鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『応援消費』という行為は『イミ消費』

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、顧客からの応援による購入はイミ消費と言い換えることができるということです。このイミ消費とは、モノ消費(商品を自分のモノにする消費)→コト消費(商品を購入することによって得られる体験を重視する消費)→トキ消費(その日、その場所でしか体験できないこを重視する消費)→イミ消費(商品を購入することによって生まれる社会的な価値を重視する消費)と遷移してきた行動のことだそうです。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんは、必ずしも、すべての顧客から応援されることを目指すのではなく、現在、自社を評価している顧客、すなわち、売上上位20%の顧客に対して応援されるための働きかけを行うことが妥当であり、20%の顧客との関係を深めることで、顧客生涯価値(LTV)を高めることができるということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、応援消費とはイミ消費と言い換えることができるということについて述べておられます。「2021年のコロナ禍、朝日新聞の『天声人語』に次のような記事がありました。『JR三鷹駅(東京)から歩いて5分。雑居ビルの地下1階に、“中華そばみたか”はある。10人も座れば満席の小さいラーメン店だ。全国の飲食店と同じく、コロナという強い逆風にさらされた。最大の試練は、春と夏にだされた緊急事態宣言で、お酒を出せなくなったこと。いわゆるラーメン居酒屋で、夜になれば、客たちはビールを楽しむ。

宣言下で1日7ケース分あった注文が消え、客足も遠のいた。“自分で3代目、経営して12年目ですが、売上が半減するのは初めてでした”と店主の橋本重光さん(40)。支えは常連客だった。“ビールの代わりに”と、あえてサイダーやのなるコールビールを注文して助けてくれる人。“店がなくなったら困る”と、毎回お釣りを受け取らない人もいた。お土産用の麺を買って帰る客も絶えない。橋本さんは、“ころな下で人情の連鎖が心に染みました”と話す』

このラーメン居酒屋さんだけでなく、コロナ禍では全国で同じような応援消費が行われたと思います。私も少額ながら、地元で立ち上がった飲食店を応援するクラウドファンディングで支援をさせていただきました。この応援消費という行為は、言葉を変えると(中略)『イミ消費』を言えます。消費者のニーズは、『モノからコト』、『コトからトキ』、そして時代は消費することに対してイミ(意味)まで考えるようになりました。

イミ消費は、社会的意義のある活動を応援するという意味もありますが、もっとシンプルに『自分いとって大きなイミ(意味)をもつブランドだから応援する』ということでもあります。先程の新聞記事にもありましたが、そのお店がなくなったら自分が困るのです。好きなブランドが苦境に立たされていれば応援する。これは予測するまでもなく、人として最もシンプルで当たり前の行動ではないでしょうか。

ブランドが苦境に陥っていなくても応援する心は同じです。自分にとって大きなイミ(意味)を持つブランドだから、購入(消費)というカタチで応援したり、まわりに紹介したり、ブランドが脱線しそうになっている時には苦言を呈したり、適切なフィードバックをしたりします。そのようなイミ(意味)をブランドに付加することが、応援されるブランドにとっては必要不可欠な要素であり、そのイミを持ったブランドこそが応援され、愛され、そして運ばれ続けるのです」(63ページ)

賛否両論はあるものの、年をおってふるさと納税が増えている理由のひとつには、渡部さんのご指摘しておられる、イミ消費をしようとする納税者のニーズがあるからだと思います。もちろん、ふるさと納税によって、納税者は2,000円のみの負担で、返礼品をもらえるというメリットが最も大きいと思いますが、どの自治体にふるさと納税をしようかというときに、その返礼品の生産者を応援したいとか、その自治体やその自治体の経済活動を応援したいという理由もあると思います。

私も、毎年、沖縄県石垣市ふるさと納税をして、石垣牛のハンバーグをいただいていますが、これは、石垣市の畜産業を応援したいというほかに、石垣市長が、度重なる外国船の領海侵犯への対応に費用がかかっているので応援して欲しいという呼びかけをYoutube番組で行っているところを見たので、それに応えたいという気持ちが起きたからです。

