鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

DDSと劣後ローン

前回に引き続き、劣後ローンについて質問がありましたので、それに答えたいと思います。その質問は、DDSのときに契約する劣後ローンと、永久劣後ローンはどう違うのかというものです。その回答の前に、DDSについて、少し説明したいと思います。DDSは、Debt Debt Swapの略語で、一般の債務(Debt)を、劣後ローン(Debt)に切り替える(Swap)することです。DDSに似た言葉に、DES(Debt Equity Swap)というものがあります。
 
DESは、銀行が、融資相手の会社に融資(Debt)を返済してもらうかわりに、その金額分の株式(Equity)を発行させ、それを取得する(Swap)ことです。これは、債務と株式の交換とも言われています。そして、DDSもDESも、債務を過剰にかかえる会社の資金繰改善のために、事業再生の一環として銀行が行う支援策であるという点では共通しています。

では、DDSのときに契約する劣後ローンと、永久劣後ローンの違いは何かというと、まだ、永久劣後ローンの詳細が明確になっていないので、これも明確に答えられないのですが、劣後ローンそのものの契約内容については、ほぼ、同じであると思います。ただ、永久劣後ローンは、新たな契約を結び、融資額を増加させるものですが、DDSの劣後ローンは、既存の一般の融資契約の条件変更を行い、劣後ローン化するところが異なります。すなわち、DDSの劣後ローンは、それによって融資額が増えるのではなく、既存の融資が、そのまま劣後ローンに変わるというものです。

ただ、私は例を見たことがないのですが、DDSにおいても、新規の劣後ローンの契約が行われることがあるようですが、その際に、融資総額を増やすことは考えにくいので、その場合であっても、契約は新たなものとなったとしても、既存の融資の借換を行い、実質的には、条件変更を行ったこと同じことになると思われます。そして、こちらはイメージの問題ですが、DDSは事業再生の過程で行われるものですので、その際に契約する劣後ローンについては、それを利用するような状況になることは、できれば避けたいところです。しかし、永久劣後ローンは、事業を発展させるために、積極的に活用するものであると、私は考えています。
 

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劣後ローンを利用する利点

前回、永久劣後ローンについて説明しましたが、「劣後ローンを利用すると、どういう利点があるのか」というご質問がありましたので、今回は、それに回答したいと思います。まず、劣後ローンの融資としての側面は、前回説明した通り、融資を受けた後は、毎月の定例返済はせず、利息のみを支払えばよいので、一般の融資よりも会社の資金繰を安定させることができます。これについては理解される方も多いと思いますが、なぜ、会社の利益が増えたとき、劣後ローンの利率が高くなるのかという点について、ピンと来ない方もいると思います。

これについても、前回も説明しましたが、劣後ローンには、会社が倒産したときなどに、劣後ローン以外の債務の返済が終わった後に、その残りの財産で劣後ローンの返済を行うという特約がついているため、他の融資よりも返済されない可能性が高い融資になっています。その分、一般の融資よりも高い利率とする必要があります。(劣後ローンは、融資を受けている会社の利益が少ないときは、利率が低くなるか、無利息となりますが、融資を受けている期間のトータルで支払われる金利は、一般の融資よりも多くなるという前提で契約が行われます)

ここで、「必要がある」と書いたのは、融資をする銀行が高いリスクを負う以上、それに見合った利率を得ることができなければ、正常な取引とみなされないということです。これを言い換えると、劣後ローンのリスクの高さに見合う利率を設定しなければ、その会社は特別な支援を要する状態、すなわち、業績の悪い会社であるということになり、その会社への融資は、いわゆる不良債権と判断しなければならないことになります。

したがって、劣後ローンの利率の高さは、リスクの高さの裏返しでもあるということです。では、これは前回説明しなかったことなのですが、前述の、劣後特約を付けることの利点はどういうことかというと、劣後ローンの金額は、銀行の融資審査では、純資産(自己資本)とみなしてもらえるということです。すなわち、劣後ローンは、形式的には融資なので、貸借対照表では「固定負債」に計上されますが、融資審査では、劣後ローンの金額を「純資産」に加えられます。

