鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

商品のコモディティ化

[要旨]

自社の商品(サービス)に個性がなければ、それはコモディティ化した商品であり、ライバルとの競争に容易に敗れてしまいます。したがって、経営者の方は、自分のキャリアがある、または、商品が優れているという理由だけで事業に参入せず、コモディティ化しない商品を開発しなければなりません。


[本文]

経営コンサルタントで投資家の、瀧本哲史さんのご著書、「僕は君たちに武器を配りたい」を読みましたが、いくつかの気づきがありましたので、今回から、数回に分けてそれをご紹介していきたいと思います。今回は、商品のコモディティ化についてです。「コモディティとは、英語で、石鹸やブラシなどの、『日用品』を指すときによく使われる言葉だが、経済学や投資の世界では、ちょっと違う意味で使われる。市場に出回っている商品が、個性を失ってしまい、消費者にとってみれば、どのメーカーのどの商品を買っても大差がない状態を、『コモディティ化』と呼ぶ。

経済学の定義によれば、コモディティとは、『スペックが明確に定義できるもの』のことを指す。材質、重さ、大きさ、数量など、数値や言葉ではっきりと定義できるものは、すべてコモディティだ。つまり、『個性のないものはすべてコモディティ』なのである。どんなに優れた商品でも、スペックが明確に定義できて、同じ商品を売る複数の供給者がいれば、それはコモディティになる」

この瀧本さんのご指摘は、容易に理解することができ、また、賛同される方がほとんどだと思いますが、今回、あえて、これを引き合いに出したのは、これを実際に意識している経営者の方は、意外と少ないと感じたからです。瀧本さんも、学生が起業するとき、家庭教師のアルバイト経験があるからという理由で家庭教師の派遣会社をつくったり、プログラミングができるからという理由でシステム開発会社をつくったりする例があるが、いずれも商品(サービス)がコモディティ化しているので、失敗してしまうと指摘しています。

私も、自分のキャリアがあるというだけの理由で、自分のキャリアと同じ事業で起業して失敗してしまった経営者を何人も見て来ました。恐らく、そのような人たちは、単に、事業の経験があるというだけで競争に勝てると考えてしまい、自社の商品がコモディティ化しているかどうかということまで考えが及ばなかったのだと思います。

ここであえて述べたいのですが、事業を成功させるには、事業が何かということよりも、どうやって事業をブラシュアップさせるかという視点が欠かせないのですが、それを欠いている経営者の方は少なくないということです。そうなってしまう経営者の方は、マネジメントより、ビジネスに目が向いてしまっていることが原因と考えられますが、そうならないためにも、マネジメントに軸足を置くことが望ましいと言えます。

もうひとつ付け加えると、自社商品は優れているから競争力があると考える経営者の方も少なくありません。しかし、現在は、優れている商品であってもコモディティ化している場合が多いということに注意が必要です。したがって、優れた商品を製造・販売することはあたり前で、それだけでは競争力は高くはなってはいないということにも留意しなければなりません。では、自社の商品がコモディティ化しなようにするにはどうすればよいかということですが、それは、次回、ご説明したいと思います。

2021/10/11 No.1762

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責任の分散を防ぐには

[要旨]

人は、自分の責任を回避しようという習性があるので、意思決定を会議で行おうとします。その結果、当事者意識が下がることにつながるので、権限委譲やプロセス評価などの対策が必要です。


[本文]


心理学博士の榎本博明さんのダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。要旨は、「自分の責任を回避させようとする人は、会議で意思決定しようとする。その結果、おかしなことが会議で決まったり、メンバーの当事者意識が薄れ、目的が達成できなくなるという弊害が起きやすくなる」というものです。このようなことは、残念ながら、珍しくないので、多くの方が問題だと感じていることでしょう。

では、どうすればよいのかというと、榎本さんは、「現場に一定の決定権を与えることによって、本気度が高まる」とご指摘されておられます。このように、会議だけでなんでも決めるという慣習を減らし、現場に権限委譲するという方法も解決策のひとつだと思います。私は、さらに、一歩進んだ方法として、プロセスを重視することだと思います。というのは、会議で責任を回避できたとしても、活動していなければ評価されないということになれば、メンバーの能動的な活動を促すことになるでしょう。

また、活動していることが評価されれば、何でも会議で決めて責任を回避しようという行動も減少するでしょう。この、責任回避行動を防ぐための対策はひとつだけではないと思いますが、少なくとも、経営者の方は、部下のお手本となる行動をしなければならないということは確かだと思います。

2021/10/10 No.1761

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社長以外の取締役は社外取締役

[要旨]

6月にコーポレートガバナンスコードが改訂され、東証プライム市場に上場する会社は、3分の1以上の取締役を独立社外取締役にしなければなりません。その結果、社長以外の取締役がすべて社外取締役という会社も現れましたが、そのような体制は、健全性も高くなると考えれます。


