鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リースは融資枠を温存するのか?

[要旨]

リースを利用することで、銀行から見た、その会社への融資可能額を温存するという効果があります。しかし、リース会社の金融サービスは、設備導入面に限定されるので、事業を安定的に発展させるためには、銀行との関係も良好にしておくことが大切です。


[本文]

リースを利用することのメリットのひとつとして、よく、「融資枠を温存する」ということが挙げられます。この「融資枠」ということばが何を指すのかということは、あまり定まったものはありませんが、銀行が、自己査定の際に決めている、各融資相手に対する取引方針で、各融資相手に行う融資額の上限額という意味であるとすれば、「リースを利用することで、融資枠を温存する」という効果はあると思います。

だからといって、リースユーザーが、リース会社とたくさんのリース契約を結んだとしても、「融資枠」はまったく影響を受けないかというと、必ずしも、そうではありません。リース契約を増やしたことによって、リース料の支払い総額が増えれば、利益額が減少する要因になりますし、未経過リース料が増加すれば、銀行は、融資方針を変更する可能性があります

しかし、ある会社が、銀行から融資を受けて設備を導入したあと、その銀行から運転資金としての融資を受ける場合、その会社がリースによって設備を導入していたときよりも、銀行は、追加の融資に、少し、慎重になるということは事実だと思います。そのような面から見れば、リースを利用できる設備はリースを利用して調達しておくという対策は、銀行からの融資を円滑に受けるために効果があるといえます。

とはいえ、リース会社は金融サービスを提供する会社のひとつですが、リース取引は設備導入面での支援に限定されます。当然のことですが、会社の事業がピンチになったとき、その会社の支援に関しては、幅広い金融サービスを提供できる銀行が主導権を握ることになるでしょう。したがって、リースをたくさん利用すると同時に、普段から、銀行と関係も良好に維持しておくことが、自社の事業を発展させるためには大切であるということは、いうまでもありません。

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賃貸借契約としてのリースのメリット

[要旨]

リースは、リース物件の全額をリース会社が負担すること、リース物件が実質的な動産担保になっていること、リース契約時にリースに関する費用が確定すること、リース期間を通してリース料が一定額であることなどのメリットがありますが、これは、リース契約が、賃貸借契約であることによるものです。


[本文]

前回まで、リースは実質的には融資と同じと述べてきましたが、とはいえ、リースと融資はまったく同じということでもありません。その、リースが融資と異なる点は、リース契約が法律上は賃貸借契約というところから現れています。具体的には、リース物件の所有者は、実質的にはユーザーですが、法律上はリース会社なので、リース物件の購入代金は、いったん、リース会社が全額を支払います。これは、ユーザーにとっては、設備導入時の資金負担が少なくてすむので、リースのメリットと言えます。

さらに、リース物件をユーザーが使用している間も、前述のように、契約上は、リース物件の所有権はリース会社にあるので、リース会社から見れば、リース物件は実質的な動産担保となっています。一方、銀行は、設備などの動産を購入するときの融資に、その融資対象物件を担保とする例は、かなり少数です。動産を担保とすることは、銀行にとって、その手続きが煩雑であるだけでなく、銀行は、動産の担保としての価値を、あまり、高く評価しないからです。

したがって、銀行が設備導入のための融資行うときは、無担保の融資として契約するか、もしくは、別途、不動産の担保を提供を受け、融資を行うことになります。この面からみれば、リース取引では、リース会社は、リース物件を事実上の担保としてリース契約の可否を判断するわけですので、ユーザーにとってリース契約はメリットがあると言えます。

また、賃貸借契約であるリース契約に基づいて、ユーザーがリース会社に支払うリース料は賃借料になるなので、リース期間を通して一定額である点も、ユーザーにとってのメリットと言えます。なぜなら、リース契約の時点で、ユーザーは、リースに関する費用を確定することができるからです。また、1か月間や、6か月間といった、一定の期間の設備に関する費用の把握が容易になり、原価管理を行いやすくなります。

一方で、融資を受けて設備を導入した場合の動産に関する費用である減価償却費は、一般的に定率法で計算するので、初めのころは多く、徐々に減少して行きます。そのため、一定期間の設備に関する費用の把握が複雑になります。繰り返しになりますが、これらのリースのメリットは、リース契約が賃貸借契約であるということによるものです。

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リースの中途解約不可は不利な条件か?