話を本旨にもどすと、最近は、消費者は、自分の購買行動を通して、自分の理想とする社会を実現しようとする傾向にあるようです。例えば、2018年12月にスタートした、売れ残りパンを販売する通信販売プラットフォームの「rebake」では、年を追って販売量を拡大し、2022年末までに700トンのパンを販売し、廃棄されるパンの削減に貢献しています。これは、パンを食べたいというよりも、フードロスをなくす社会を実現しようとするイミ消費だと思います。

また、電気自動車の人気が高いのも、脱炭素社会を実現しようとする消費者が多いことの表れだと思います。さらに、アパレル店で販売されている商品のうち、発展途上国の工場と適正な価格で取引されているフェアトレード商品であるものを購入することで、発展途上国の労働者の労働環境の改善に貢献しようとする消費者も少なくないようです。中小企業でも、地産地消の製品や、地域の伝統的な技術を残そうとする製品などを製造することで、イミ消費を喚起することになるのではないかと、私は考えています。

2024/7/2 No.2757

 

売上上位20%のお客様に寄り添う

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、必ずしも、すべての顧客から応援されることを目指すのではなく、現在、自社を評価している顧客、すなわち、売上上位20%の顧客に対して応援されるための働きかけを行うことが妥当ということです。これは80対20の法則に基づく活動であり、20%の顧客との関係を深めることで、顧客生涯価値(LTV)を高めることができるということです。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、顧客が自社を応援する段階は4つあり、それは、(1)購入→(2)リピート→(3)知人にポジティブな紹介をする→(4)改善のためのアイディアなどをフィードバックしてくれるというものであるということを説明しました。

これに続いて、渡部さんは、応援ブランドを目指すには、売上上位20%のお客様に寄り添うことが必要ということについて述べておられます。「『応援されるブランド』と言うと、すべてのお客様に応援されているような印象を受けますが、実際に応援してくれる人の数は多くはありません。いずれのブランドでも、最初は極少人数の応援から始まります。人数は少なくても、売上などの貢献ベースで分析すると、その大部分が応援してくれる人たちで占められていることが多いのです。あなたはこんな話を聞いたことはありませんか。

『売上の80%は、20%の商品から生み出されている』『成果の80%は、20%の社員が生み出している』『成果の80%は、20%の業務時間で生み出されている』これは、イタリアの経済学者、ヴィルフレド・パレートが発見した冪乗則(べきじょうそく)で、『80対20の法則』と呼ばれるものです。冪乗則と言うとわかりづらいので、ここでは経験則と表現します。経験則とは、実際に起きていることから規則性を見出したことによって生まれたものですが、もちろん、すべての現象において当てはまるものではありません。ただ、こと顧客別の売上構成で考えると、多くの業種において、この法則が当てはまります。(中略)

応援されるブランドを目指すということは、言葉を変えると、売上上位20%のお客様に寄り添うということです。その人たちのブランドに対する満足度を、さらに高めていくのです。『新規客に販売するコストは、既存客に販売するコストの5倍かかる』というマーケティングの『1対5の法則』にもあるように、新規客に売るより、既存のお客様に再び購入してもらう方が、圧倒的なコストの削減につながり、その結果、利益率が自然と高まります。さらに、そのお客様は、すでにブランドのことを気に入って応援してくれている人です。

当然、ひとりのお客様が起業にもたらす価値(売上)の総量が増えます。マーケティング用語で言うと、LifeTimeValue(顧客生涯価値)が高まるのです。それだけではありません。あなたのブランドの売上を支えてくれているお客様に集中するということは、あなたのブランドの価値を1番理解してくれている人と、密に接するということです。つまり、あなたのぶらんどのことが好きな人たちにだけ力を注ぐのです。考えただけでもワクワクしてきませんか」(55ページ)