例えば、総資産10億円の会社の純資産が2億円であったとき、自己資本比率は20%です。しかし、その会社が劣後ローン5千万円を受けているとすると、融資審査上の自己資本比率は、純資産の2億円に劣後ローンの5千万円を加えた金額で計算されるので、25%となります。ここで、「融資審査上の自己資本比率」と書いたのは、一般的には、劣後ローンを利用しているかどうかは、その会社自身、及び、その劣後ローン契約をしている銀行だけにしか分からないからです。

したがって、前述の会社に対しては、劣後ローンを契約している銀行以外の銀行は、その会社の自己資本比率を20%と計算します。ただし、劣後ローンを利用している会社が、劣後ローン契約をしている銀行以外の銀行に、自社が劣後ローンを利用していることを伝えたり、決算書の注記に劣後ローンの利用額を載せることで、その銀行からも、劣後ローンの金額を自己資本とみなしてもらえることもあります。

話を戻して、繰り返しになりますが、劣後ローンの金額は、銀行の融資審査上、純資産とみなされ、自己資本比率が高くなるので、それ以外の融資を受けるとき、有利に働きます。ただ、この利点は、なかなか目に見えないものなので、会社経営者の方が劣後ローンを積極的に評価しないのではないかと、私は、やや、悲観的に考えています。

 

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永久劣後ローンは普及しない

最近、中小企業の支援策として、永久劣後ローンの活用を提言する方が何人かおられます。そのうちのひとりは、三井住友信託銀行名誉顧問の高橋温さんで、高橋さんのお考えを日本経済新聞に寄稿しておられます。(ご参考→ https://s.nikkei.com/2L3aoVS )永久劣後ローンは、仕組みとしては日本政策金融公庫の資本性ローン(融資期間は最長15か年)と同じであると思いますが、違いとしては返済期限がないということだと思います。(ご参考→ https://bit.ly/35yQ08d

永久劣後ローンと一般の融資との違いは、毎月の返済がないこと、返済期限がないこと、返済順位が他の融資よりも劣後されることです。(「返済が劣後する」とは、会社が倒産したときなどに、永久劣後ローン以外の債務の返済が終わった後に、その残りの財産で永久劣後ローンの返済が行われるという意味で、他の融資よりも返済されない可能性が高いということでもあります)このような特徴から、永久劣後ローンは株式の発行と似ている資金調達方法ですが、契約はあくまで融資契約なので、融資をする銀行は、株主が持つような議決権を持つことはできません。

しかし、金利は、一般の株式の配当額よりも高い金利を支払うことになると思われます。(ただし、会社が赤字のときは、普通株式も配当が行われないので、永久劣後ローンも金利は払わなくてすみます)このような特徴から、実態は、銀行に優先株式(議決権がない代わりに、普通株式よりも多くの配当をもらえる株式)を引き受けてもらうような方法と言えます。

ただ、私は、この永久劣後ローンは中小企業に浸透しないと考えています。その理由は、多くの中小企業(=オーナー会社)は、株式配当を行っていないからです。もう少し詳しく説明すると、例えば、日本政策金融公庫の資本性ローンでは、融資期間が15年の場合、売上高減価償却前経常利益率が5%以上であれば、融資利率は、6.2%です。永久劣後ローンは、返済期限はないので、もう少し高くなるでしょう。

もし、中小企業でも配当をしていれば、永久劣後ローンの利息を支払うことも当然と受け止められると思いますが、ほとんどがオーナー会社である中小企業は、利益が出ても配当はしないので、6%以上の利息を支払うなら、一般の融資を受ける方がよいと考えると、私は想像します。これは、私が、永久劣後ローンに、欠陥があると考えているということではありません。中小企業にとって、様々な資金調達の方法があることは、望ましいと思います。しかし、毎月の返済がない、返済期限がないという永久劣後ローンのメリットも、利益が出ているときは金利も高いというコストに目が向いてしまい、利用しようと思わないのではないかと思います。

私が、なぜ、そう考えるのかというと、かつて、ミドルリスク・ミドルリターン(ある程度のリスクのある会社に対して、それに応じた金利で融資をすること)の需要に応えようという考え方で、新銀行東京日本振興銀行という銀行が設立されました。しかし、2社とも、実際にはその需要がないことから、事業が行き詰りました。私は、それらの2つの銀行の考え方は的外れではないと思っているのですが、中小企業は、意外と、金利にはシビアであるという実態があります。