[本文]

日経ビジネス2021年10月4日号に、6月に改訂された、コーポレートガバナンスコード(企業統治指針)に関する記事がありました。それによれば、「プライム上場の支配株主のいない会社には、独立社外取締役を取締役の3分の1以上に、支配株主がいる会社には、半数以上にすることを求めている」そうです。

ちなみに、「独立社外取締役とは、グループ企業や主要な取引先の役職員ではないなど、独立性のある社外取締役」のことであり、「支配株主とは、オーナーなど50%以上の議決権を持つ株主」のことです。ところが、上場会社としては、独立社外取締役になってもらえる人が少なく、この改訂されたコーポレートガバナンスコードを守ることは、なかなか難しいようです。

その結果、社内取締役の数を減らすことによって、社外取締役の比率を高めるという対策を行っている会社が多いようです。そのため、前述の日経ビジネスの記事によれば、「今年7月初めの東証上場会社3,681社のうち、83.5%の会社は、取締役数が10人以下」になっているそうです。中でも、極端な会社は、FOOD&LIFECOMPANIES(旧あきんどスシロー)で、社長以外の8人の取締役は、全員、社外取締役だそうです。

一般的な会社では、社長と取締役の関係は、社外取締役を除き、社長とその部下という関係ですが、F&LC社では、社長が他の取締役全員からチェックを受けるという関係になっています。ただ、法律上は、取締役は会社(=株主)からの委任を受けて、意思決定や業務執行を行う役割であるということを考えれば、F&LC社のような取締役会が、本来のあり方だと、私は考えています。

日本では、これまでは、取締役は、論功行賞で得るポストであり、社長はサラリーマンのゴールと考えられる傾向にありましたが、その結果、役員たちは株主の意思をあまり汲み取らず、社長のご機嫌伺いばかりに終始し、社長が裸の王様になってしまうという例が多発していました。そのようなことから見れば、私は、F&LC社の体制は、健全なあり方であると考えています。

2021/10/9 No.1760

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490円のカップ麺の自社開発

[要旨]

ラーメン店の一蘭は、自社でカップ麺を開発し、490円という高額で販売しているにもかかわらず、品切れが続くという高評価を得ています。このような事業展開ができるのは、一蘭の事業のマネジメント力が備わっているからと考えられます。


[本文]

カップ麺評論家の大石敬之さんの、マネー現代への寄稿を読みました。記事によれば、人気ラーメン店の一蘭のラーメンのカップ麺は、異例なものだということです。ひとつは、一蘭カップ麺は、製麺会社が開発したのではなく、一蘭自身が開発し、製麺会社に製造を委託しているということです。もうひとつは、490円という高価格で販売していることです。

このような一蘭の事業展開が正解かどうかということは議論の対象にはなると思いますが、いまのところ、カップ麺は売切れ気味ということで、ビジネスとしては成功していると思います。そして、一蘭がこのような事業展開ができるのは、会社としての一蘭が、単なる飲食店ではなく、きちんと、事業を拡大しようとする方針のもと、事業をマネジメントしているからだと思います。

日本には、たくさんのラーメン有名店があり、その銘柄のカップ麺もたくさんありますが、一蘭だけは異なるようです。もちろん、一蘭のような事業展開だけが正しいわけではないのですが、一蘭カップ麺開発を見ると、同社のマネジメント力を感じます。

2021/10/8 No.1759

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銀行は経営者保証なしの融資が原則に

[要旨]

経営者保証については、多くの銀行は、可能な限り、経営者保証なしの取引を望んでいるようです。したがって、業績があまりよくない会社でも、銀行と、頻繁なコミュニケーションをとることで、経営者保証なしで融資を受けることが可能になると思われます。


[本文]

先日、金融庁が、「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る組織的な取組み事例集」の改訂版を公表しました。この事例集は、「『経営者保証に関するガイドライン』の活用が、今後、更に促進され、融資慣行として一層の浸透・定着していくために、金融機関において各種取組みを検討する上での参考となるよう公表するもの」ということです。

まず、事例1(地域銀行)では、「経営者保証による債権の回収額は僅かであり、経営者保証が無くても銀行の経営面への影響はないことを踏まえて、保証徴求の判断や回収に要する時間を、顧客とのリレーション構築に使いたいとの経営トップの考えの下、原則、経営者保証を徴求しない取組みを実施」とあります。

事例2(地域銀行)でも、「取引先の多くが中小・零細企業であるため、ガイドラインの要件を満たさない場合が多く、ガイドラインをそのまま適用するとほとんどの取引先に経営者保証を求めることになる。また、経営者保証を求めても、ほとんどの場合で保証人からの回収を行うことができないため、債権保全としての機能はあまり果たされていない。このことから、できる限り経営者保証を求めない方針で取り組んでいる。