80対20の法則は広く知られていると思いますが、改めてその効果について考えてみたいと思います。売上1億円、利益1,000万円(利益率20%)の会社、A社には、顧客が100人いるとします。そして、A社の顧客1人当たり、1万円の広告費を使うと、売上を10%増加することができると仮定すると、100人の顧客全員に1万円ずつ、計100万円の広告費を使うことによって、売上は1億1,000万円、利益は2,200万円になります。

しかし、広告費100万円を使っているので、ネットの利益は2,100万円になります。ところが、同社の売上上位20人の顧客の売上が8,000万円だとすると、その20人に対してだけ、1人1万円、計20万円の広告費を使うと、売上は1億800万円(=1億円+8,000万円×10%)に増加し、利益は2,160万円になります。ここから広告費20万円を引いたネットの利益は2,140万円となり、顧客全員に対して広告費を使うよりも、効率の良い販売促進が実践できたことになります。

さらに、100万円の広告費を上位20人の顧客に対して使うと、売上は1億4,000万円(=1億円+8,000万円×10%×(100万円÷20万円))に増加し、利益は2,800万円、広告費を差し引いたネットの利益は2,700万円になります。これは、単純化したモデルですが、売上の多い顧客に対して販売促進をすることは効率が高いということが分かります。この論理はほとんどの方が理解できると思うのですが、中小企業でこれを実践している会社は、あまり多くないと、私は感じています。

その理由のひとつは、上位20%の顧客を把握できていないからです。肌感覚では得意客は把握できていますが、1か月ごと、または、1年ごとに顧客別の売上を集計していなければ、大口顧客以外の顧客になると、上位何%の顧客になるのかがわからなくなります。また、顧客ごとの利益まで把握していなければ、大口顧客であっても、実は、不採算の取引先であったということもあります。理由の2つ目は、クレーム対応にばかり追われて、本来、優先すべき上位顧客への対応が後回しになっているということが挙げられます。

クレームには対応しなければなりませんが、そのクレーム対応への費用を加味した結果、採算が取れていなければ、その顧客との取引は解消した方が、会社の利益を増やすことになります。ただ、理屈ではそれがわかっていても、顧客に接している現場では、「クレームにはすぐに対応しなければならない」、「取引額がそれほど大きくなくても、取引がなくなることは避けなければならない」という意識が働き、なかなか適切な決断ができないということがあります。

そこで、顧客ごとの採算管理や、取引先の見直しを、定期的に行うことが大切です。話をブランドに戻すと、自社のブランドを高めるためには、自社商品、及び、自社を支援してくれる顧客に対して、さらに関係を深めることが基本です。そうであれば、現在、自社を評価してくれている顧客に対して集中的に関係を深める働きかけを行うことが重要です。だからこそ、顧客を管理する体制整備と、それに基づいた関係強化を実践できるようにする能力を備えることが鍵になります。

2024/7/1 No.2756

 

顧客からの応援の4つの段階

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、顧客が自社を応援する段階は4つあり、それは、(1)購入→(2)リピート→(3)知人にポジティブな紹介をする→(4)改善のためのアイディアなどをフィードバックしてくれるというものだそうです。したがって、自社のブランドを確立するためには、自社にフィードバックをしてくれる顧客を増やすための関係強化の取り組みをすることが必要です。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、日々、様々なマーケティング情報に晒されている結果、消費者はマーケティングに対するリテラシーが高まったり、マーケティングへの嫌悪感が高まったりするようになり、このことによって、消費者は企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないようになっていることから、現在は、真の意味のマーケティングを実践しなければならなくなっているということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、渡部さんの定義する「応援ブランディング」とはどのようなものかということについて述べておられます。「私たちがビジネスを行う上で一番の応援は、やはり、商品やサービスを『購入』してくださることでしょう。(中略)一番下の階層(1)となります。この購入には、クラウドファンディングふるさと納税のような支援に近い応援購入と、その商品やサービスが必要であったり、気に入ったから手に入れる通常購入があります。

