鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

銀行も取引先のひとつ

[要旨]

自社の業績が悪い時は、銀行と接触することは気が進まないという時もあります。しかし、自社がピンチのときこそ、銀行からの支援が欠かせません。そこで、銀行も取引先のひとつと考え、緊密な接触を行うことが大切です。


[本文]

今回も、税理士の佐藤亜津子さんのご著書、「税理士がこっそり教える儲かっている会社の会計ルーティン15」から、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。「銀行は、事業を行う上で欠かせない取引先のひとつです。その他多くの取引先と変わらないので、必要以上に身構えることはありません。ただ、やはり、会計資料で会社の説明をするといったことは、他の取引先とは違う独特なことなので、慣れが必要でしょう。

また、会社の業績は、いい時も悪い時もあるので、特に悪い時には銀行に行くことは気が進まないということもあるでしょう。そういう時こそ、現在の会社の状況や、その原因、対策について、会計資料を基に説明するとよいでしょう。逆に、融資を受けたい時だけ必死にお願いをして、融資を受けたとたんに疎遠になることも避けなければなりません。銀行も取引先のひとつと考えれば、その理由は明らかでしょう」

銀行の融資姿勢は、「晴れの日に傘を貸そうとするけれど、どしゃぶりの日はそれを取り上げる」と揶揄されることはありますが、そのようなことをする例はレアケースだと思います。まったくないとは言いませんが、、多くの場合は、融資相手の会社を支援しようとすることがほとんどでしょう。でも、銀行から自社を支援しようという方針を持ってもらうためには、自社の状況をよく理解してもらうことも必要です。

そこで、「現在の会社の状況や、その原因、対策について、会計資料を基に説明する」ことが大切です。でも、融資を受ける側としては、身構えてしまうことも確かです。そこで、佐藤さんは、「銀行も取引先のひとつ」と考えればよいとご指摘しておられるのだと思います。自社の顧客は利益をもたらしてくれる大切なステークホルダーですが、銀行も、自社に「事業活動の血液」である「融資」をしてくれる、大切なステークホルダーです。

2022/1/12 No.1855

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なぜ事業計画書が必要なのか?

[要旨]

融資の申し込みに際し、事業計画書を作成することは避けたいという経営者の方もいますが、事業計画書を作成することは、自社の事業計画の客観性を高める、説得力が高まる、経営者の当事者意識が高まる、事業の実現可能性を確認できるという利点があります。


[本文]

今回も、税理士の佐藤亜津子さんのご著書、「税理士がこっそり教える儲かっている会社の会計ルーティン15」から、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。「銀行に対して会社の説明をするためには、会計資料を使って数字で説明をする必要があります。会計の数字が目の前の銀行職員との共通言語なのです」ときどき、融資の申し込みをしたときに、話の内容を銀行職員が理解してくれないという不満を持つ経営者の方を見ることがあります。

経営者の方は、自らの携事業は成功すると考えているから、事業に積極的に臨むわけですが、一方、銀行職員は部外者です。そこで、自社の状況を詳細には理解していないことは当然なので、それを前提にして説明しなければならないことは当然なのですが、それだけでなく、客観性を持たせることも必要です。というのは、当事者は、自社の事業をひいき目に見てしまう、または、仮にそうでないとしても、当事者の説明はひいき目なものであると、銀行職員は考えているからです。

そこで、佐藤さんの指摘しているとおり、「会計所領」を使えば、詳細な説明を減らすことができたり、客観性を高めたりすることができます。そして、さらに注意する点についても、佐藤さんは指摘しています。「誰かのサポートを受けるのは決して悪くはありませんが、あくまでも事業計画書を作成する場合の主体は社長です。そして、事業計画書を自分で作成すると、その事業をシミュレーションすることができます」私は、よく、銀行から融資を受けられるような事業計画書を作成して欲しいと依頼されることがあります。でも、それは本末転倒であることはいうまでもありません。

他人が作成した事業計画書は、それを依頼した経営者にとっては、当事者意識を持つことができません。また、そのような事業計画書は、銀行にも画餅であると見透かされてしまいます。さらに、経営者自らが事業計画書を作成する意義は、当事者意識を持つだけでなく、自分の構想に齟齬があるかどうか、実現可能があるかどうかも、確認することもできます。会計が不得手な経営者にとっては、事業計画書の作成は避けたいと考える方もいると思いますが、上述のような理由から、事業計画書は専門家の助力を得るなどして、必ず作成することをお薦めします。