[要旨]

リースには、中途解約不可という条件があり、一見、ユーザーには不利な条件と思われますが、融資を利用して設備を購入するときと同じ条件となります。むしろ、中途解約不可とすることで、リースが融資と同様の機能を果たしていると言えます。


[本文]

リース(ここでは、一般的なリース取引である、ファイナンスリースを前提に説明します)は、中途解約不可という条件があります。この、中途解約不可という条件は、一見すると、ユーザーにとっては不利な条件に思えるかもしれません。しかし、中途解約不可という条件は、むしろ、リースの特徴であり、中途解約不可だからこそ、リースのメリットを得られるということも言えます。

では、なぜ、そうなのかというと、融資を受けて機械の調達を行ったときのことを考えてみてください。融資を受けて購入した機械を、使い始めてみてから気に入らなかったという理由で、返品したり、融資の返済を停止することができるのかというと、それは不可能でしょう。(機械を転売し、その売却代金で、融資の一部を返済することはできますが、それは機械の売買契約を取消することではありません)

したがって、リースが中途解約不可という条件は、融資を受けて機械を購入するときと、条件面では同じであり、融資と比較して、不利であるとは言えないようです。前回、リースは融資のひとつの類型と言えると述べましたが、むしろ、リースに中途解約不可の条件があるからこそ、融資と同様の機能を発揮できていると、私は考えています。

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リースと融資の違い

[要旨]

リース契約は、法律上は賃貸借契約ですが、会計上は、融資を受けて設備を購入したときと同様に取引を記録します。なぜなら、リース契約は、実態としては、融資としての性格が強いことによるものです。


[本文]

リースについて、よく、質問を受けることのひとつは、リースと融資の違いはなにかということです。これを説明するにあたり、まず、リース契約の法律上面と、会計面での違いから説明します。リース契約は、日本の法律では、賃貸借契約となっています。一方で、リース会計基準では、ファイナンスリースを契約したときは、リース物件を購入したものとして扱い、リース物件の価額を資産に、それと同額を負債に計上します。

すなわち、リースは、実質的に融資を受けて、設備を購入したものと同様の会計処理を行います。これについて、もう少し説明を加えると、ファイナンスリースでは、リース会社が、リース物件を購入したり、その他のサービスを提供するためのに要する費用が、すべて、ユーザーに対し、リース料として転嫁されます。

これを言い換えれば、リース物件は、リース契約をしたユーザーだけのために、リース会社が購入するということです。さらに、一般的な賃貸借契約では、賃借物の修理などは、所有者である賃貸人が行うものですが、ファイナンスリースでは、リース物件の修理はユーザーが行うか、または、ユーザーが費用を負担して、専門的な業者に修理を行ってもらいます。

すなわち、前述したように、ファイナンスリースは、実態としては、融資を受けて設備を購入した場合と、ほぼ、同じこ便益を受けることになります。このような事情から、リース会計基準では、ファイナンスリースは、前述のような会計処理をしていると言えます。そこで、ビジネスの観点からは、リースは融資のひとつの類型と考えてよいと、私は考えています。

ちなみに、「中小企業の会計に関する指針」や、「中小企業の会計に関する基本要領」では、リース会計基準とは異なり、リースを利用して設備を導入した場合でも、リース物件の価額相当額を資産に計上しなくてもよいことになっています。しかし、「指針」、「要領」とも、未経過リース料を、貸借対照表の注記事項として記載することになっており、銀行などが財務分析を行うときは、その金額が資産に計上されているものとして分析を行うことが多いと考えられます。

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リース会社はどこにある?

[要旨]

日本は、リースの利用がなかなか増えない要因として考えられるものに、リース会社が少ないということが考えられます。そこで、設備を導入したいという会社は、導入する設備のメーカーや取引銀行に、リース会社の紹介を依頼すると、それに応じてもらうことができるでしょう。


[本文]

前回、設備の導入にはリースを利用する方がよいということを述べました。ところが、リースを利用する例がなかなか増えない要因のひとつは、リース会社と、それを利用したい会社の接点が少ないからだと思います。日本のリース取引が活発ではないとは思いませんが、金融機関の数と比較して、リース会社は圧倒的に少ないので、融資を申し込む感覚と同じように、リースの申し込みをしようというように感じる、中小企業経営者の方が少ないことは、当然なのかもしれません。

では、実際に、リースを利用しようとする場合には、どうすればよいのかというと、最も簡単な方法は、導入したい設備を販売している会社に問い合わせるとよいと思います。例えば、建設機械メーカーのコマツでは、リース事業を営む子会社のコマツビジネスサポートを紹介してもらえるでしょう。自動車メーカーのトヨタでは、地域の販売店がリース事業を営んでいるようです。