いずれにしても、その商品やサービスに“好感”を持ってもらわないと購入されませんが、一度だけであればハードルはさほど高くありません。セリング(売り込み)で十分対応できる領域です。その次の階層(2)は、一度購入した商品やサービスを再び購入していただく『リピート』です。リピートはその商品やサービスにある程度“共感”してもらわないと発生しないため、マーケティング(売るための仕組みづくり)が必要となってきます。

さらにひとつ上の階層(3は、商品やサービスを購入した上で、ポジティブな意見を周りに広めてくれる『口コミ』や、周りの人に対して積極的に薦めてくれる『紹介』です。ちなみに口コミは、デジタル上でレビューを書いたり、リアルな場でまわりに口頭で伝えることも含まれます。この階層まで上がると、その商品やサービスに対して、“共鳴”していないと行動が生まれないため、ブランディングの領域に入ってきます。そして、一番上の階層(4)では、対象ブランドに対して改善点や評価、アイディアを伝えてくれるなどの『適切なフィードバック』が行われます。

ここまでくるとお客様自身がブランドの関係者という意識を持ち、ともに新たな価値を創るという“共創”の精神が生まれているため、応援ブランディングの領域となります。これらを統合し、本書では『応援』を次のように定義します。“対象ブランドの商品やサービスを購入したり、口コミやまわりの人に紹介するなど、ブランドにとってポジティブな行動を能動的におこすこと”ポイントは“能動的に”という部分にあります。企業側がお願いするのではなく、お客様が自ら考え、ポジティブな行動を起こしてくれるようになることが、真に応援されるということなのです」(52ページ)

ブランドは、商品そのものの競争力が高いことが必要ですが、それだけではブランドが確立できるわけではありません。商品がリピート購入され、口コミで知人の評価を広めてもらえるようになったりする必要があります。そのような段階になると、顧客からの評価は、商品そのものへの評価ではなく、ブランド(または、それを販売(製造)している会社)への評価ということになります。したがって、自社と顧客との関係が「階層(4)」に至るようになるためには、そのための仕組みを整えておく必要があります。

その方法は、商品によって様々であり、ひとつだけではありませんが、例えば、味の素冷凍食品が、SNSのX(旧Twitter)で、同社の製品の餃子を評価している消費者から、1,000個以上のフライパンを集めたという事例が参考になると、私は考えています。なぜ、1,000個のフライパンが集まったのかというと、同社は、Xで、次のような投稿をしたからです。「突然のご連絡を申し訳ありません。フライパンで弊社のギョーザを焼いたところ、張り付いてしまったとのツイートを拝見いたしました。

弊社は、誰でも失敗なく、羽根つきギョーザが焼き上がる感動をお届けすることを目指しております。大変勝手なお願いでご面倒おかけいたしますが、このたび調理にご使用いただきましたフライパンを、着払いにてご提供いただけないでしょうか?焦げ付いてしまうフライパンの状態を確認させていただき、研究・開発に活用させていただきたく考えております」すなわち、味の素冷凍食品はよい製品を開発したいという思いをXに投稿し、それに呼応して同社を応援したいという消費者から1,000個のフライパンが届いたのでしょう。

ここで私が伝えたいことは、味の素冷凍食品は1,000個のフライパンを送ってもらえるほど評価されているということではなく、よい製品をつくりたいという思いを消費者に伝えているということです。もちろん、商品そのものの品質も大切ですが、その品質を高めるためには、自社を応援してくれる消費者を増やすための取り組みをしているということです。繰り返しになりますが、現在は、よい商品をつくる、すなわち、競争力を高めるためには、消費者に応援してもらうための働きかけが重要になっているということです。

2024/6/30 No.2755

 