2022/1/11 No.1854

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売上しか見ていないと儲からない

[要旨]

起業した経営者の方は、自分の得意分野に没頭してしまう結果、納品までの管理や、代金の回収までの管理が疎かになり、売上はえるものの、利益を得られなくなるという例もあるようです。したがって、経営者は、得意分野だけに没頭することなく、事業全体が円滑にまわっているかどうかを管理することを優先しなければなりません。


[本文]

税理士の佐藤亜津子さんのご著書、「税理士がこっそり教える儲かっている会社の会計ルーティン15」を読みました。同書には、私にも共感できるご指摘がたくさんあったので、今回から、その中のいくつかについてご紹介していきたいと思います。まず、そのひとつは、「売上しか見ていないと儲からない」です。佐藤さんによれば、かつての顧問先で、ウェブサイト制作会社の社長は、営業能力が高く、同社は順調に受注が推移していたそうです。

しかし、社長が忙しいこともあり、受注したあとは管理ができておらず、納品までのトラブルが多発していたそうです。さらに、納品後も、請求書の発行が遅れたり、入金管理ができていなかったりしたそうです。このような状況では、売上を増やしても、利益はあまり得られそうにありません。同社がこのような状態になってしまった原因として、佐藤さんは、起業する人の多くは、営業畑出身者か、技術畑出身者であることが影響していると指摘しています。

というのは、営業が得意な社長は受注を得れば満足してしまい、また、技術開発が得意な社長はよい商品を作れば満足してしまうということです。営業マンであれば受注を得ること、技術者であればよい製品を作ることが役割ですが、起業して経営者になったのであれば、経営者としての役割も果たさなければなりません。それは、事業全体がうまくまわっているかを管理する役割です。

前述の例では、受注後も、納品が円滑に進んでいるか、代金回収も滞っていないかまでを社長は管理しなければなりません。でも、佐藤さんの指摘しているように、社長になってからも、自分の得意分野だけに没頭してしまう方が少なくないということは、私も実感しています。起業して経営者になった場合、社長は事業全体の管理をすることを最も優先して取り組まなければならないということを、忘れないようにしましょう。

2022/1/10 No.1853

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私募債を活用する3つの理由

[要旨]

日本レーザーの近藤社長は、(1)会社のイメージアップができる、(2)金利や償還方法が有利である、(3)個人保証が不要であるという理由で私募債による資金調達を行っています。私募債は、手続きが難しいというデメリットもありますが、それ以上に得られるメリットが大きい資金調達方法と言えます。


[本文]

今回も、日本レーザー社長の近藤宣之さんのご著書、「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」の中から、私が気づいた点について述べたいと思います。近藤さんは、銀行からの資金調達にあたって、私募債を活用しているそうです。私募債は、資金調達のひとつの方法ですが、融資と違って、資金調達する側の会社が発行する債券を投資家に発行し、投資家から資金を受け取る方法です。この会社が発行する債券は社債といい、社債のうち、特定の少数の投資家を相手に発行する社債を私募債といいます。

そして、融資は、銀行に預金されている預金者のお金を、銀行を通して間接的に事業者に提供している間接金融であるのに対し、社債は、直接、投資家から資金の提供を受ける、直接金融と言えるでしょう。ちなみに、株式発行による資金調達も、投資家から、直接、資金の提供を受けるという面からは、直接金融に分類されます。ただ、中小企業が社債を発行するときは、そのすべてを銀行が引き受ける例が多いので、形式的には社債であっても、実質的には、銀行からの融資と同じと言える面があります。

しかし、やはり、融資と私募債には違いがあり、近藤さんは、その私募債の特徴があるからこそ、あえて、私募債を活用しているそうです。その理由のひとつめが、会社のイメージアップができるからということです。というのは、私募債は、一定の要件を満たした会社でなければ発行できません。例えば、東京信用保証協会の信用保証制度を利用する会社の場合、純資産額3,000万円以上、自己資本比率20%以上などの要件があります。このことは、私募債を発行している会社は、ある程度、優良な会社であるということを、社外にアピールできることになります。

2つめの理由は、低利で安定的な資金調達ができるからだそうです。私募債は、優良な会社が発行できるわけですから、金利も、その信用力を反映して低利となります。金利も、固定金利が一般的です。また、償還については、私募債は、一般的には、償還期日に一括して償還するので、それまでは社債利息のみを支払うだけですみます。3つめの理由は、経営者の個人保証を条件としない資金調達方法だからだそうです。担保と保証については、場合によっては、場合によっては担保を求められることもありますが、個人保証はほとんどもとめられることがないようです。