これは、理屈ではなく、中小企業の性質なので、理論が正しいかどうかで議論してもあまり意味がありません。私は、この永久劣後ローンに対する私の予想は外れて欲しいと思っているのですが、今後の動向でその結果が分かれば、また、それをご報告したいと思います。

 

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セーフティネット保証と既往融資約定返済

先日、セーフティネット保証に関して、ご質問を受けました。それは、1か年の返済据置期間を付ける条件で、セーフティネット保証のついた融資を受けようと思っているが、その据置期間の間、以前に契約した融資の約定返済(毎月の定例返済)を続けることは問題ないのか、というものです。この質問に対する回答は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた会社が、セーフティネット保証で融資を受ける場合、既往の融資(信用保証の付いている融資と、付いていない融資の両方)の約定返済が、新たな融資の据置期間に行われることは問題ないようです。(最終的には、個別の案件ごとに判断されることがらなので、必ずしも、すべての会社の保証申し込みに対して、そのように認められるとは限りませんので、あらかじめご了承ください)

ただし、ここで、このような質問が行われた背景を、よく、理解できない方もいるかもしれません。それについて、簡単な例で説明すると、例えば、信用保証のついていない長期融資について、毎月、10万円の定例返済を行っている会社があるとします。その会社が、返済据置期間1年の条件を認められた、信用保証付きの1,000万円の新たな融資を受けたとします。そうすると、毎月10万円の定例返済(1年間で120万円)を、新たに受けた融資金であてることになると、考えることもできます。

しかし、その会社の、年間のEBITDAが120万円以上あれば、その会社は新たな融資を受けなくても、既存の融資を返済できる能力を持っていると考えることができるので、新たな融資を審査する上で、問題があることにはなりません。(EBITDAは、その会社の融資の返済原資がどれくらいあるかを示す数値で、中小企業の場合は、EBITDA≒営業利益+減価償却費とお考えください。EBITDAの詳細は、こちらをご覧ください。→ https://bit.ly/2xwVx2L

ところが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた会社は、売上が減少し、利益も減っています。そうなると、EBITDAも十分ではなくなり、前述のような例では、新たな契約による融資金を、既往の融資の約定返済にあてる、すなわち、実質的な借換えを行うことになってしまいます。ただし、今般の、セーフティネット保証などの目的は、中小企業の資金繰の維持であり、前述のように、普段であれば認められないであろう、実質的な借換も認められるようです。

 

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実効性のない規則は無意味

4月29日付けの日本経済新聞に、「雇用調整助成金、申請後押しー社労士の連帯責任解除」という記事がありました。(ご参考→ https://s.nikkei.com/2YpkV5j )記事の主旨は、「休業に追い込まれた外食・サービス業などを営む小規模の会社の多くは、給与台帳などの法定書類を作っていない。そのため、会社の申請書類に偽りなどがあった場合に、連帯責任が課される社会保険労務士は、それらの会社から雇用調整助成金の申請代行の依頼があっても、それに応じることに躊躇し、雇用調整助成金の申請がなかなか進んでいない。そこで、厚生労働省は、申請代行をした社会保険労務士に連帯責任を課す規定を、特例的に解除する方向で検討に入った」というものです。

この、厚生労働省の対応は妥当だと思います。ちなみに、本旨から外れますが、小規模事業者持続化補助金についても、対象の会社が20人以下(宿泊・娯楽業を除く商業・サービス業は5人以下)と小規模であり、かつ、補助金額も、最大50万円(今年創業した会社等は、最大100万円)と、それほどの金額ではないにもかかわらず、申請に比較的多くの労力が必要であり、実効性がないのではないかと思われ、私は、こ補助金についても、申請方法に改善が必要なのではないかと考えています。(ご参考→ https://bit.ly/3bVEshZ

話を戻して、今回、雇用調整助成金について記事にした理由は、労働法制が実態とかみ合っておらず、このような非常事態に、その弊害が大きく現れる結果になったと感じたからです。私は、現在の労働法制の目指すところが、誤っているとは考えていません。しかし、前述のように、実態としては、その法制が十分に浸透しておらず、実効性が高くないことも実態だと思っています。では、この状態については、今後、どのようにすれば解決できるかということは、私も、直ちには、明確にはできません。