Z世代は企業発の情報を求めていない

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、日々、様々なマーケティング情報に晒されている結果、マーケティングに対するリテラシーが高まったり、マーケティングへの嫌悪感が高まったりするようになりました。すなわち、消費者は企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないようになっていることから、現在は、真の意味のマーケティングを実践しなければならなくなっています。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始め、全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要ということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、現在は、企業のマーケティングは、多くの消費者に見透かされているということについて述べておられます。「私たちは、日々、生活をする上で、様々なマーケティング情報に晒されています。例えば、SNSを開くとソーシャルメディアマーケティング、YouTubeを見ていると動画マーケティング、仕事でメールを使うひとはメールマーケティングなど、あらゆるシーンで、半ば、強制的にそれらの情報を受け取らされているのです。

そして、繰り返し、それらのマーケティング情報に晒されることで、多くの人はある能力を手に入れました。それは、マーケティングに対するリテラシー。要は、『何がマーケティングで、何が真実なのか』、直感的に識別できるスキルを手に入れたのです。また、そのスキルを手に入れられなかった人はどうなったのでしょうか?マーケティングへの嫌悪感が高まり、それらの情報に対するアレルギー反応を起こすようになりました。そのような人たちは、マーケティング臭がきつい情報を自然と避けるようになったのです。

現代経営学の父、ピーター・ドラッカーいわく、『マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすること』にもかかわらず、それらの情報に晒され続けた私たちは、マーケティングをただのセリング(売り込み)として感じていることの方が多いのです。マーケティングに対するリテラシーが高まり、一方で、アレルギー反応を起こす人もいる中、企業発のマーケティングは、ますます効きにくい時代に入ってきています。

とくに、今後の消費を牽引するZ世代(1990年代半ば~2010年代生まれの世代)は、物心のついたころから、インターネットに触れていて、SNSが当たり前の世代です。誰もが発信力を持つ中で、企業発の情報を鵜呑みにするようなことはありません。これまでのように、企業が芸能人や有名人を起用して商品をお薦めしたとしても、Z世代は他の世代と比べてあまり買わないことがわかっています。つまり、企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないのです」(48ページ)

本旨から少し外れますが、公益社団法人日本マーケティング協会は、2024年1月に、34年振りにマーケティングの定義を次のように刷新しました。「(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」とはいえ、この定義は抽象的であり、私はドラッカーの述べているように、「マーケティングの目的は、売り込みを不要にすること」という理解で問題ないと思います。

ただ、ビジネスパーソンの中には、マーケティングとセリング(販売活動)をほぼ同じと考えている方が多いようであり、私はこのことを残念に感じています。それでは、なぜ、セリングとマーケティングが混同されてしまうのかというと、マーケティングは難易度が高く、また、その具体的な方法もイメージしにくい一方で、セリングはイメージしやすく、また、成功するかどうかはともかく、実践することは比較的容易なため、マーケティング→売上を増やすための活動→セリング、というように連想されてしまうのではないかと思います。

しかし、前述したように、ドラッカーは、「マーケティングの目的は、売り込みを不要にすること」と述べているにもかかわらず、マーケティングで不要にしようとする活動であるセリングがマーケティングであると、多くの人に認識されていることは、皮肉なことだと思います。では、具体的なマーケティングとはどういうことかというと、これを実践している会社の割合は低いかもしれませんが、実践している会社の数は決して少なくありません。

1つ例を挙げると、私は、宮城県仙台市にある「主婦の店さいち」(以下、単に「さいち」と記します)です。さいちは年商約7億円のスーパーマーケットですが、看板商品のおはぎが売上の約6割を占めるそうです。おはぎは、数でいうと、1日5千個から、多い日では2万個も売れるそうです。このおはぎは添加物を使わず、砂糖と塩だけで味付けし、材料である小豆と米の本来のおいしさを引き立たせているそうです。