また、私募債のような経営者の保証なしの資金調達を行う実績をつくっておくと、それ以降は、銀行は、同社に対して社長の個人保証は求められなくなることを狙っいるということです。とはいえ、私募債による資金調達は、一般の融資よりも難易度が高いものであることは間違いありません。でも、前述のようなメリットを考えると、私募債の活用は、近藤さんと同様に、私は得策であると考えます。もし、安定的、かつ、有利な資金調達を考えている経営者の方は、ぜひ、私募債の利用をご検討されることをお薦めします。

2022/1/9 No.1852

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在庫を増やさない6つの方法


[要旨]

日本レーザー社長の近藤さんは、在庫は常に売れるものだけにしようと考え、避けられない不良在庫の発生を除去するための利益を得たり、定期的な実地棚卸を実施しています。すなわち、同社の在庫は、事業活動の結果ではなく、社長の意思を反映させる対象となっています。


[本文]

今回も、日本レーザー社長の近藤宣之さんのご著書、「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」の中から、私が気づいた点について述べたいと思います。近藤さんは、近藤さんの考える、在庫を増やさない方法を、6つ示しておられます。(1)定期的に棚卸をして、在庫状況を正確に把握しておく。(2)「原価を下げることになる」からといっても、まとめ買いはなるべくしない。(3)販売促進用のデモ機などは、設備化して、減価償却をしていく。

(4)在庫品が売れなくなる前に、値引きキャンペーンをして売り切る。(5)不良在庫は利益を削って除去処分する、その分、利益が減少するのを見込んでおく。(6)「帳簿には計上されているが、現物がない」といったずさんな管理をしない。これらの中で、私が斬新だと思ったものは、「(5)不良在庫は利益を削って除去処分する、その分、利益が減少するのを見込んでおく」です。

すなわち、近藤さんは、不良在庫の発生は避けることができない、そこで、それを処分するだけの利益を得るようにしなければならないと考えていることです。そして、そうすることで、在庫は常に売れるものだけにしておこうと考えておられるようです。そのために、「(1)定期的に棚卸をして、在庫状況を正確に把握しておく」必要があるということなのでしょう。

私は、これまで会計的な観点からしか、実地棚卸を理解していなかったため、実地棚卸は、在庫量を確定させ、正確な決算を行うことが主な目的だと考えていました。もちろん、その結果を経営者の意思決定の材料にすることはあり得るとは考えていましたが、近藤さんの場合は、意思決定を主たる目的にしているようです。在庫は、事業活動の結果ではなく、経営者の意志を反映するものということを、近藤さんのご指摘で理解できました。

2022/1/8 No.1851

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無借金経営と実質無借金経営

[要旨]

無借金経営は、融資をまったく受けていない会社で、一方、実質無借金経営は、融資を受けているものの、その額を上回る金融資産を持っている会社です。そして、リスクに備える観点からは、無借金にこだわらず、銀行との関係を深めるためにも、銀行から融資を受ける実績をつくり、実質無借金としておくことが賢明です。


[本文]

私は、ときどき、無借金経営と、実質無借金経営の違いについて訊かれることがあるのですが、これについては、日本レーザーの社長の近藤宣之さんが、ご著書、「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」の中でご説明されておられます。「日本レーザーは『無借金経営』です。厳密に言えば、『実質無借金経営』です。現在、自己資本比率は55%で、現預金と金融資産は合計12億円あります。有利子負債(会社の負債のうち、利子をつけて返済しなければならない負債)は4億円ですので、3倍の自己資金を持っています」有利子負債とは、ほぼ、銀行からの融資と言えますが、融資を受けていれば、無借金とは言えません。

でも、日本レーザーは、融資額の3倍の金融資産があるわけですから、資金繰に困っているわけではなく、返済しようと思えば、直ちに融資全額を返済できる状況にあります。したがって、日本レーザーは、銀行から融資を受けているということに着眼すれば、無借金経営ではありませんが、それをすぐに全額返済できる状態にあるということに着眼すれば、実質的に無借金の状態にあるといええます。これに対し、不要な融資を受けることは、銀行への支払利息が無駄になるのではないかという疑問を持つ方もいるでしょう。これに対する回答についても、近藤さんがご著書の中で述べておられます。