ただ、現在の経済の混乱状態が落ち着いた段階で、改めて、その乖離を縮めていく対策の必要性は高いとも考えています。これまでの厚生労働省の対応は、法律の整備は行ってきたものの、結果的に、法律が画餅になってしまっている面があり、私も残念とは思いますが、その面については、厚生労働省の手落ちであると思います。確かに、被雇用者側も十分に守られる必要がある訳ですが、労働法規が壁になってしまうと、逆に、経済活動の足かせにもなりかねません。

ちなみに、韓国では、若年者層の雇用環境を改善しようと、最低賃金を29%引き上げたものの、そのことがかえって会社側の雇用を抑えようとする動きにつながり、結果として、失業率も上昇してしまい、政府の当初の思惑を達成できなくなってしまったようです。最低賃金の引き上げが、直ちに間違っている訳ではないのですが、効果が得られない状態で実施すれば、無意味であったり、逆の効果が出てしまったりします。話を戻して、繰り返しになりますが、日本の労働法制も、国民の間で、もう少し幅広い議論を経てからでないと、効果のあるものにならないと、冒頭の新聞記事を読んで感じました。

ちなみに、この事例は、労働法制に限らないと思います。一般の会社においても、規則だけはたくさん作られるものの、それが有名無実化の状態になっていて、規則そのものが無意味になっていたり、規則そのものを守ることが目的化されて、本来の主旨が実践されないということも珍しくありません。繰り返しになりますが、前述の記事の事例は、本来は、労働者を守るための法律が、逆に、労働者の雇用を守るために機能していない結果になったことの表れであり、規則の整備は、実態に鑑みる必要性が高いということを学ぶ事例になっていると思います。

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融資コンサルタントは何をしてくれるのか

先日、「融資コンサルタント(または、資金調達コンサルタント)は、クライアントに対して、どういう支援をするのか」という質問をうけました。確かに、「融資コンサルタント」は何をしてくれるのかという点については、ぼやっとしているように、私も思います。その一方で、融資コンサルタントを名乗る人はたくさんいて、かつ、それぞれ、独自のやり方で仕事をしていることも事実で、一律にどういった仕事をしているのかを明確にすることも難しい面があります。

ただ、これまでに私がご相談を受けて来た経営者の方のお話を聴くと、「自分の代わりに銀行に行き、融資の承認を得られるよう、銀行を説得してきて欲しい」という要望を持っている方が多いと感じています。本旨からそれますが、私はこのようなご依頼は受けません。確かに、融資を受けたい会社から見ると、融資コンサルタントに銀行との折衝を代わりに行ってもらえるとすれば、自分は面倒なことをしなくても済むようになると感じられるかもしれません。しかし、銀行から見ると、経営者の顔が見えない会社からの融資の申し込みは、承認しにくいことに加え、銀行との関係が疎遠になってしまいます。

このようになることは、顧問先にとって好ましくないことであり、そのようなことにコンサルタントが手を貸すとすれば、本当に顧問先を助けることにはならなくなってしまうので、私は融資の折衝の代行はお受けしていません。話を戻して、では、融資コンサルタントはどういうことで顧問先の役に立つのかというと、私の考える融資コンサルタントの役割は、顧問先が融資を受けられやすくなるようにするためのご支援をすることです。前述の、融資の折衝を社長に代わって行うことは、手続きの代行であって、顧問先が融資を受けられやすくなるためのご支援ではありません。

では、具体的に、融資を受けられやすくなるためのご支援とはどういうことかというと、そのひとつは、顧問先のポテンシャル(潜在能力)を深堀りし、銀行がそれを納得できるよう、客観的な資料としてまとめることです。銀行が融資審査を行うに当たっては、融資相手の会社に対して目利き能力を発揮することが求められていますが、実際には、必ずしもそれが発揮されているとは限りません。その理由のひとつは、1つの案件に対して多くの時間を割くことができないという事情もあります。そこで、私のような融資コンサルタントが会社の情報を詳しく分析し、その結果が客観的なデータとなって明らかになれば、銀行も融資の承認を行いやすくなります。

ただ、これは、もともと会社にポテンシャルがあるということが前提になります。すなわち、ご相談を受けた会社の中には、融資コンサルタントが会社の状況を詳しく分析をしても、融資の承認理由として取り上げられそうな材料がとぼしく、融資の承認を得ることが難しそうだということもあります。そのような場合は、融資コンサルタントが事業の改善策を提案してそれ実践してもらい、その結果、業況の改善の傾向が見られれば、そこを銀行に評価してもらって融資の承認につなげます。