その結果、チラシも出さず、特売も行っていないそうです。このように、さいちでは「売り込み」をしていないのですが、それは、おはぎを始めとした総菜の味、すなわち、商品の魅力を高めることで実現しています。ただ、繰り返しになりますが、このような商品をつくることは、難易度が高いことも事実です。その一方で、渡部さんもご指摘しておられるように、消費者は、マーケティング(実際にはセリングですが)に嫌悪感を示すようになっています。

そして、当然のことながら、顧客に嫌悪感を示されれば、よい関係は構築できず、事業は長続きできなくなります。したがって、直ちに、さいちのような魅力の高い商品は開発できなくても、少なくとも、マーケティングを正しく理解し、それを実践していくことが、労力はかかるものの、顧客に嫌悪感を持たれず、事業を長続きさせることができる最短の道だと、私は考えています。

2024/6/29 No.2754

 

ブランド確立にはまず2割の共感者から

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始め、全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要ということです。すなわち、ブランディングの確立は、「ゼロ」の段階からスタートするので、効果が得られるまでは、経営者の方が先頭に立って活動を牽引していく必要があります。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ブランディングは短期的なマーケティング施策ではなく、長期的な視点に立った未来への投資と考えなければならないため、ブランディングを成功させるためには、労力と時間を要するという前提で取り組む必要があるということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、応援されるブランドをつくるには、2割の共感者が必要ということについて述べておられます。「応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始めます。全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要というのが和田さん(渡部さんがご支援している、不動産デベロッパーの代表)の経験則です。

その割合の理由は、全員が理解できるような一般化した価値であれば、それはすでに市場に浸透しており、飽和状態にある可能性が高いからです。そのため、最初の段階では、ブランドの価値を理解できない人が多いほど、そのブランドは成長する可能性が高いとも言えます。事実、今回の分譲プロジェクトにおいても、最初の共感者はその程度の割合だったそうです。そして、その後には、ブランドの価値をビジュアルや行動に落とし込み、社外へ伝えていくブランディングの実務者が必要となります。

もちろん、共感者と実務者は同一人物でも構いません。それと同時進行で、社内外におけるブランドの共感者を少しずつ増やして行きます。徐々に共感者の母数を増やしていくのです。そのためには、従業員やお客様を含めたステークホルダーだけでなく、地域や社会がよりよくなるような未来を描き、見せ続けること。それこそが応援され続けるブランドを牽引する経営者の役割なのです」(43ページ)

前回は、ブランディングは未来への投資であり、ブランディングを成功させるためには、労力と時間を要すると述べましたが、そうであれば、当然、ブランディングが確立するまで、経営者はそのための活動を管理していかなければなりません。また、ほとんどの場合、ブランディングは「ゼロ」の状態から開始するので、渡部さんが述べておられるように、ブランドの価値に共感してくれる方は、従業員も含めて少数葉であるということです。

すなわち、自社のブランドは、それを活用しようとする段階で、すでに支持者がたくさんいるわけではなく、むしろ、誰にも関心を持たれていない状態から、関心を持ってもらうための活動をしていくことになります。このことは、ブランドを確立しようとする会社の障壁になっていますが、逆に、ブランドが確立できれば、他社との差別化を図ることが容易になり、ブランドを確立するまでに要した労力を上回る利益を得ることが期待できます。また、現在は、前回も述べたように、商品そのものでライバルとの差別化を図りにく時代ですので、ブランドを活用する必要性も高まっています。

そして、ここまで述べてきたことからも分かるように、現在の事業は一朝一夕には成果が得られない時代になってきていると言えます。思いつき的に起業しても(新しい事業に進出しても)、よほどの幸運に恵まれなければ成功はしません。それがよいか悪いかはともかく、繰り返しになりますが、現在は、きちんとした準備をして、それなりの期間をかけて事業に取り組まなければ成功しなくなりつつあるということが、ブランディングという活動を例にとって理解できると思います。

2024/6/28 No.2753

 

ブランディングは長期的な未来への投資

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランディングは短期的なマーケティング施策ではなく、長期的な視点に立った未来への投資と考えなければならないそうです。そこで、ブランディングを成功させるためには、労力と時間を要するという前提で取り組む必要があります。