では、リース事業を営んでいる会社が傘下にないメーカーの機械などを導入する場合はどうすればよいかというと、オリックスのような、メーカーから、日本でのリース事業の草分け的な会社であるオリックスを始め、その他の大手リース会社を紹介してもらえる可能性があります。それでもリース会社が見つからない場合は、取引銀行に紹介してもらうことも可能です。多くの銀行は、リース事業を営む関連会社があります。

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リース料は高くてもそれ以上のメリット

[要旨]

リースで設備を調達したとき、融資を受けたときと比較して、費用は多くなりますが、リースはユーザーの事務負担を軽減するというメリットもあり、それらを勘案すると、リースを利用することが望ましいと考えることができます。


[本文]

私は、「図解でわかるリースの実務いちばん最初に読む本」を出版していることもあり、ときどき、リースに関するお問い合わせを受けます。そのお問い合わせで最も多いものが、調達したい機械や設備があるとき、融資とリースのどちらを利用すればよいかというものです。それに対する私の回答は、ほぼ、「リースを利用しましょう」というものです。一部、リースに向かない設備もありますが、そうでなければリースを利用した方がよいと、私は考えています。ただし、リースのデメリットとして、融資を受けたときと比較して、費用が多いというものがあります。

すなわち、融資を受けたときの費用である融資利息と減価償却費の合計額は、リース料総額よりも少ないことが一般的です。それでも、私が、リースを利用することをお薦めする理由は、融資を利用したときと比較してリース料が多いとしても、リースには、それ以上のメリットがあると考えているからです。そのメリットのひとつは、リースを利用した場合は、設備の調達に要する費用の全額をリース会社が負担してくれることです。融資の場合は、一般的には、設備の価額の70~80%程度までしか、融資を受けることができません。

ふたつめのメリットは、リースのユーザーは、事務負担が少ないということです。具体的には、ユーザーは、毎月、一定額のリース料を支払うだけで、減価償却費の計算、固定資産税の納付、動産保険の付保の手続き、リース期間終了後の廃棄などは、ユーザーが行う必要はなく、リース会社が行ってくれます。(ただし、リース会計基準を適用する会社は、リースで設備を調達したときに、リース物件の取得価額相当額を、リース資産として固定資産に計上し、それを減価償却することになりますが、それは定額法によって計算するため、自社で所有する設備を定率法で計算する場合と比較して、容易なものと言えます)

このようなリースのメリットは、実際に、多くの会社に評価されており、特に、最近の自動車に関するリース利用額の増加は顕著です。事業に利用する自動車は、数年経てば入れ替えしなければならなくなり、その際の、廃車手続きや、新車の登録手続きなどは、リースを利用していれば、リース会社が行ってくれます。また、自動車保険の契約手続き、自動車税の納付などもリース会社が行うので、ユーザーは自動車を利用するだけとなります。ということで、今、新たな設備の導入を検討している方は、リースの利用を検討してみることをお薦めします。

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DX活用の鍵はDXを使うことではない

[要旨]

DXの活用というと、情報技術をうまく活用することが注目されがちですが、それだけでは十分とはいえません。DXによって新しいビジネスを見つけることで、競争力の高い事業を営むことができるようになります。


[本文]

先日、中小企業診断士の神谷俊彦先生へのインタビューを収録した、ポッドキャスト番組を配信しました。神谷先生には、神谷先生の新刊、「図解でわかるDXいちばん最初に読む本」に基づいて、DXについてお伺いしています。そして、そのお話の中で、「肝」と感じた部分は、DXを活用するには、新しいビジネスを作るということです。

これは、情報技術の活用するとき、従来のビジネスの効率化に目が行きがちですが、それはそれで効果があるものの、十分な活用とは言えないということです。例えば、UberやAirbnbは、新しいビジネスを生み出しています。すなわち、情報技術によって、いままでできなかったことを実現することが、本当のDXの活用になるということです。

ところが、この、新しいビジネスを見つけるということは、コロンブスのたまご的な活動で、思うほど容易ではないということです。だからこそ、新しいビジネスは、それだけの価値があるということです。そこで、DXに注目している方は、情報技術の使いこなし方だけでなく、さらに、それを一歩超えた部分の、新しいビジネスを見つけるという独創性に着目していただければと思います。

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