ここまでの融資コンサルタントの役割についての内容をまとめると、(1)融資を受けたい会社のポテンシャルを、銀行が分かりやすいようにまとめること、(2)ポテンシャルが少ない場合は、それが増加するよう助言することの、2点です。融資を受ける意味は、会社の業況を改善するための手段にすぎず、最終的な目的は、会社の事業の発展です。融資を受けることそのものを目的にしてしまうと、本当の事業の目的である、事業の発展に目が行かず、事業を運営する意味もなくなってしまうということに、十分に注意しなければなりません。

 

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経営者は融資の仕組みを知る必要はない

いま、銀行からの融資を受けることに苦心しているであろう中小企業経営者の方向けに、銀行から上手に融資を受けるための情報が、書籍やインターネット上にあふれています。しかし、これは以前から私がお伝えしていることでもありますが、中小企業経営者の方は、銀行の融資の仕組みに詳しくなる必要はありません。その理由のひとつは、これは私の経験から感じることなのですが、会計については、人によって向き不向きがあるからです。
 
例えば、銀行職員は、数字に強いと思われがちですが、銀行が融資をしている顧客の決算書を見て、融資の可否を判断できる人は、割合としてはあまり高くありません。恐らく、半分どころか、多くても30%くらいだと思います。ただ、話がそれますが、このことは大きな問題ではありません。銀行の業務は、融資業務以外にも、預金業務や為替業務もあるので、会計が苦手な職員は、融資業務以外で能力を発揮できるからです。

話をもどすと、この会計の向き不向きは、中小企業診断士試験でも見られます。私が、中小企業診断士受験生の時のことでしたが、中小企業診断士試験には、経済学・経済政策、企業経営理論など、8つの試験科目(現在は、7科目)がありますが、そのひとつである、財務・会計に関してだけは、得意な受験生と苦手な受験生に明確に分かれていました。すなわち、財務・会計を得意な受験生は高得点を取る一方で、苦手な受験生はあまり高い点を得ることができないという傾向にありました。きちんとした統計データはありませんが、財務・会計の試験結果については、平均点付近の得点者が最も多いという正規分布ではなく、得意な人たちが高い得点で山をつくり、苦手な人たちは低い得点で山をつくるという、ふたこぶらくだのような分布をしていると言われています。

ここまで、銀行職員と中小企業診断士試験受験生について例をあげましたが、お伝えしたかったことは、会計については、得手不得手が分かれやすい分野になっているということです。もちろん、会計が苦手なビジネスパーソンは少なくありませんが、そのことだけで問題になるわけではないということは、言うまでもありません。逆に、会計が得意であっても、例えば、人間関係の構築が苦手といったビジネスパーソンを、私は、これまでにたくさん見て来ました。ビジネスパーソンは、最終的には、総合的な能力が問題になって来ると思います。

話を戻すと、俗っぽく言えば、銀行の融資担当者は、ある面で、会計オタクのようなものです。だから、通常は、自らが経営する会社の事業で活躍している経営者の方が、わざわざ専門書を読んで、銀行の融資の仕組みを理解し、融資担当職員と同じ考え方に合わせて事業を行おうとする必要はまったくないと、私は考えています。また、仮に、私が銀行の融資担当者であったとしたら、やたらに銀行の事情に詳しい会社経営者の方が、融資の申し込みに来た時、逆に、「どうしてそんなに銀行の事情に詳しいのだろうか?何か銀行に言えない隠しごとがあり、銀行をあざむこうとしているのではないか?」と、警戒するでしょう。

とはいえ、融資を思うように受けることができないために苦心している会社経営者の方は、その状況を改善したいと考え、書籍やインターネットとから、融資を受けやすくなるためのノウハウを得たいと考えたくなるでしょう。しかし、私は、そのための労力は、自社の事業の改善のために使うことの方が、融資を受けやすくなるようになるための近道だと考えています。銀行の融資担当者は、財務分析は得意かもしれませんが、業績を改善する方法に関する知識量では、常に事業の現場にいる経営者の方にはかないません。繰り返しになりますが、自社が融資を受けやすくなる近道は、融資の仕組みに詳しくなることではなく、自社の業況を改善することに尽きます。

 

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