[本文]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を拝読しました。同書で、渡部さんは、ブランディングは中小企業であっても重要であるものの、それを確立するにはある程度の労力が必要ということを述べておられます。「(中小企業が)ブランドイメージやブランドポジションを確立するには、時間と手間、そしてコストがかかってきます。ブランディングは短期的なマーケティング施策ではなく、未来への投資です。

故に、その予算取りをどのように捉えるかが(中略)、中小企業にとって大きな課題と言えるでしょう。これは、イベントだけでなく、ブランディングの専任者を置く際にも、人件費という観点から同じことが言えます。そのためには、売上などの定量的な成果だけでなく、対外的なブランドイメージや社員のモチベーションアップなど、定性的な成果も合わせ見て、総合的な効果を考えることが必要です。

ブランディングの予算配分は、中小企業における悩みのタネですが、自社が掲げるミッションや経営理念を実現するには、未来への投資は欠かせません。とは言え、短期的な成果への投資も同じくらい大切なので、どちらかに偏り過ぎないよう、バランスを取りながら考えていくことが、ブランドの持続的な成長につながるのではないでしょうか」(42ページ)

この渡部さんのご指摘は、多くの方がご理解されると思います。また、このような考え方は、ブランディングの確立に限らず、組織開発、人材開発、情報化武装マーケティングなどにもあてはまります。ところが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業経営者の方の多くは、直接部門以外には、あまり、人員を充てようとはしないということです。それは、人件費を抑えるためには、間接部門の人員を増やしたくないという考えによるものだと思います。

そして、間接部門は、外注したり、パート従業員に担当させたり、直接部門の従業員に兼任させたりすることで、あまり経費を増やさないようにするなどの対応を行います。このような考え方は、かつては、うまくいっていたと思います。しかし、私は、現在は、間接部門にあまり注力しないという対応は、うまくいかないと思っています。なぜなら、現在は、多くの会社が品質の高い製品を製造したり、商品を販売したりしているので、製品や商品そのものでの差別化ができなくなりつつあるからです。

ブランディングは、まさに、顧客体験価値など、製品や商品そのものではなく、それを入手することで得られるメリットを高める活動です。ところが、そのような活動に注力しなければ、ブランディングは成功しないということは、渡部さんのご指摘の通りです。したがって、ブランディングで成功したいと考える経営者の方は、直接部門と同様かそれ以上にブランディングのために経営資源を注ぐと考えなければならないと、私は考えています。

2024/6/27 No.2752

 

日本政府の借金は1,000兆円?

[要旨]

財務省が公表している日本政府の貸借対照表によれば、日本政府の借金は1,000兆円あることがわかります。しかし、資産は672兆万円、負債は1,193兆円なので、資産・負債差額は▲521兆円になり、さらに、日本銀行貸借対照表と連結すれば、▲120兆円にまで縮小します。このように、会計の数値は、その数値だけを見るのではなく、全体を見て判断しなければ、正しい理解はできません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、フジテレビを傘下に持つ持株会社フジ・メディア・ホールディングスの2017年3月期の貸借対照表によれば、同社の資産は1兆円、不動産が3,700億円、投資有価証券は3,000億円あり、放送会社でありながら、不動産事業の割合が本業に匹敵するくらい大きくなっているということが読み取れるということについて書きました。

これに続いて、高橋さんは、政府の貸借対照表について述べておられます。「実際に政府のBSを見てみよう・以下に挙げる数字は、すべて財務省が作成した『平成27年度国の財務諸表』で公表されているBS(平成29年3月30日報道発表)のものである。細かい項目が並んでいるが、素人すべてを理解しようとしても、歯が立たないし、あまり意味がない。