「潤沢な手元資金があるのに、どうして有利子負債がある(融資を受けている)のかといえば、『万が一のリスクに備えるため』です。銀行からの融資を一切受けないのは、長い目で見たとき、よい作戦とはいえません。なぜなら、『お金を借りて、きちんと返済した』実績を積み上げておかないと、『借りたいときに、借りられない』ことがあるからです」さらに、私は、近藤さんのご説明した理由のほかに、手許流動性(金融資産)を厚くしておくことも、リスクへの備えになると考えています。

例えば、2年前から起きたコロナ禍では、多くの会社が打撃を受けましたが、そのような会社はにコロナ対応融資を受けることができたとはいえ、もともと、手許流動性が厚い会社の方が、迅速、かつ、果敢に難局に挑むことができました。このように、リスクに備えるという観点からは、無借金にこだわり過ぎることは、近藤さんと同様に、私も、あまり賢明ではないと考えています。そして、近藤さんは、「無借金経営を自慢する経営者もいますが、むしろ、『無借金経営は、恥ずかしいこと』だと考えています。なぜなら、『将来のリスクに備えていない』からです」と述べておられます。

2022/1/7 No.1850

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ガードレールがあるから安心できる

[要旨]

心理的安全性のない職場は、定着率が低くなったり、従業員の士気が下がったりするので、業績も高くなりません。そこで、心理的安全性を高めるための経営者の行動が大切になります。ただ、それは、自分についてこいという伝統的なリーダーシップではなく、説得型、説明型の、新しい方法でのリーダーシップに移りつつあります。


[本文]

経営学者の斉藤徹さんの東洋経済オンラインへの寄稿を読みました。斉藤さんの記事によれば、転職支援サービス会社が行った、入社後1か月以内に転職した経験を持つ383人を対象にした調査では、「入社後すぐに転職した理由」の1位が、「人間関係への不満」だったそうです。具体的には、「社員同士がギスギスしていた」、「上司が体育会系のノリで合わなかった」、「経営者の態度が傲慢だった」などだそうです。

私の世代では、このような環境は当たり前と感じるのですが、だからといって、肯定できる状況ではありません。むしろ、このような職場は、従業員の定着率を下げてしまうだけでなく、残っている従業員の方の士気も下げ、そのことは業績を下げることにもなるので、改善すべきであることは間違いありません。でも、このような職場環境の会社が減らないのはなぜなのでしょう?その理由のひとつとして、斉藤さんは、「責任感の罠」を挙げています。これは、厳しい成果を求められた組織のリーダーは、プレッシャーによって、組織の構成員に対し、厳しき接したり、コントロールを強めたりしてしまい、心理的安全性が崩れ、かえって、成果を落としてしまうということです。

斉藤さんは、これについて、「(リーダーの)キャラクターの問題ではなく、リーダーは組織に貢献しようという思いで、よかれと思って管理的な行動を強めている」と指摘しています。ですから、成果を高めようとするとき、心理的安全性を維持することは欠かせないということは、言及するまでもありません。では、心理的安全性を高めるにはどうすればよいのかというと、斉藤さんは、経営学者のエドモンソンが提唱した、「心理的安全性を高める7つの行動」を紹介しています。

そのうちのひとつに、「境界(規範)を設け、その意味を伝える」というものがあり、私は、これが最も大切だと考えています。これについて、エドモンソンは、「規範は、橋に設置されたガードレールのようなものだ。ガードレールがなければ、車はセンターラインの近くに寄せて走るだろう。ガードレールが設置されていることで、追い越し車線を走れるのだ。心理的安全性を担保するための規範は大切で、それを考え、意味とともに伝えるのはリーダーの大切な役目である」と説明しているそうです。

この説明も、やや抽象的なので分かりにくい面も残っていると思いますが、現在は、リーダーだからといって、「自分についてこい」という、文字通りのリーダーであるよりも、エドモンソンの説明にあるように、「心理的安全性を担保するための規範を考え、意味とともに伝える」という、説得型のリーダーシップが求められているということです。リーダーシップとはどうあるべきかという課題は、なかなかつかみどころが明確でないという面では難易度が高い課題ですが、冒頭で述べた通り、定着率を高めたり、従業員の方の士気を高めたりするには、現在は、それへの取組は欠かせないものとなっいることは間違いありません。決して一朝一夕には解決できるものではありませんが、だからこそ、直ちに取り組むことが大切であると、私は考えています。

2022/1/6 No.1849

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