具体的には、取引先とのコミュニケーションを通じて実態把握が十分に行なわれている場合であれば、信用格付の低い先であっても経営者保証を求めないこととしている」という取組みが紹介されています。これらの取組は、すべての銀行が行っているわけではありませんが、少なくとも、紹介されている事例に取組んでいる銀行は、経営者保証は、規律付けが目的であり、実際には、経営者の財産で融資を回収することは、ほとんどないと考えていることがわかります。

また、私は、このように考える銀行は、決して少数派ではないと思います。したがって、銀行は、できるだけ経営者保証なしの融資取引を望んでいるわけですから、経営者保証なしの取引を望んでいる経営者の方も、綿密なコミュニケーションを行うことで、それに応じてもらえる可能性が高まると、私は考えています。さらに、事例集で紹介されている他の事例を読んでいただき、円滑な折衝に活用していただきたいと思います。

2021/10/7 No.1758

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言ったもん負けの文化

[要旨]

三菱電機の不正品質検査事件が起きた要因のひとつは、問題点に積極的に対処しようという経営者層の関与が欠如していたということがあげられます。事業活動が適切に行われるようにするには、単に、指示を出すだけではなく、積極的なマネジメントが欠かせません。


[本文]

日本経済新聞が、不正品質検査事件を起こした三菱電機の調査報告書に関して報道していました。記事には、調査報告書から、次のような言葉が抜き出されていました。「長崎製作所には、『言ったもん負け』の文化のようなものがある」「いままで、これでやってきたんで、このとおりやりなさい」「通報がとりあげられても、結局は、問題の是正を行うのは工場の現場」「ヘタに突っ込むと、生産が成り立たなくなるかもしれないため、換算の具体的な内容は確認しなかった」

私は三菱電機については詳細な状況を把握していないのですが、記事だけを読んで私が感じたことは、同社には「経営」が欠如しているのではないかということでした。というのは、「(もし、改善を提案した場合)言い出した者が取りまとめ役をさせられるにもかかわらず、業務量の調整をしてもらえないので、単純に仕事が増える」、「仮に不正を認識していても、内部通報制度は使わなかったと思う、匿名と言いながら、会社は通報者をあぶり出すのではないかとの懸念がある」といった従業員の言葉があったからです。

これらから読み取れることは、経営者はよい報告しかきこうとせず、悪い報告は、暗に、拒んでいたと想像できます。同社の不正品質検査が起きた要因は、これだけが原因ではないと思いますが、経営者の積極的な関与がなかったことが、そのうちの大きな部分を占めていることは事実だと思います。今回の事件は、事業活動は、単に、製品を製造してだけいればよいということではなく、適切なマネジメントが欠かせないということがわかる事例になっていると思います。

2021/10/6 No.1757

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まずやってみて体験を積む

[要旨]

作家で僧侶の草薙龍瞬さんは、失敗するかもしれないという不安は妄想であり、まず、行動すれば、徐々に、自信がつくと説いています。行動することそのものがなかなかできないこともありますが、自信をつけるための方法は、極めてシンプルであり、難しいことではありません。


[本文]

前回、組織のリーダーは、心理学者のアドラーの言う「勇気」を持ち、「自分が相手に貢献できていることそのものに満足を感じる」ことができるようになることが望ましいと述べました。では、それができるようになるにはどうすればよいかということですが、私は、作家で僧侶の草薙龍瞬さんの東洋経済オンラインへの寄稿が参考になると考えています。

「まず、やってみて、体験を積む。つぎに、ある程度の成果を出せるようになり、周囲が認めてくれるようになる。そのとき、『本当にうまく行くのだろうか』という不安でてきたら、それはまさに妄想。ほんとはその妄想に反応しないで、ただ、『やってみる』の連続だけでいい。そうすると、『こう動けば、ある程度の成果が出せる』という“見通し”がつくようになる。この“見通し”こそが『自信』です。

こうしてみると、本当の自信は、『できる』という判断・妄想ではなく、『やってみる』ことの、その先に来るものだとわかります」この草薙さんのご指摘は、極めて当然なのですが、少し厳しい書き方をすると、「自信がない」と口にする人は、それを口にすることで、自分が行動しないことを正当化しているのだという指摘でもあると、私は考えています。

そういいつつ、私自身も、たびたび、行動しないことがあります。ただ、裏を返せば、行動すれば自信がつきます。そう考えれば、希望がわいてきます。今回の記事の内容は、草薙さんの記事を引用したこともあって、禅問答のようになってしまいましたが、自分で自分にブレーキをかけていては自信がつかないことは当然であって、逆に、ブレーキを外しさえすれば、行動し、それが自信になるという、極めてシンプルなことが答えなのだと思います。

2021/10/5 No.1756

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