のに、「ほとんどの企業で定着しないというのが実態」と述べておられますが、これを言い換えれば、5Sよりも難しい改善活動は、もっと定着しないということです。さらに、5Sが定着しない原因について、川原さんは、「成果を出せるまでの道のりが長い」と述べておられますが、きょう実践して、あした成果が出るというようなものはないということは、ほとんどの方はご理解されるわけですから、結局は、ひとつのことを継続できるかどうかによるということです。

そして、私も5S活動を顧問先の方にお薦めしていますが、それは、会社の整理整頓をすることを目的とするというよりも、改善活動をやり通す根気強さを習得してもらえるからです。ここで、経営者の方の多くは、「コンサルタントなのだから、あまり労力がかからずに、すぐに効果が得られる方法を考え出すことが、仕事だろう」と考えると思います。私は、そのような改善策はほとんどないと思っていますが、仮に、あったとしても、そのような方法は、他社も実践するわけですから、そのような改善策ではライバルとの差をつけることはできず、実践してもあまり意味はありません。

でも、5Sはスキルが必要がないにもかかわらず、やり遂げられる会社は少ないわけです。こう考えれば、5Sをやり続けることでライバルと差をつけることができると確信できます。それでも5Sに着手しない、または、着手しても継続できないとすれば、それは、結局、意思の強さでしかないということに帰結すると思います。

2026/3/27 No.3390

 

新たな取り組みをしなければ成長しない

[要旨]

船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、事業計画を十分に練り込んだものにせず、既存業務を延長するものであっても、しばらくは事業を継続できるため、十分に練り込んだ事業計画を策定しない会社は新たな取り組みを行う機会がなくなり、成長につながらなくなるので、注意が必要だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、事業活動の目標を定めれば、自ずと経営戦略が明確になりますが、部下たちが経営戦略だけに注意をとられて活動すると、目標との齟齬が起きることもあるので、リーダーはそのようなことが起きないよう、マネジメント、すなわち、やりくりをすることが大切だというこについて説明しました。

これに続いて、川原さんは、事業計画を策定するとき、既存業務の延長を前提にしている経営者が多いということについて述べておられます。「『なぜPDCAが回らないのか?』を考える中で、見えてきたのは『誰もが計画を作れていない』という現状です。そして、計画が作れない(もしくは作らない)最大の原因は、『計画“らしき”ものさえあれば、計画を練り込まなくても、仕事は十分回っていく』ことでしょう。

私は計画策定のコンサルティングの場面において、必ずこんな質問をします。『今期と全く同じ施策、同じ行動を取ったと仮定したら、業績はどの程度になると思いますか?』当然、受け止め方は人によって様々なこともあるため、20%ダウン、30%ダウン、とバラバラにはなりますが、『極端に業績が落ちる』という答えはほとんどありません。

このような認識を持っているリーダーだと、ベースには『少し頑張れば今期と同じくらいの目標なら達成できる』という考えがあるはずです。ほとんどの企業が成長できなくなってきた理由がこの『新しい取組をしない、あるいはできない』状態にあります。経営者は、業績の上がらない状況になると、投資に踏み切れません。

特にコスト項目の中でも構成比の高い人件費に関しては、誰もが躊躇してしまいます。もちろん給料もそうそう上がらないでしょうし、従業員の採用も控えることになるでしょう。こうなってくると、現場に対しても大きな期待はできないので、『この苦しい時期を乗り切っていこう』といった前年踏襲型の目標で、組織全体が動くことになります。

つまり、『少し頑張れば今期と同じくらいの目標は達成できる』と考えるリーダー、そしてその前年踏襲型の目標を許容せざるを得ない会社としての事情があるのです。よって、リーダーとしても、『仕事内容を大きく変える必要などない』ということにとになり、計画“らしき”ものでも十分乗り切っていけることになります。」(51ページ)

ほとんどの経営者の方は、ダーウィンの、「生き残る種とは、最も強いものではない、最も知的なものでもない、それは、変化に最もよく適応したものである」という言葉や、孫子の、「攻撃は最大の防御なり」という言葉について肯定的だと思います。すなわち、現状維持は好ましくないということは広く理解されていると思います。その一方で、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験で感じることは、結果として現状維持を選ぶ経営者の方が少なくないということです。その理由は、やはり、新しいことをして失敗することを避けたいと考えるからでしょう。

しかし、そうはいっても、現状を維持することが最善なのかというと、そういうわけでもないことは分かっているので、結局、現状維持か、新しいことに着手するか、逡巡している経営者の方が多いのだと思います。(中には、業績が悪化しているのに、現状を変えたくないと考えている経営者も希にいますが…)しかし、事業計画を策定すると、「現状を変えなければならない」という決断をし易くなると、私は考えています。

その理由の1つは、事業計画を策定する過程を通して、経営者は「鷹の目」で自社の状況をじっくり把握することになります。前々回、経営者は「鷹の目」と「蟻の目」の両方を持たなければならないと述べましたが、実態として、日々の業務に追いかけれている経営者は、「鷹の目」を持つ機会はあまりありません。ですから、事業計画策定という活動を通して、自社の状況を鷹の目で見ることができ、現状維持で問題がある場合は、それに気づくことができます。

2つ目は、自社の状況を数値で把握する機会が増えることです。これは、これまで私が何度も述べてきていますが、中小企業経営者の多くは、月次で自社の状況を把握していません。月次決算書が作成されているとしても、最新のデータが前々月以前のデータであったり、それに基づく改善活動を行っていなければ、それは、月次決算書を作成していない会社と同じ結果になります。

しかし、前述のように、事業計画を策定する活動を通して、自社のデータを客観的な数値で把握することになるため、いわゆる「肌感覚」という不正確な根拠で判断をすることはなくなります。この客観的なデータを把握することで、もし、業績が悪化していれば、「現状維持ではよくない」ということを、根拠をもって理解することになります。

もちろん、事業計画を策定しただけで、新しい取り組みの決断ができるわけではなく、最終的には、経営者の方の決断力が決め手になります。自社の状況を正確、かつ、客観的に把握している経営者の方が、新しい取り組みの必要性を強く感じることは間違いないので、それが決断の後押しをすることは間違いないでしょう。

2026/3/26 No.3389