ここは、有価証券報告書を見る鉄則と同じ、『際立った数字を読んで、わかればいい』のだ。では、負債の部で際立った数字はどれかというと、『公債』だ。(中略)『公債』は、917兆4,734億7,000万円だ。これが、世に悪名高い『借金1,000兆円』の主役である。恐らく、(公債が書かれている項目より)1つ上の『政府短期証券86兆3,823億900万円』も合わせて1,000兆円と騒いでいるのだろう。

ついでに言うと、『政府短期証券86兆3,823億900万円』(償還期間の短い国債=短期国債)と、『借入金29兆8,821億3,000万円』も足した1,000兆円ちょっとが、日本政府の借金だ。しかし、会計的な見方を身につけてきた読者なら、もう、わかるだろう。借金の額だけを見て批判するのは、的外れだ。重要なのは、負債の総額ではなく、『資産と負債のバランス』である。

ということで『資産合計』を見ると、672兆3,599億7,000万円とあり、『負債合計』を見ると、1,193兆1,636億7,300万円とある。さらに、『資産合計』から『負債合計』を引いた額も、自分で計算するまでもなく、BSに書いてある。それなら、最初から『資産・負債差額』だけ見ればいいと思ったかもしれないが、際立って数字の高い勘定項目を確認するクセは、つけておいた方がいい。

現に、『負債の部』を見たからこそ、『政府の負債の大半は国債』と確認することもできたのだ。では、改めて、日本政府の『資産・負債差額』はどうなっているかというと、▲520兆8,037億6,600万円だ。『日本政府の借金は1,000兆円』と批判している人たちは、この差し引き数字が見えていない。それをいうなら、『日本政府の純資産は、約▲521兆円』である」(194ページ)

この後、高橋さんは、日本政府の貸借対照表日本銀行貸借対照表を連結させると、「日本政府の純資産は、約▲120兆円」になると説明しています。ところで、「政府の借金1,000兆円」についてですが、単に、この数字だけを見れば、多くの人は、「政府は多額の借金を抱えて大丈夫なのか」と感じてしまうと思います。

しかし、純資産は▲521兆円であり、さらに、政府と一体である日本銀行との試算を合わせれば、それはさらに▲120兆円にまで縮小します。すなわち、財務分析では、1つの数字だけを見ていては、その会社(組織)の財政状況を正しく把握できないのです。ところが、いまだに、一部の「知識人」によって、「政府は財政破綻する」とか、「日本国債は暴落する」といった主張が行われていることは、私はとても不思議に感じています。

それも、単に、私と意見が違うということではなく、会計的な視点からの説明が行われず、「借金が1,000兆円もある」ということだけが主張されているだけです。そうであれば、財政破綻国債暴落は、非論理的な主張でしかありません。これに対して、「日本政府と日本銀行を連結した貸借対照表でも、純資産は▲120兆円もある」とお考えの方も多いと思います。しかし、私は、日本政府は、実質的に資産超過であると考えています。

なぜなら、日本の国債金利が低いからです。いま、日本の金利は上昇したとはいえ、10年国債の利率は0.8%です。一般の会社が、債務超過の状態であれば、どんなに金利を高くしても、融資を受けることはできません。なぜなら、負債が資産を上回っている状態なので、融資を返済できる能力がないと判断されるからです。

でも、日本政府は、たった0.8%でお金を借りることができるというのは、確実に返済してもらえるからと考えられているからです。すなわち、貸借対照表は、表向きは債務超過でも、実態は資産超過であると考えられているということです。したがって、「日本の国債は暴落する」と主張する人は、なぜ、金利が0.8%と、極めて低いのかを説明しなければなりませんが、私は、その理由をきいたことはありません。

とはいえ、この記事の本旨は、日本政府の財政が危ないかどうかではなく、きちんと財務情報を読むことができるかということです。すなわち、「日本政府の借金は1,000兆円」ということは事実であるとしても、ビジネスパーソンとしては、単に、「それはとても大きな金額だから、日本政府は危ない」と理解することは避けなければいけません。

2024/6/26 No.2751